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おと
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#Mrs. GREEN APPLE🍏
こんぶ@ミセス推し
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kurara
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東京へ帰る日の朝は、驚くほどに白く、澄んだ光に満ちていた。涼しい朝霧が家の周りを包み込み、遠くの山々はまだ眠りの中にあるかのように静まり返っている。鳥たちのさえずりだけが、静謐な高原の空気に小さく響いていた。
玄関の前では、父親が車のトランクに大きなボストンバッグを積み込んでいた。ガチャン、という重たい閉鎖音が、僕たちの夏の終わりを告げるカウントダウンのようだった。
「元貴、もう出発するぞ。忘れ物ないか?」
車内から聞こえる父親の声に、僕は助手席のドアノブを掴んだまま、ぴたりと動きを止めていた。
胸の奥が、ちくちくと痛む。足元に置いたリュックサックの中には、あの絵日記が入っている。昨夜、ベッドの中で何度も何度も読み返し、僕の涙でさらにページを波打たせてしまった、僕とりょうちゃんの証明書。
昨日の夕方、僕は醜い心に負けて、りょうちゃんから逃げ出してしまった。引き止めようとする指先を振り切って、ひどい言葉を投げ捨てたまま、僕は東京に帰ろうとしている。
本当に、このまま帰っちゃうんだ。涼ちゃんは、僕が怒った理由も分からないまま、今日も僕のことを忘れて、また一人でアリの巣を見ているかもしれないのに…。
「…お父さん、ちょっと待ってて!」
気づいた時には、僕はリュックサックから絵日記を引き抜き、走り出していた。
「おい、元貴!?どこへ行くんだ!」
後ろで父親が呼び止める声が聞こえたけれど、今の僕にはそれを振り返る心の余裕なんてなかった。
冷たい朝の空気を胸いっぱいに吸い込みながら、ただひたすらに、りょうちゃんの家へと続く坂道を駆け上がる。途中で何度も足がもつれそうになり、心臓が破裂しそうなくらいに激しく脈打つ。でも、ここで止まったら、一生後悔するということだけは、7歳の僕にもはっきりと分かっていた。
「りょうちゃん…!りょうちゃん!」
息を切らせて家の庭へと飛び込むと、そこには、昨日とまったく同じ場所にしゃがみ込んでいるりょうちゃんの姿があった。朝露に濡れた草むらの中で、りょうちゃんは僕の足音に驚いて、ふわふわとした髪を揺らしながら振り返った。
その瞳は、昨日僕がひどいことを言って走り去ったことなんて、これっぽっちも覚えていない、いつもの穏やかで優しい、無垢な輝きを湛えていた。
「あ…おはよう!もときくん、だよね?」
首をかしげて、りょうちゃんが小さく微笑む。その名前につくハテナが、いつもなら僕の胸を刺すはずなのに、今朝はなぜか、不思議と温かく響いた。
「そう、元貴だよ…。」
僕は膝に手を突いて、激しく荒い息を整えながら、ボロボロと溢れ出てくる涙を拭いもせずに言った。
「東京から来た、元貴。りょうちゃんの、友達だよ。」
一歩、りょうちゃんへと近づき、両手で抱きしめていた絵日記を、胸へとそっと押し付けた。
「これ、あげる。昨日、渡さなくてごめんね。これはね、僕とりょうちゃんが、この夏に一緒に過ごした宝物なんだ。川で泳いだこと、スイカの種を飛ばしたこと、トマトが嫌いなこと、ひまわり畑で雨宿りしたこと…全部、ここに書いてあるから。」
りょうちゃんは少し戸惑ったように、僕から差し出されたノートを受け取った。表紙の拙いクレヨン画を見つめるりょうちゃんの手が、微かに震えている。
「どっか、行っちゃうの?」
