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偉大で優しく、
深く深く愛し合った兄を失ってから——
どれほどの月日が流れたのか、ユイにはもう分からなかった。
昼も夜も区別のないまま、
ユイは私室から一歩も出ず、
兄の着物を纏い、兄の床に横たわる日々を過ごしていた。
懐には綺麗に束ねたセイカの髪を入れて—-
(…兄様の匂いだ)
身体を包む布から、
確かに、あの懐かしい匂いが立ちのぼる。
(まだ……消えていない
あんなにも愛おしかった匂いが……)
庭に背を向け、横たわったまま、
ユイは視線だけを墓のある方へ向けていた。
(兄様……
俺は、生きられないよ……
分かっているだろう?
どんな遺言を遺されても……
俺には、もう何も……)
痩せ細った身体は、かつてより半分ほどの大きさになり、
堂々たる体躯だったセイカの着物は、
まるで子供が大人の衣を借りているようだった。
墓の前で、小鳥が二羽、静かに囀っている。
生きている人の顔には見えないほどやつれた頬、
左頬には、深く刻まれた傷跡。
それでも、瞳からは静かに涙が落ちていた。
(……番い、なのか)
朝。
ばあやが膳を下げながら、静かに呟く。
「…また、お食事を召し上がっておられませんね……」
「ユイ様……」
何かを言いかけて、ばあやは口を閉じた。
セイカの着物も、布団も、
洗うことは固く禁じられていた。
(お願いだ…
どうか…
この匂いだけは、消えないで……)
側近たちも時折部屋を訪れたが、
ユイはセイカの床に横たわったまま、
言葉を返すことはなかった。
セイカ亡き後の戦において、
カンジュ王は、
まるでセイカ軍こそが最強であるかのように、
主不在の軍を次々と戦地へ送り出した。
声を掛けるたび、
そこにいるのは“主”ではなく、
空洞だけを抱えた人形だった。
それでも側近たちは、
今の主であるユイの名の下、
城と軍を傾かせぬため、
命を捨てる覚悟で剣を取った。
(…あの番いは、仲がいいな……
お前たちは…
一緒にいられて、幸せだな……)