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[ふたつの道]

若井side

部室のドアを開けると、いつものように元貴が新しく作った曲のデモを流している。






俺はヘッドフォンを外し、静かに席に座った。







「どうだった?」

元貴が俺の顔を覗き込む。






「悪くない。でも、なんか…足りない気がする」

俺はそう言って、元貴の隣に置かれたギターを手に取った。





「なんだよ、それ。僕は最高傑作だと思ったんだけど。」

「そうじゃなくてさ」



そう言いながら、俺はメロディに合わせて、コードをいくつか弾いてみる。





すると、元貴が「おぉっ!」と声をあげた。





「それだ!それだよ、若井!」



元貴の言葉に、俺は少し照れくさくなった。




こいつはいつもそうだ。





俺が少しでも新しい音を出すと、まるで自分のことのように喜んでくれる。




俺たちは、ずっとそうやってきた。




小学校の帰り道に一緒にギターを弾き始めてから、今日まで。







俺がバンド一筋でやっていくって決めた時、最初に相談したのは元貴だった。






「音楽で、この世界を変えたいんだ」



そう話す元貴の目は、いつだってキラキラしていた。





その情熱に、俺も惹かれていった。




親友として、相棒として、こいつと一緒に音楽をやっていく。





それが、俺が決めた道だった。






だけど最近、少しだけ胸がチクチクする。





涼架と進路の話をした日のことだ。





彼女が音楽大学に行くって言った時、俺は「そうか」としか言えなかった。





涼架は、俺が元貴とバンドを組んでいることを応援してくれている。





いつだって俺の音楽を聴いて、感想をくれる。





でも、俺が自分の夢を追いかける一方で、涼架との未来が少しずつ見えなくなって行くことにずっと目を背けていた。






音楽室で涼架のピアノを聴いていた時のこと。







彼女からの指先から奏でられるメロディは、俺たちのバンドの音とは違う、優しくて、でも強い芯を持っている音だった。






俺は、そんな彼女の音楽を、ただ「下手くそ」なんて言って、からかってごまかしてきた。







バンドの練習が終わって、元貴と二人で帰り道を歩く。







「なぁ、元貴」

「ん?」

「俺たち、将来どうなるのかな」




元貴は、俺の問いに少し不思議そうな顔をした。






「どうって、決まってんだろ。でっかいステージに立って、たくさんの人に俺たちの音楽を届けるんだ」

「…そっか」

元貴の言葉は、いつも俺を奮い立たせてくれる





だけど、今日は少しだけ、その言葉が胸に突き刺さった。







涼架は、音楽大学でさらに深く音楽を学ぶ。




俺たちはバンドで音楽をやる。







お互い、音楽の道に進むのに、なぜこんなにも離れてしまうんだろう。




涼架が遠い場所へ行ってしまうことに、寂しさを感じるのはもちろんだ。




でもそれだけじゃない。





俺が自分の道を突き進むことが、涼架との大切な時間を終わらせてしまうような、そんな引け目を少しだけ感じていた。







「どうしたんだよ、若井。らしくないじゃん」

元貴が俺の肩を叩く。






「なんでもない」

俺はそう答えたが、元貴は俺の表情をじっと見つめていた。





この道を進めば、きっと元貴と素晴らしい音楽を創り出せる。





だけど、この道を選んだことで、涼架と「さよなら」する意味を、俺はまだ知ることができなかった。











次回予告

[引き継がれた想い]

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『さよならには、意味があるみたいだ』

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