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#文豪
アオ
54
120
265
鈴 嶺
40
終わってないのに新連載です…!
他のも続きやるので!ご安心を。
今回は完全オリジナルです!
是非楽しんでいってくださいね!
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千九百四十五年
一人の少女が、着物が泥で汚れることも厭わずに座り込んでいた。
嘆き、苦しむ人々に追い打ちをかけるように降り注ぐ水は、当人達にとっては恵みの雨と言えた。
そんな中を、女性が歩いている。
「お嬢ちゃん、こんな所に居たら、死んじまうよう。お母さんは何処だい?」
中年ほどに見えるその女性は、少女に話しかけていた。
少女の装いは、この時代にそぐわない、美しいものだ。
梅雨の紫陽花を思わせる、鮮やかでありながらどこか控えめな暗い京紫色の髪を、ハーフアップに結っている。結び目には、星屑のように銀の輝きが散りばめられた、薄浅葱色の、大きなリボンの髪飾りをつけていて、顔の横にアシンメトリーな長さで伸びている髪は、右側だけが編まれていた。
水浅葱の、落ち着いた印象を与える着物は、下にいくに連れ、若竹色へと綺麗なグラデーションになっており、紫陽花や菖蒲、水流のような模様が施されている。琥珀色の帯が、彼女の聡明さや、温かみを見事に表現していた。
「………」
少女は返事をしない。
「幾つだい?」
女性は涙を流し、ふらふらと歩いていた。きっと、大切な人を亡くしたのだろう。それでも少女を助けようとしてくれている。
その事実に気づき、少女は口を開く。
「わたくしは、名前をもっておりません。自分がいつから存在するのかも、何も、知らないのです」
悲しげな声だ。しかし、よく通る、きれいで高い声だ。
「最初の記憶は、もう百年以上前なのですから」
その言葉は、女性を驚かせるどころか、呆れさせた。
「何言ってんだい。どう見たって、十四程度のお嬢ちゃんじゃないか」
少女はまた口を閉ざす。
「私は喜代だよ。ほら、逃げないと」
「わたくしのことはお気になさらず。どうぞ逃げてください」
ゆっくりと振り返り、少女は言った。世にも珍しい小鴨色の、嘘偽りのない瞳を向けられ、喜代と名乗る女性はたじろいだ。
だが、少女の見つめていた先に、人間の遺体があることが分かり、もう一度言う。
「逃げるよ!あんたは生きなきゃいけないんだよ!」
「やめてください…!わたくしは良いのです!」
「良いもんか!命を粗末にしちゃいけないよ!」
喜代も負けじと少女の腕を引っ張ったが、抵抗する力は、思いの外強かった。
「逃げてください!」
少女が叫ぶと、上空を無数の影が旋回し始めた。爆撃機だ。次々に爆弾を落としていき、まだ建物が残っている場所を更地にしていく。
「………ほら、行くよ!!」
喜代が少女の方を向くと、そこにもう少女は居なかった。
喜代が空を見たのは、ほんの一瞬だったというのに。
「お嬢ちゃん?何処だい?」
あたふたしているうちに、数多の爆弾が此方に向かって飛んできた。
もう、雨は止んでいた。