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(13…14…15,6,7…)
ヘッドギア状の兜を被った男が諸刃の剣を振い、異形の首を飛ばし、臓腑を突き、四肢を削ぐ。
(昔は乱戦になると5体がせいぜいだったろうか。”この世界”に来てから早10年、慣れと鍛錬というものはこうなのだろうか。)
複数体の異形の攻撃を剣の側面と鎧と鎖帷子で受け止め、引きつける。少し身を屈めると背後の耳が長い女が放った矢がほぼ同時に全ての異形の脳天を突いた。
「ナイ…ありがとう!」
「礼はあと!今は集中!」
僅かに矢が逸れた異形の首を刎ねながら言葉を交わす。
松明を以て火を大量に焚いているとはいえ、大掛かりな光源がないために5、6メートルより先はほとんど見通しが立っていない。これでは唐突に火の瞬きの影から異形が飛び出して来ると気がつくのが遅れてしまう。
「術士!暗視を!」
「もう…はじ…めて…る。」
仲間に囲まれた男が地面を見つめながら上の空で返事をする。男はガリガリと模様を描いている…いや、描いていた。たった今書き終わったのだ。
円形に描かれた模様の周りには松明と宝石が突き刺されている。松明は草木の根が邪魔なようで盛り土状に土で固められていた。先程まで模様を書いていた木の棒は放り投げて指先と目で検査している。
男がおもむろに模様の真ん中に手を置くと模様の線を液体が流れるように光が走る。
「・・・できたぞ。」
光が消えると男は顔を上げ、宝石を仲間に投げる。受け取った者は首から下げていたロケットペンダントのような容器に宝石を入れ、再度異形に切り掛かった。
宝石が全員に行き渡るとその後に松明を手に持った者は一人もいなかった。
戦闘にひと段落がついて、異形の死体を引きずる。病気や獣を寄せるために死体が周りにあるのは好ましくないためである。
(もう死体にも慣れてしまった。このまま行軍が年単位で続くとしたらいつかはこいつらにも齧り付いてしまうのだろうか。)
魔法陣で掘った穴に異形を投げ込みながら思考を巡らせる。火のはぜる音と怒号と金属が擦れ合う音が響いていたさっきとは打って変わって、辺境の森のジーワジーワという虫の音と死体を引きずる音が場を支配している。
(ギルドの中でも軍崩れは異形を食って行軍するらしいが、すぐにそんな話をしている奴はそのうちに見なくなる。野に降るのか、魔に下るのか、死に招かれるのか。)
見渡す一辺の死体が穴に集まると男が”山”に油を掛け、陣で火を放った。
メラメラと揺れる炎が浅黒い異形の肌を真っ黒に変えていく。ツンと鼻を刺す匂いがあたりに立ち込める。皆、何故か炎を見つめたまま動けないでいる。
暗視効果は消え始めているとは言え、眩しいはずであるが、目を逸らさずに皆が見つめ続けた。
「なぁ、俺たちがギルドを抜けて軍に迎えられた時、最後にギルドに挨拶に寄ったよな。」
「…あぁ。」
リーダー格の男が腰に掛けた剣の柄をさすりながら話を溢した。
炎から目を逸らさずに、隣に経っている比較的小柄な筋肉質の男が男が答えた。
「あの時…奥にいた元軍人のジェインタイルって人…あの後ギルド等級どこまで行ったか知っているか?」
「…」
嫌が応にも皆の脳内には異形を食っていた話が思い起こされる。
「…いや、知らないなら…」
「最期は銀6等級だってさ。」
斧を両腰に携えた女が答える。皆、その言葉の意味をすぐに理解した。というのもギルドでの階級は5等級ずつ設定された金、銀,銅、鉄の4区分があるだけであるためだ。
「そうか…それは…そうか…」
魅入られたように7人は炎を見続けた。ペンダントの効果はもう消えていた彼らにはもう火は眩しくはなかった。