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9 - 私たちに未来は無い

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2025年06月07日

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「ねぇ、もしさ――このまま10年後も生きてたら、何してると思う?」


放課後の屋上、今日も風が冷たい。

優羅は膝を抱えたまま、美咲の問いに答えられずにいた。


10年後。


そんな遠い未来のことなんて、考えたこともなかった。

考えたくもなかった。


「たぶん…何もしてない。どこにもいない」


「私も。死んでるかも」


ふたりとも、笑いながら言った。

まるで他人事のように。


「ねえ、優羅さん」


「なに?」


「私たちってさ、“恋人”なのかな」


その言葉に、心臓がひとつ跳ねた。


“恋人”


それは、ふたりがいちばん避けてきた言葉だった。


「……分かんない。そんなの、どうでもよくない?」


「うん、そうかも。でもね、周りの子たちってさ、好きな人ができたとか、キスしたとか、セックスしたとか……そんな話で盛り上がってるのに、私たちは」


「――手も繋がない」


「うん。でも、そのくせ、離れると死にそうになるよね」


それが、ふたりの“歪んだ愛”のかたちだった。

触れなくても、キスしなくても、身体が求めなくても。


“心”が、完全に依存していた。


「私たち、“恋人”って呼べるほど綺麗な関係じゃないよ」


「じゃあ、なんて呼ぶ?」


「……壊れかけの、同類」


「それ、好きかも」


ふたりは笑う。

だけどその笑顔は、もうどこかで“諦め”と手を繋いでいた。





その日、学校の廊下で美咲が男子と話しているのを、優羅は見てしまった。

ただ、何気ない会話だったのかもしれない。

でも、美咲は楽しそうに笑っていた。優羅の前では見せたことのない、明るい笑顔だった。


胸が、ぎゅっと潰される。


“やっぱり、私だけが壊れてるんだ”


そう思った。


放課後、屋上に美咲は現れなかった。


30分、1時間。

風だけが吹き続ける中、優羅は座ったまま動かなかった。


スマホに連絡はない。

きっと、美咲には“普通の時間”があるのだろう。


“だったら、もう終わりにした方がいいんじゃないか”


そんな考えが頭をよぎったとき――扉が開いた。


「ごめん、遅くなった」


息を切らせて、美咲が駆け寄ってきた。


「……何してたの?」


「ちょっと…先生に呼び出されてて。進路のこと」


「……そう」


優羅は、ほっとするのと同時に、自分の浅ましさに吐き気がした。

“美咲が他の誰かに笑いかけただけで壊れそうになる自分”が、気持ち悪くてたまらなかった。


「ねぇ、美咲さん。私たち、どうなりたいんだろうね」


「分かんない。でも、“なりたい”なんて思わないよ。なる前に、終わればいい」


その言葉は、どこまでも静かだった。


「僕たちに、未来なんてない。あるわけがない」


それが、美咲の本心だった。





夜、優羅は自室の天井を見上げながら、そっと呟いた。


「僕たちに未来なんてない」


そう言葉にすることで、逆に“今”を感じていた。


明日は来る。

でも、それが“幸せ”だとは限らない。


ただ、明日もまた――あの子が、屋上にいてくれますように。


願いというには、あまりに切実で。

祈りというには、あまりに淡くて。


その夜、夢の中でふたりは、何もない白い部屋でただ抱き合っていた。


名前も、時間も、何もいらなかった。


ただ“一緒”であることが、すべてだった。


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