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29 - 第29話 歩美への手紙と結城の告白

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2025年07月11日

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◻︎手紙



**歩美へ**


今年の誕生日で、歩美は10才になりました。めでたく、二分の一成人式を迎えました。


きっと歩美のことだから、どこの誰よりもしっかりしててお父さんと仲良く暮らしていると思います。


私がいなくなって、3年くらい、かな?(実はこれは勝手に想像して書いているからね、そこは読み取ってね)


ということで、歩美の10才の誕生日を区切りとして、約束して欲しいことがあります。それは、2人してお母さんのことを思い出して泣くのはヤメること。

今日からは、楽しいことだけ思い出して、笑って過ごすこと!わかった?約束だよ。破ったら夜中に足の裏、くすぐるからね。


それから…

お母さんは、歩美のことはそんなに心配してないんだ。実はお父さんの方が心配でしょうがないの。

だって、おっちょこちょいだし、すぐメソメソするし。いつか歩美がお嫁に行ってしまったら、孤独死するんじゃないかと心配してます。

だからね、歩美。

お父さんにいい奥さんを見つけてあげてね。

人柄は前の奥さんが保証しますからって。あ、それじゃあ誰も来てくれないか。だって守護霊みたいにくっついてそうだもんね、怖がられちゃう。


そうだ!

その頃には、お母さんはちゃんと成仏しとくから大丈夫。

遠いところから、お父さんと歩美とそれから新しい奥さんを見てるからね。


お母さんのことを、全部忘れてしまったら悲しいけど、でも、たまに思い出してくれるだけでいいからね。

生きている人のことを、一番に考えること。

わかった?


死んでしまったら、何も伝えられないし何も聞けなくなるんだからね。


お父さんと歩美が、幸せに楽しく生きていくことがお母さんを安心させるんだよ。おぼえておいてね。


でもさ、

みんながあんまりにも楽しそうでうらやましくなったらさ

犬か猫に生まれ変わるから、見つけて、仲間に入れてよ、ね!


あ、それ、いいな。

楽しみになってきた。猫?犬?どっちがいい?



10才になった

愛する娘、歩美へ。







「ちょっと変な手紙ですよね?」と三木が言う。


歩美ちゃんは、笑っている。三木も笑っている。

私と結城は、ぽろぽろと涙が止まらなくなっていた。


「な、なんでこん…な…。俺、無理…こんな…うわぁ…!ぐすん」

「泣かないでよ、ちょ!結城君…もう、あんたが泣くから…私まで…ふぇーん」


歩美がティッシュを取ってくれた。箱ごと抱えて鼻までかんでいるのは結城だ。よく見たら、三木も泣きそうになっている。


「そんなふうに泣かれたら、つられてしまいますから」


「お父さん!泣かない約束でしょ?」


「う、うん」


上を向いて、グッと涙をこらえてる三木の姿が、子どもみたいに見えた。


「歩美ちゃんのお母さんが心配してた理由が、わかる気がするよ」


「でしょ?もう、お父さんたらっ!」


_____それで婚活街コンだったのか


なんとなく理由がわかった。


「お父さんに新しい奥さんができるとか、それはどうでもいいんです。ただ、毎日が楽しくなるような人と友達になれたらなって思って」


ふっと笑った歩美の顔が、写真の奥さんとそっくりだった。




_____孤独死か…


私も結婚を考えたキーワードは、それだった。三木の亡くなった奥さんもそのことを心配していると、手紙に書いてあった。


「ねぇ、歩美ちゃん、私がお父さんの友達になってもいい?」


「ホントですか?なってください。お父さん、ホントに友達いなくて可哀想なんです」


「歩美、可哀想って、そんな…」


三木は、ぽりぽりと頭をかいていた。


「ちょっと待ってください!友達なら男でもいいよね?俺も友達になる、いいでしょ?」


「うん。お父さんよかったね、友達2人もできたね」


「そうだね、でも友達って何をすればいいんだろ?」


「はぁー、そんなんだから、友達できないんだよ、お父さんは。友達って、おしゃべりしたりご飯食べたり遊んだり…。いっぱいすればいいと思うよ。歩美はそうしてるもん」


友達の定義なんて、難しい。けれど、なんとなくほっとけない人がいるとか、見てくれてる人がいるとか、それだけで力が湧いてくることもある。


「まずは、連絡先の交換からしておきますか!」


結城がスマホを出した。


「そうですね、何かあったらLINEで連絡してください。私もしますので」


「はい、じゃあ」


「ちょっと待って、歩美もいい?」


4人でスマホをふるふるした。それぞれが友達登録して、ひとまず完了。そのままグループLINEも作っておいた。


ぴこん🎶と歩美がスタンプをくれた。

『うれしい!スタンプ』

私は、『よろしくスタンプ』を返した。




カレーの後片付けをして、三木家をあとにする。

駅までの道を、結城と2人で歩いた。


「なんか、不思議な感覚がしてます」


唐突に結城が言った。空を見上げて何かを探すような素振りで。


「不思議?」


「はい、人はいつか死ぬって頭ではわかっているんだけど。歩美ちゃんのお母さんみたいに若くして死んでしまう人もいて。まだ30を少し過ぎたくらいだったと言ってたし。この空のどこかからのこした家族を見てるのかな?とか思って」


「そんなこと言ってたね」


_____ということは、私よりも若くして亡くなったということか


「で、死んじゃってるのに、死んじゃってる感じがしなかったんですよ。あ、幽霊とかそんな意味じゃなくて」


「それは、私も思った。三木さんも歩美ちゃんも、お母さんのことをちゃんとおぼえているし。そういう家族ってうらやましい」


ぴた!と結城が立ち止まって私の正面に立った。


「ですよね?俺もうらやましかったです。なので、作りましょう、あんな家族を。俺とチーフ…いや、茜さんで!」


「道の真ん中で何を言い出すかと思えば…。結城君、あなたは何才?確か、私より8才も下だよね?若い子は若い子を探しなさいよ、私はもうダメよ」


「何がダメなんですか!」


「メイクやオシャレよりもね、孤独死が気にかかる年頃なの!」


「それは大丈夫ですよ、女性の平均年齢は男より上だけど、その分俺は年下だから決して1人では死なせませんから」


「ごめん、無理」


「えーっ!そんなあ…」


立ちすくむ結城を残して、急いで駅に向かった。


_____男なんてみんな、若い子がいいに決まってる


結城だってそのうち、日下千尋のような若くて可愛い子に気移りするはずだ。あんな思いはもうしたくない。


改札を抜けた時、バックの中でスマホが震えているのに気がついた。発信者はその、日下だった。












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