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「そんなん言いながら、ほんまはスーツ姿の俺がカッコ良すぎて直視できひんねやろ? はんちゃんは素直やないなぁ」
くうちゃんの冗談に真っ赤な顔で反応してしまい、やばいと思った時にはもう目が合ってしまっていた。あかん、はよこの場から逃げな。
シャツが汚れてもいいように、くうちゃんでも入るサイズの大きめのTシャツを探し出す。
「それ……着てええの?」
背後から声をかけられ、思わず「ひぃ」と変な声が出そうになった。もう、この距離の近さは心臓に悪いから勘弁してほしい。
「うん、これあんま着てへんし」
「ん、じゃあ、はんちゃんが脱がせて」
「ひぇ?! そんなん自分でしてよ」
無理無理! そんなんしたら、もう鼻血噴出すって!
「はんちゃん?」
「そのシャツあげるから、オムライス食べたら帰って! お風呂は自分家で入ったらええやん」
「……はんちゃんの責任とるって、オムライス程度なん?」
「……え?」
「俺が寂しい時そばにおるって約束してくれたやん。もうちょっと甘えさせてくれてもよくない?」
そうやった。くうちゃんが運命の相手に会いに行くのを無理に止めて、勝手に別のいい感じの人に告白させて……結局、こんな大切な日を一人にさせてしまった。その責任は、全部俺にある。
ゴクリと大きく唾を飲み込んだ瞬間、グイッと腕を引っ張られ、俺の手がシャツのフロントボタンへと持っていかれた。震える。まだ何も触れてへんのに、指先が止まらへん。
「し、失礼します……」
手が震えて上手くボタンが外せない。待って、これ……うっすら見えてるけど、くうちゃん、下に何も着てなくない? 地肌にワイシャツ派なん?!
「そんな緊張せんでもええやろ? 友達の服脱がせるだけなんやから」
余裕ありげに笑われて、ちょっと腹が立った。くうちゃんは慣れてるやろうけど、俺はこんなん慣れてへんねん。彼女がおったんも、もう二年も前やし。
「誰でも緊張するやろ。人の服脱がせるやなんて」
やっと二つ目のボタンが外れた。あと何個や。段々慣れてきたし、はよ終わらせてしまわな……。
「俺は緊張せんで? ほら」
「うわっ 待って、ちょ! くうちゃん!!」
抗議の声も虚しく、そのままベッドに押し倒された。
上からじっと俺を見つめてくる瞳。甘えるって、そういうこと? 寂しさがなくなるなら、俺でもええっていうこと?
「……キスしていい?」
「無理! 絶対あかん!」
「……さっきから無理とかあかんとかばっかりで、約束と全然ちゃうねんけど!!」
急に赤ちゃんみたいに拗ね始めたくうちゃんに、思わず吹き出す。
もう、やっぱり全部冗談やったんやん。
「くうちゃんもわかってるやろ? 俺ら友達なんやから、甘えるのは服脱がすまでが限度。それ以上は好きな人できたらやってもらい。さ、オムライス冷めるで?」
身体を起こして、拗ねてるくうちゃんの手を引っ張る。
ほんまに、手のかかるでっかい赤ちゃんなんやから。
「……俺、今めっちゃはんちゃんとキスしたい」
「え、うわ……っ」
視界が反転したかと思うと、唇に温かくて柔らかいものがあたる。
今、俺……くうちゃんとキスしてる。
胸を押し返そうとしても、到底俺の力じゃかなわへん。どんどん深くなるそれに、俺の手の力もへにゃへにゃのふにゃふにゃや。
すごすぎるやろ! しゅうたの大吉……ご利益ありすぎやろ!!
「……もう俺ら、普通の友達には戻れへんで? くうちゃんはええの?」
「ええよ。俺、はんちゃんのこと色眼鏡でしか見てへんかったし」
「色眼鏡て。今時おっさんでも使わんで?」
照れ隠しに、くうちゃんの柔らかいほっぺを掴んでむにっと引っ張る。俺らの関係は、この先どこへ向かっていくんやろ。
「……また寂しかったら、俺んとこ来てええよ。くうちゃんに彼氏ができるまで、俺の隣は空けといてあげるから」
「……それ、マジで言うてんの?」
くうちゃんの顔が、一瞬で曇った。
……今の言葉、俺が都合のいい関係になるってって宣言したみたいに聞こえたかな。やっぱり気持ち悪いって思われた? 「あかん」とか拒否しといて、一回流されただけで調子乗ったと思われたかな。
「……じゃあ、オムライス食べたら? 温め直すから、口洗っといで」
もしかしてさっきのが、最初で最後やったんかな。くうちゃんとの甘い時間は、ほんの少しやったけど、一生の思い出になってしもた。
「いただきます」
俺のTシャツをおとなしく着たくうちゃんが、品よく手を合わせて頭を下げる。
さっきまでのスーツ姿は直視できひんかったけど、今はどうしてもその唇に目がいってしまう。これが良かったんか悪かったんか、わからんけど。
「ん! おいし!」
「せやろ? ちょうど美味しい卵、買ってきたとこやってん!」
「さすが、はんちゃん!」
「ん、ケチャップついてるわ」
可愛い笑顔に当てられて、つい調子に乗ってしまった。
くうちゃんの口の横についたケチャップを、ごく自然に指で拭って、そのまま自分の口で舐めとる。
……あ。新のことバカにできひん。アホすぎる、俺。何してんねん。
「……そういうの、誰にでもすんの?」
口をモグモグさせながら、くうちゃんが真顔で聞いてくる。
待って、怖い。……何考えてるかわからん時の、くうちゃんの目や。
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