[引き継がれた想い]
若井side
元貴と別れて、家に向かう。
元貴とバンドを組む。
音楽の道に進む。
それは俺が自分で決めた、まっすぐな道だったはずだ。
なのに、涼架が音楽大に行くって聴いた途端、この道が、まるで彼女との間に深い溝を作ってしまうような気がして、胸がざわついた。
家に帰って、自分の部屋のベッドに倒れ込んだ
「なんでこんなにモヤモヤするんだよ…」
声を出して呟いても、答えは返ってこない。
ただ、頭の中には涼架の顔と彼女が言った「さよならだね」という言葉が何度も繰り返されていた。
そうだ、祖父に会いたい。
そう思った瞬間、俺はふと部屋の隅に置かれた小さな木箱に目をやった。
祖父が亡くなった後、遺品整理で俺がもらったものだ。
中には、古ぼけた本や使い込まれた万年筆、そして埃の被った小さな木彫りの鹿が入っていた
俺はその木箱をベッドに持ち込み、蓋を開けた
木彫りの鹿を手のひらに乗せると、祖父が毎晩語ってくれたおとぎ話を思い出した。
「湖を走る鹿の群れがいるんだ。その湖の底には、世界で一番綺麗なオーロラが眠っていて…」
俺を眠りにつかせるために、祖父が語ってくれた優しい声が耳の奥で蘇る。
その木箱の底に、一冊の古びた日記帳を見つけた。
表紙には何も書かれていない。
俺は、そっとページをめくった。
達筆な文字で綴られた日記には、祖父が若き日に経験した出来事が詳細に記されていた。
たった一人でこの町にやってきたこと。
偶然、ある少女と出会ったこと。
その少女が、まるでオーロラの精霊のような不思議な魅力を持っていたこと。
「彼女は、運命の女神さまから遣わされた使者だと、僕は信じていた」
日記には、そんな言葉が何度も出てきた。
祖父が俺に話してくれたおとぎ話は、どうやら創作なんかじゃなかったらしい。
俺は夢中でページを読む進めた。
湖畔で少女と過ごした、かけがえのない時間。
二人で追いかけた、幻のオーロラ。
そして、日記の最後に書かれた、俺の心臓を締め付けるような一文。
「さよならには、意味があるみたいなんだ」
その言葉の横には、インクが滲んだシミがついていた。
まるで祖父が、涙をこぼしたかのように。
日記はそこで途切れていた。
祖父がなぜ、その少女と別れてしまったのか。
なぜ、その意味を俺に教えてくれなかったのか
俺は、その日記を胸に抱きしめ、涼架にメールを送っていた。
『今から、高原に行こう。伝えたいことがあるんだ』
彼女との別れが、俺をこんなにも揺さぶる。
それは、祖父が「さよなら」と呼んだものと、
同じなのだろうか。
俺は今、この手で、その「意味」を確かめに行かなければならない。
祖父が残したこの日記と、俺が毎晩見る夢の情景。
そして、涼架との間に流れるこの不器用な空気
それらがすべて、一つに繋がっているような気がした。
高原へ向かう道中、俺は祖父が残した言葉を何度も心の中で繰り返した。
「さよならには、意味があるみたいなんだ」
それがただの慰めじゃない、何か深い真実を秘めていると、俺は直感していた。
夜空には、今にも星が降り注ぎそうなほど、たくさんの光が輝いている。
この手で確かめに行かなければならない。
俺自身の、そして祖父の果たせなかった物語の続きを。
次回予告
[夜空に響く君の声]
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コメント
1件
告白するの…!?