「僕今日、東京に帰るんだ。秋になっても、冬になっても、しばらくはここに来られない。だから、りょうちゃんが僕のことを忘れちゃっても、この日記を見て。これを見れば、いつでも僕たちの夏に会えるから。」
涙が止まらなかった。寂しくて、離れたくなくて、声が震えて上手く喋れない。
「りょうちゃんが忘れちゃってもいいんだ。僕が、僕が絶対に忘れないから!りょうちゃんが僕のことを全部忘れちゃっても、僕が一生、りょうちゃんとの夏を覚えているから…!」
僕が顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっていると、りょうちゃんは日記を抱えたまま、じっと僕の顔を見つめていた。その時だった。りょうちゃんの瞳に、じわりと大きな涙がたまっていった。
「もときくん…。
トマトが嫌いで、…いっつも絵日記を見せてくれて、…かけっこが速くて…来年も、一緒に花火見ようねって約束した…もときくんだ…ね?そうだよね?」
りょうちゃんの口から、奇跡のように僕との記憶がこぼれ落ちた。記憶は消えているはずなのに、僕の流す涙を見て、僕の必死な叫びを聞いて、心が、魂が、僕を思い出したのだ。
僕はただその言葉にこくこくと、必死に頷くことしかできなかった。口に入る涙がしょっぱい。
そして、りょうちゃんの手が動いた。日記を片手でしっかりと抱え込んだまま、もう片方の手で、僕のシャツの裾を指で、きゅっと、強く強くつまんだ。
雨のひまわり畑の時よりも、昨日僕の袖をかすめた時よりも、ずっとずっと強い力だった。まるで、「行かないで」という叫びをすべて込めているかのように。
それを見た瞬間、僕の中の愛おしさと切なさが、限界を迎えて決壊した。りょうちゃんは、ちゃんと僕を覚えている。頭じゃない。他の全部が、僕らの夏のすべてを覚えてくれている。
でも、時間はせまっている。僕らの夏は、もうすぐ終わってしまう。
「…りょうちゃん、大好きだよ。」
僕は掴まれた裾をそっとほどくようにして、小さな肩を引き寄せた。そして、朝露のように透き通ったその頬に、そっと、最初で最後の、軽いキスをした。
触れた皮膚は驚くほどに柔らかくて、ほんのりと温かかった。
キスをされたりょうちゃんは、丸い目を見開いたまま、ぽかんとして動きを止めていた。その頬には、僕の涙の跡がひとすじ、きらきらと光って残っている。
「またね、りょうちゃん。絶対、また会いに来るから。」
僕はそれだけ言うと、りょうちゃんの待って、という声を振り切るように、坂道を駆け下りた。
走りながら一度だけ、心の中で「忘れないで」と強く祈った。けれど、もう昨日までの黒い塊は消えていた。忘れてしまってもいい。この日記がある限り、そして僕が覚えている限り、僕たちの夏はきっと消えない。
遠ざかる元貴の背中を、涼架は庭に佇んだまま、ずっと見つめていた。手の中にある色褪せた絵日記と、頬に残るかすかな熱さ。そして、胸の奥がぎゅっと締め付けられるように苦しい理由が分からないまま、涼架は静かに、去りゆく夏を見送っていた。
初夏 過
コメント
7件
読んでて涙がでました。 元貴と涼架の夏が終わっちゃったんだと 改めて思いました。 涼架の記憶は戻ってきたんじゃないか?って思ったり。 大人になった 元貴と涼架を見てみたいです。
更新ありがとうございます💕 はぁ、❤️くん日記渡せて良かった… 💛ちゃんが彼とのこの夏一緒に過ごした事ちゃんと心で覚えていたんですね🥹 2人にこれからどんな夏が待っているのか、とても楽しみです✨ また続き楽しみにしています💕
うわ…読んでて胸がぎゅってなったよ…🥀 元貴が「忘れてもいい、僕が覚えているから」って言うところ、悔しくて切なくて、でもそれ以上にまっすぐで、心臓が痛かった。涼架ちゃんが思い出した瞬間、涙が止まらなかった。頭じゃなくて、心と魂がちゃんと元貴を覚えてるって、そういう表現すごく好き。 最後のキス、ほんの一瞬なのに全部の想いが詰まってて、読んだ後にしばらく余韻から抜け出せなかった…🌙