吸血鬼。
それは、怖いもの。
それは、恐ろしいもの。
それは、醜いもの。
それは、…哀しいもの。
…人間だっておんなじだ。
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それは、雨の日だった。
冷たく細かい、刺さるような雨。それが、1週間も止まずに降り続いている。
家の周りを取り囲む森の木々は嬉しそうにそんな嫌な雨と戯れていた。
「…さいあく。」今日は、輸血のパックが届く日だったのに。
雨のせいで森に入るための道が崩れたせいで、配達が遅れることになったのだ。
吸血鬼は貧血になりやすいのに。
吸血鬼は貧血になってしまったら人を襲うかもしれないのに。
「…動物の血は獣臭くて嫌いなんだけどなぁ」
俺は渋々森の中へ出かけることにした。
雨中の道は気だるげで。
真っ黒な傘に艶が付いては流れ落ちる。
木々の葉の擦れる音はあんなにも美しいのに、バラバラと響く雨が葉を打ちつける音はとてつもなく不快であった。
「…腹減った………」…最後に血を摂取したのはいつだったか。4日前か?それとも5日前か。
吸血鬼は本来、3日に一度吸血をしなければ貧血になって本能の赴くまま人を襲ってしまう。
「4、5日耐えれているだけ、まだマシなんだろうな」
俺は優秀な吸血鬼だから、人を襲うなんて屈辱はあってはいけないんだ。と自らを鼓舞するも、やはり足は人里の方へ向かっていってしまうのだった。
家から約12分歩いたところ。森の中腹あたりのことだった。
甘い香りがした。… 人だ。しかも、血を流している。
雨に打たれても尚強く香るということは…
「致死量か」それとも、もうそいつは死んでいるのか。
死んでいるんら好都合。どれだけ飲んでも無くなるのみで誰からも怒られない。
俺は、迷うことなくその香りのする方へと歩を進めた。
…どれだけ飲んでも怒られない。
そう思った自分は、最低だったのだ。
俺の足元には、8歳程度のガキがいた。
息は弱く、かなりの出血もしていた。
「…おい」
反応は無かった。
俺は傘を閉じ、ガキのそばで屈んだ。
出血は、首と足からのようだった。
「…」…命を救うだけだ。
俺は、ガキの首にある痛々しい傷口に牙を立てた。
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「甘かったんだよなぁ」
ふと、目の前の友人にそう言われた。
「…は?何が」
「ん〜や?なんでも」
たぶらかされた。
彼…きんときが少し俯き、きんときの髪がさらりと垂れて涙ぼくろが隠される。
「え、なんだよきんとき〜!今の! 」
「…甘かったって…何が?」
「なんもないって!気にしないで?」
「いや、気にするというか…気になるでしょ〜!ねっ、nakamu!」
「ほんとだよ!いいじゃん!教えろよ〜」
きんときは笑ってたぶらかそうとする。ただ、俺以外の奴らは意外にも『甘かった』という言葉に興味を持ったらしく、きんときはその事実に少し困ったような顔をした。
「や…、べつに…俺が吸血鬼だっていうだけだよ」
「それ以上も以下もない話だし…」そんな問い詰めなくても深い意味はないよ?…と、きんときが笑う。
「………は?」
俺はその言葉を聞き、これ以上ないほどに驚いた。
「…俺の血………飲んだ事あんの……?」
「まずい、はずなのに」
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俺がその事実を初めて知ったのは、学校に通い始めた…まだ10歳にもなっていなかった頃。
「……ぃたッ…!」
紙によって割かれた傷から、確かな痛みが俺の指先に響き、 細く赤い線上に、小さな赤い玉がぷくりとできた。
絆創膏を取ろうとした時、クラスメイトの吸血鬼が横を通った。
「…なんか、やべぇ匂いしない?」
「めっちゃ不味そうな匂い。何これ。…おまえ?」
このときは、「そうなんじゃない?知らないけど」と言ってまだどうにかできた。
…“吸血鬼”に関する知識もある程度は持ち始めた頃に 俺は大失態を犯した。
…そこで、思い知らされた。
12歳をちょっと過ぎた頃、100m走のタイム測ってるときかなぁ。俺は思いきりこけてしまった。
膝を擦りむいて、血がどくり、と溢れ出した。
それと同時に、クラスメイトの吸血鬼達が嗚咽したような声がした。
思い知らされた。
俺の血はどうしようもない程不味いのだと。
思い知らされた。
血のまずい人間は、どんなに優秀であろうが、蔑まれるのだと。
俺はそれ以来、“怪我をしない”ことを気に掛けて気に掛けて過ごした。
だから、俺の血のことは小学校のクラスメイトしか知らないはずなんだ。
というか、俺は今まで誰にも血を飲ませたことがない。
味なぞ、誰も知らないはずだ。
「ゃ、飲んだというか…、その、ね?…その〜…、怪我を治してあげた?みたいな…?」
青い瞳が揺れていた。
「…怪我…?」俺はそう問うた。
「…うん。まぁ…記憶消してあげたはずだから…多分シャケは覚えてないけどねぇ…」
「え〜?なになに、どゆこと?僕記憶消せる吸血鬼なんて御伽話でしか見たことないよ〜?」
きんときは眉を顰めた。何か、自身にとってまずいことを口走ってしまったのか、はたまた…同じく吸血鬼であるbroooockの発言がよろしく無かったのか。
「詳しくは話さないよ」
そう言って、きんときはその場を後にした。
続きません…
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※思いつき過ぎて何書きたかったのか忘れたので続きはありません。