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突如、二宮から炎の翼が生えると、二宮本人は意識を失っているようで、徐々に大きくなっていった。
周りの家具も、次々に燃えてしまっている。
「ニノちゃんのお母さん……これって……」
部屋はゆっくりと火に飲み込まれて行く。
二宮の母は、覚悟を決めた顔を浮かべていた。
「アキくん、大丈夫。君も、二乃も、必ず守ってみせる。必ず……。あなた!」
二宮の父は、幼い行方を抱き抱えた。
その瞳には涙が浮かんでいた。
「飛行してアキくんを避難させて。二乃は、私が命に変えても守ってみせる……私の家の問題だから……」
「守ってやれなくて……すまない……」
そんな、覚悟を示す二人の前に現れたのは、白装束を纏った集団だった。
「誰!? 貴方たち!?」
「こんばんは、異能教徒です。これが起源の炎……フェニックス……。異能の発現を待ち望んでおりました」
そう言うと、一人の男は平然と二宮に近付く。
「二乃に何をする気!?」
「連れて行くのです。放っておけば、この町一体が火の海になってしまう。我々異能教徒は、この神なる力を有効に活用しようと参った次第」
「許さない……二乃を連れ去るなんて許さない!!」
二宮の母は、両手から炎を溢れさせた。
「町人たちを犠牲にしても、娘を守ると……?」
「初めから覚悟は出来てるわ……」
しかし、突如として白装束の集団は消えた。
残ったのは、たった一人の少年だった。
「お前たち、気に入った」
「え……?」
「俺は異能教徒の幹部だ。まあ、洗脳に掛かったフリをしていただけで、もう飽きてきたし、フェニックスも拝めたからもう辞めようと思ってたんだけど……」
急な展開に、行方も、二宮の父母も戸惑いを隠せずにただただその少年を眺めていた。
「お前たち、自分の命を賭したとしても、この娘を守りたいか?」
「当然!!」
少年の問いに対し、二宮の母は即答した。
二宮の父も、母の背を支えていた。
「そこのガキ。お前はどうだ」
「僕も……僕もニノちゃんを守りたい……!」
「アキくん……」
少年はニヤリと笑う。
「今から神の力をお前たちにやる。この力は個々の異能を人間の奥底の最大限にまで引き出す力だ。運が良ければこの町の人間、及びこの娘は助かるが、最大限にまで引き出されたお前たちの命の保証はない。それでもいいな?」
「神の力……そんな力があるなら……やる……! やります! 使って! その神の力を……!!」
再び笑みを浮かべると、三つのボックスを取り出し、それぞれを三人に手渡した。
二宮の炎の翼は次第に大きくなっていく。
「迷っている暇はない……やるぞ……」
そして、三人はボックスを胸に当てた。
「なんだ……この力は……!」
三人は、膨れ上がる力を感じ、目を丸くする。
「この力があれば、僕の浮遊能力でこの町の人たち全員を浮遊させて避難させられるぞ……!」
「私のこの火炎の火力なら……二乃のフェニックスを掻き消せる程の火炎が出せるわ……」
そんな、覚悟を決めた二人を遮るように、行方は立ち上がり、二宮に近付いた。
「ちょっと……アキくん……!?」
「そんなことしなくても大丈夫だよ、おばさん……」
行方が二宮に近付く度、二宮から出される火炎は少しずつ消えて行く。
「何が起きて……」
「僕の異能は引き寄せる力だった……。でも、強化されたことで、なんでも吸収する力になったみたい。だから、僕がニノちゃんの異能を吸収する……!」
「そんな……アキくんが命を掛けなくても……」
「もうこのボックスは使用した。それに、僕が吸収しちゃえば、もう異能教徒に狙われることも、フェニックスの暴走に怯えることもなくなるでしょ?」
涙を落としながら、静かに行方は笑っていた。
「僕の両親は僕を守る為に亡くなった。だからよく分かるんだ。これが僕の使命。おばさんこそ、ニノちゃんにとっていなくなっちゃいけないんだ」
