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罪の一歩目

その日は、

返さなかった。


返さなかったというより、

返せなかった。


菜月のメッセージは、

一昨日の夜に届いていた。


一人でスカイツリーに登ったこと。

綺麗すぎた夜景のこと。

そこで、

何かを埋めてきたという話。


読み終えた瞬間、

思っていたより重いものが

胸に落ちてきた。


こんな話だとは、

正直、思っていなかった。


軽い返事で済ませるつもりだった。

曖昧に笑って、

踏み込まずに済ませるつもりだった。


でも、

そうはいかなかった。


引き返す方向を、

一瞬だけ見た。


ちゃんと見た、

はずだった。


そこに何があったのかは、

はっきり思い出せない。


たぶん、

見えた気がした。


でも、

得意なふりをした。


見なかったことにして、

そのまま、

目を逸らした。


その夜 のアルバイト中も、

頭から離れなかった。


休憩中、

喫煙所で火をつけたタバコが、

指先まで短くなっていることに、

気づかなかった。


火種が、

限界まで近づいている。


それでも、

意識はそこになかった。


昼休み。


ようやく、

スマートフォンを手に取る。


誤魔化すこともできる。

軽く受け流すこともできる。


逃げるなら、

今だ。


そう思うのに、

そうしてはいけない気がした。


この人は、

自分と同じだ。


捨ててきたものがある。

でも、

捨てきれていない。


自分は、

捨てたいのか、

捨てたくないのか。


それすら、

わからない。


だから、

まだ、

抱えたままだ。


潰されそうになりながら。


画面を見つめる。


短くは、

書けなかった。


共感しようとしているのか。

正当化しようとしているのか。


それも、

わからないまま。


――そうだったんですね。


指が止まる。


――そんな場所だったんですね。


ここで、

やめればいい。


でも、

やめなかった。


――こんなことを言って、

不躾だったらすみません。


心臓が、

はっきり音を立てる。


――もしよかったら、

いつか一緒に行きませんか。


送信。


その瞬間、

わかった。


測っていない。

距離も、

立場も。


男としての自分が、

そこにいた。


防波堤を、

越えたのだと思った。


足だけじゃない。

身を乗り出した、

なんて生易しいものでもない。


もう、

全身だった。


とっくに濡れていると、

認めてこなかったこと。


思い知らされたと同時に、

犯した罪の一歩目が、

くっきりと泥沼に残っていた。

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