テラーノベル
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「……また負けた……」
ハルカの部屋。
ゲーム画面には、無情な「LOSE」の文字。
マッチ後の成績表には、キル1・デス7。また味方に申し訳ない結果になっていた。
「うぅ……なんでうまくいかないの〜〜〜……!」
コントローラーをギュッと握る手が震えている。
C帯はなんとか抜けたけど、B帯からが本当の勝負だった。敵も味方も、動きが違う。自分だけが取り残されている気がして——
(わたし……向いてないのかな……)
そんなとき、ふとスマホの通知が光った。
「……レイちゃん、配信始めてる!」
スマホを手に、ハルカはベッドにごろんと横になる。
画面には、あのレイ——憧れの存在。
黙々とリッターを構えて、冷静に、そして華麗に敵を抜いていく。
(やっぱり……かっこいいなぁ)
ふいに、チャット欄のコメントを読んだレイがぽつりと口を開いた。
「B帯とかC帯で止まってるってコメント、よく見るけど……」
画面の向こうのレイが、少し微笑んだ。
「下手でも、やめなかった人が上手くなるから。諦めなかった人だけが、上に行けるんだよ」
その言葉に、ハルカの胸がズキンと痛んだ。
(……わたし、ちょっと諦めかけてたかも)
「続けるのが一番大変。でも、それが一番大事だから」
——レイの言葉は、まるで画面の中から直接ハルカの心に届いたかのようだった。
「よぉしっ……やってみるか!」
ハルカは意を決して、初めてひとりでリグマ(リーグマッチ)にエントリーした。
マッチングされたのは、自分よりちょっと強そうな味方たち。
マップは「海女美術大学」。敵に強そうなチャージャーもいる。
(ビビってたらダメ。少しずつでいい……一歩ずつ、前に出る!)
ガチマッチじゃない、でも“本気の戦い”。
仲間のために、塗る。敵を見つけたら、逃げずにローラーを振る。
キルされても、ちゃんとマップを見る。リスポーンしても、無駄に突っ込まない。
(少し……前より見えてる……!)
結果は——惜しくも負け。でも、リザルト画面には「5k4d」。
前より、ずっといい数字だった。
「よしっ……この調子……!」
ゲームを終えて、ちょっと外の空気が吸いたくて、コンビニまでおやつを買いに出た帰り道。
スマホでまた、レイの配信が流れていた。
「今日の大会、見てくれた人ありがとう。……あ、次は全国大会だね」
(全国……。レイちゃんは、やっぱり遠い存在だなぁ)
すごく憧れる。けど、届きそうにない。そんな思いが、一瞬よぎる。
でもすぐに、心の中でレイの言葉が蘇った。
「やめなかった人が、上に行ける」
「……だったら、わたしもやめないよ」
コンビニの袋をぶら下げて、ハルカは夜道を軽やかに歩き出した。
遠くに見える星空——その中に、レイという名前の星が確かに光っていた。
「ハルカ、初めてのA帯へ挑戦!——“味方批判”の闇に触れるとき」
少しずつ見えてきた景色。でも、上がれば上がるほど増えていくピリピリした空気。
「お前ローラーやめろ」
そんな言葉に、心が折れそうになったとき——
ハルカが見つけた“本当の楽しさ”とは?
次回、「ヒーローの背中を、追いかけて」お楽しみに!
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