止める二宮の母を置いて、行方は力を込めると、二宮から漏れ出している全ての炎を吸収した。
「アキ……くん……?」
そして、二宮は意識を取り戻す。
「よかった……ニノ……ちゃん……」
そのまま、行方は地に伏した。
「ふふ、アキくん。二乃が素敵な友達を持てて良かった。でも、ごめんね。母の勤めは全うさせてもらうわ……」
そう言うと、全身から炎を出し、二人を抱き締める。
「ママ……?」
「二乃……聞いて……絶対にこの異能を悪事に使ったらダメよ……。約束して……貴女の異能は、誰かを守る為の力なのよ……」
二宮の母は、二宮にそう告げると、異能教徒の少年を見遣る。
「君、こんな力をありがとう。きっと私の旦那が今頃は全員を避難させられた頃だと思う。君には感謝してもしきれない。だからこそ、今すぐに逃げて。私たち起源の炎を受け継ぐ二宮家の人間は、この火炎を攻撃以外の力として使うことができるの。でも、それには大きな爆発を伴う。だから、君はすぐに避難して」
「はは、知ってるよ。二宮家に引き継がれる火炎の力、その真髄は、不死鳥の名に恥じない『不滅の炎』。爆発を伴うとは知らなかった。直に見たかったけど仕方ないね」
そう言うと、少年はその場から消えた。
そして、町全体を、大きな炎が包み込んだ。
中心に寝転がる二宮と行方。
二人の意識は、何日も戻らなかった。
「戻ってきて正解だ。二人は保護されてないね」
その声に、行方は目を覚ます。
「あれ……生きてる……?」
「やあ、こんにちは。二宮の女が君たち二人とも守ったんだ。流石は二宮家の不滅の炎だ」
「おばさんに……守られたんだ……。僕は何回……」
そして、キリッと行方は少年を睨む。
「ねえ、僕を……僕を強くしてよ……! 異能教徒だろうとなんでも入ってやる……! だから、もうニノちゃんを傷付けないくらい、強くしてよ……!!」
その声に、少年はニヤリと笑う。
「いいよ。君みたいな人は大歓迎だ。俺の部下にしよう。その代わり、君は異能を失う。いいかい?」
「どうして……?」
「まず一に、君は二宮二乃からフェニックスの異能を吸収できてはいない。吸収したのは漏れ出ている炎だけだ。まあ、それがなければ今頃は、この辺り一面以上の被害が及んでいたわけだが……」
行方は真っ直ぐな視線を少年に向け続ける。
「ふふ、そう怖い顔をするな。人から異能を消すと言うことは、命を消すことと変わらない。従って、フェニックスがこの子に発現した以上、取り消しは出来ない。でも、今回みたいに吸収もできない。何故なら、神の力を使い、本当は死ぬほどの力の放出があって成し得た。二宮の女がいなければ、次に今みたいな力を使えば君は死ぬ」
そして、少年は再びボックスを取り出す。
「ここには僕が殺した神の力が封印されている。この力と、君の吸収の異能を融合させる。そして、このボックスを君に渡そう。そうすれば、君は基本的には無能力者にはなるが、二宮二乃のフェニックスを唯一止められる存在になれる。その時しか使うことは出来ないけどね」
「分かった……。それでニノちゃんが助けられるなら、僕はなんでもする……!」
「いい覚悟だ。じゃあ、この先はどうする? この子も一緒に異能教徒に連れて行くかい?」
行方は立ち上がる。
「いや、ニノちゃんの記憶を消して僕だけが行く」
少年は向き合い、笑みを浮かべる。
「いい答えだ。君の願いのままにしてあげよう……」
再び、少年はボックスを掲げると、二宮の額に当てた。
「この記憶のボックスも君に預けよう。二宮家は縁が近いからね。娘を二宮家の血筋の家にでも置いておけば、きっと勝手に育ててくれるだろう」
「ありがとう……。あの、君の名前は……」
「紹介が遅れたね。これから君の上司になるのに……」
すると、少年は仮面を外し、微笑んだ。
「夏目夏人、もう暫くは異能教徒の幹部だ。辞める時は、君も共に連れて行こう」
そして二人は、夏目のワープで異能教徒本部へと向かった。