テラーノベル
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二宮は暫く走ると、涙は枯れ、次第に虚無感が体中をひしめく中、ただ夜の道を只管に歩いた。
「ここ……来たことがある……」
来たはずのない地理だが、二宮は確かにその場所に既視感を感じ、少しだけ正気に戻る。
スマホを確認すると、深夜も二時を過ぎていた。
ブロロロロロロ……
夜間の為か、小さな音を立てて行方のバイクは二宮へと辿り着いた。
「行方くん……私、補導されちゃうね」
「まあ、僕がいるからギリギリセーフだ。しかし、因果なものだ。この場所に来るとは……」
二宮と行方のいる場所は、半径2キロメートルに及び草木も生えない荒野だった。
しかし、建設物があったと思われる崩落した家や、公園の跡地などが形を模して残っている。
「ここ燃やしたの、私でしょ」
「違う」
「嘘つき」
そうして、二宮と行方は暫く夜の荒野を歩く。
「この場所……水路と段差……見覚えがある……」
「ここは昔、畑だった場所だ。階段になっていて、子供の身体では登るのが大変だったな」
二宮の脳裏に、記憶が薄らと蘇る。
「私、誰かの手を引いた……男の子……」
そう呟く二宮を、行方はそっと見つめていた。
そうして再び歩き始める。
「ここ……公園……?」
焼け焦げたブランコや滑り台が、生々しく残骸として残されていた。
「そうだな。あまり広くない公園だ。しかし遊具は豊富で、子供たちの取り合いになっていた」
「行方くんもここに住んでたの?」
「言っただろ、ずっと監視してきたと」
「そっか。だから知ってるんだ」
そうして再び歩き始める二宮。
しかし、一歩目でまた一人の少年が頭を過ぎる。
「あれ……」
「どうした?」
「私、特定の男の子といつも一緒にいた記憶があるの。行方くんずっと見てたんでしょ? 分からない?」
「その少年は……」
「やっぱりやめて!!」
行方の言わんとしていることが分かってしまった。
この荒れた土地。
どうなったかなんて、少し考えれば分かる。
そうして、二宮は再び歩き始めた。
「この円の中心が、私の家だったんだね」
「そうだ。ここでフェニックスの暴発、つまりは二宮の異能発現が起きた場所だ」
俯き、諦めたかの様に笑いながら、二宮は口を開ける。
「その時の……死者数は……」
「二名だ」
思いもよらない答えに、二宮はハッとする。
「ねえ……さっきから嘘ばかり吐かないでよ!! こんな大きな事故で、死んだ人が二人だけな訳ないでしょ!?」
「事実だ。お前の父母。その二名だけだ」
行方の真剣な表情に、戸惑いを露わにする。
そして、ずっと頭に過っていた少年の顔が、二宮の脳内にハッキリと現れる。
「アキくんだ……。私、あの男の子のこと、アキくんって呼んでた……」
行方は変わらない顔で二宮を見つめる。
「行方くん……アキくんって……行方くんだよね……?」
『ゆくあき! ぼくの名前はゆくあき、だよ!』
『うくあき……? 呼びづらい!』
『じゃあアキでいいよ。施設のみんなもそう呼ぶし』
『じゃあ、アキくん!』
ニコリと、行方は笑みを浮かべた。
「思い出したね、ニノちゃん」
「アキくん……」
再び、二宮の瞳には涙が溢れた。
「君の記憶を奪ったのは僕だ。今から、君の記憶を全て返そう。準備はいいね」
そうして、一つのボックスを開き、中には頑丈なアタッシュケース。その中から更にボックスが現れた。
「準備……いいよ……。ちゃんと全部、思い出したい……」
その言葉を合図に、ボックスを二宮の額に当てた。
少しの時間の後、二宮は涙を溢れさせた。
「ごめんね……ごめんね……アキくん……」
行方も、一粒だけ涙を落とし、その言葉を聞き入れた。
「謝るのは、僕の方だ…………」
時は、12年前へと遡る。
当時、行方行秋7歳、二宮二乃5歳。
二人は、県境の自然豊かな町に住んでいた。
「見て見て! ニノちゃん! 僕にも異能が発現したんだよ! ほら!」
行方は、7歳にしてようやく異能が発現していた。
物を引き寄せる、ただそれだけの異能だった。
しかし、子供ながらに行方ははしゃいでいた。
「すごい! 魔法みたい! アキくん凄いね!」
「僕ももう小一だからね! こんなの朝飯前だよ!」
しかし、7歳での異能発現は遅いとされており、行方以外の子供たちはとっくに異能を私生活に活用していた。
そんなある時。
「どけよ! ウスノロ!」
公園の遊具の奪い合いで、行方は同級生からイジメの対象となってしまった。
行方の異能自体も全く戦闘向きではなく、『物体を引き寄せるだけ』という力も、子供ながらに弱い者として扱われてしまっていた。
「アキくんを虐めないでよ!!」
そんな時、蹴り飛ばされる行方の前に現れたのは、異能発現前の二宮だった。
「女がなんなんだよ! 邪魔! ウスノロ連れてどっか行っちまえ!」
「アキくんはウスノロじゃないもん!!」
そう言いながら、がむしゃらに行方の同級生たちを叩き、蹴られて泣いても行方を守ろうとした。
諦めた子供たちは、いつまでも退かない二宮の姿勢に、どこか別の場所へと遊び場を変えた。
「えへへ、アキくん大丈夫?」
「ニノちゃん……ごめん……僕のせいで……そんなボロボロになっちゃって……」
「私は大丈夫! ヒーローになるから!」
「ヒーロー?」
「そう! 弱い人を助ける人のこと! 知らないの?」
「凄い! ニノちゃんならなれるよ! 異能が発現した僕よりも強いんだもん! ヒーローになれるよ!」
二人は、ボロボロな身体を洗う為、二宮の家に行く。
「あらあら、二人ともこんなボロボロになって……。先に、早くお風呂入っちゃいなさいよ!」
二宮の母は、優しく二人を出迎える。
事情を聞くなんてことはしなかった。
「アキくん、今夜泊まって行くわよね? 施設の方、連絡入れておいてあげるね」
「わー! ありがとうございます!」
二宮の母は料理が上手で、行方の為に行方の大好物の唐揚げや、様々な料理を振る舞ってくれた。
施設暮らしの行方にとって、こんな幸せはなかった。
夜も、行方は自慢気に、二宮に異能を披露した。
「ほら、見ててよー」
その瞬間、扉はパタリと開かれる。
「まだ起きてるのー? 早く寝なさいよー」
「あ、おばさん! おばさんも見てよ! 僕もやっと異能が発現したんだよ!」
そして、二宮の母にも引き寄せる異能を見せた。
「わ、とても便利な異能を手に入れたわね!」
「へへへ、そうでしょ!」
眠気からか、二宮は母に抱き付く。
「ねえ、ママー! 私も早く異能発現したい!」
少し寂しそうな顔を浮かべ、二宮の母は訊ねた。
「ねえ、二乃。貴女はどんな異能が欲しい?」
「ママみたいな炎を出せる異能! あ、でも、パパみたいに空を飛べる異能もいいな〜! でも、ママとお揃いがいいから、やっぱり炎の異能かな!」
「あら、私と同じ火の異能なのね?」
「うん! そうだと私嬉しい!」
その夜、二宮の異能は発現した。
突如として、二宮の背から炎の翼が生えたのだった。
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