テラーノベル
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「おい。……なら俺も帰るよ」
頑なな私にしびれを切らしたのか、桶川さんは黙って後をついてくる。
私が話さないからなのか、桶川さんもずっと話さない。
会話がないの、気まずい。いつものくだらない話や言い合いが懐かしい。
何の気なく会話していたつもりだったけれど、あの時間が、私にとってすごく凄く幸せなものだったんだと気づかされた。
ジワリと浮かんでくる涙。首を振って顔を上げた時、聞き覚えのある声に呼び止められ、血の気が下がった。
「あ、高井戸さん?」
会社のビルのエントランスに入ったところでのことだ。
私に話しかけてくるのは、もう二度と会いたくなかった人。
「良かった会えて。待ってたんだよ」
ヘラヘラと、笑みを浮かべて近づいてくる森上さんに、私は足がすくんで動けなくなってしまった。
「高井戸、知り合い?」
桶川さんが尋ねる。私は声が出せないまま頷いた。
「今の会社の方ですか? 僕は前の会社の同僚です。……終わるの待ってるからさ、食事でも行こうよ。高井戸さん」
「や、森上さ……」
彼の名前を怯えた声で呼んだその時、桶川さんが私の腕を掴んで庇うように後ろに回した。
「アンタが、森上ってやつ?」
「へ?」
森上さんも私も驚いて桶川さんを見る。
前の会社に出入りしていたとはいえ、桶川さんと実際会話していたのは部長で、森上さんのことなんて知らないはずなのに。
「あ、アンタ誰だ? 僕は彼女に用があるんだ。大事な話がね。アンタみたいな色男なら別に女に困ってないでしょう? 僕には高井戸さんだけなんだ。譲ってくれないからな」
「私……、森上さんのことは、ホントになんとも思ってないですから」
「色々あって勘違いしてるだけでしょう? だって前は好意を寄せてくれてたじゃない」
だからそれは、渋川さんが勝手に言ってたことだって。真に受けて勘違いしないでよ。
「ちが……」
反論しようとしたその時、私の足が宙に浮いた。
見える視界が反転して、私の目に入ってくるのはスーツの大きな背中と床の模様。森上さんは完全に視界から消えた。私は、まるで米俵のように桶川さんの肩に担がれてしまっている。
コメント
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うわっ、最後の展開にびっくりしました! 桶川さん、まさか米俵のように担ぐとは…思わず声が出ました。森上さんが現れてからの空気の凍りつき方が本当に怖くて、高井戸さんの足がすくむ気持ちがひしひし伝わってきました。でも、それ以上に桶川さんの即座の行動が男前すぎます。知り合いじゃないはずなのに「アンタが森上ってやつ?」って…どうして知ってるんだろう、そこも気になりますね。日常の何気ない会話が実は大切だったと気づく高井戸さんの心情も沁みました。次が待ち遠しいです!
臣桜
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