TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

契り

一覧ページ

「契り」のメインビジュアル

契り

27 - 第27話 全てが消えた世界

♥

48

2026年01月12日

シェアするシェアする
報告する

兄様のいない世界は、音がなかった。色彩も、温もりも、寒ささえも—–存在しなかった。


—–あの日。

セイカの亡骸を連れて帰ってから、

ユイはずっと、兄を抱き続けていた。


古参の側近たちは、その姿に、かつての光景を重ねていた。

リーシの亡骸を抱き、後を追ったケイシの姿を。


「殿……殿……」

「セイカ様……なぜ……なぜ、セイカ様が……」


嗚咽は、途切れることなく続く。


だがユイは—–

涙が枯れ果てたのか、

死人のように白い顔で、ただ、ただ、

壊れ物を抱くようにセイカを抱いていた。


「…………」


小さな、小さな声で、何かを呟いている。


「……ユイ、様……?」


泣き叫んでいた側近たちが、一斉に静まり返る。


「……はやく……しにたい……

はやく……兄様の……もとへ……」


「ユイ様ーー!!」


誰かが、嗚咽を押し殺しながら叫んだ。


「殿の……殿の、ユイ様への遺言を……

お忘れですかーー!!」


それでもユイは、

セイカを抱いたまま、壊れたように呟き続ける。


父ケイシが、リーシの後を追って自害したことは、

赤子だったユイには伏せられていた。

病に倒れたのだと、そう伝えられていた。


だが—–

物心つく頃には、知っていた。

誰かの会話を、聞いてしまったのだ。


(兄様……兄様……

なぜ、俺はいけないの?

父様は、母様の後を追ったのに……

なぜ、俺は駄目なの……)


枯れたはずの涙が、再び頬を伝う。


(城も、国も、戦も……

もう、どうでもいい)


翌日。

セイカは静かに埋葬されることとなった。


かつてはケイシとリーシの部屋。

今は、セイカとユイの部屋となった、その庭に。


そこには、花に囲まれた墓石がある。

ケイシとリーシの眠る場所。

その隣に、セイカは眠ることになった。


「ユイ様……」


誰が声をかけても、ユイは一言も発しない。


(しにたい……

なぜ……あのような遺言を……兄様……)


ふらりと、ユイが棺へと近づいた。


—–ばさっ。


何かが落ちる音。


皆が目を向けると、

ユイはセイカの髪を一束切り、

自らの艶やかな黒髪も一束切って、

そっと、兄の胸元に置いていた。


見守る者たちは、誰一人、声を出せなかった。


次の瞬間—–

ユイは、短刀を自分の左頬に当てた。


「ユイ様ーー!!」


制止の声は、間に合わない。


ユイは、自らの左頬を、深く、深く切り裂いた。

流れ落ちる血を、

棺の中で組まれたセイカの右手に塗り重ねていく。


—–その大きな手は、

いつも、優しくユイの左頬を撫でていた。


やがて、血に染まったその手は、

静かに胸の上へ戻された。


—–セイカは、

ユイの髪と、ユイの血に守られながら、

眠りについた。

この作品はいかがでしたか?

48

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