「料理、上手なのね…」
軽い男かと思えば、料理上手だったりと、この人っていくつの違う顔を持っているんだろうと思う。
「まぁ、料理ぐらいはな。俺って、けっこう苦労してきたしな…」
ふいにぽつっと言う銀河に、
「……苦労って?」
と、尋ね返した。
けれど彼は、私の問いかけには答えることはなく、
「苦労してきたイケメンって、陰があるみたいでいいだろ?」
なんて、軽口をたたいて話をはぐらかした。
「……そういうこと、自分で言う?」
実際、彼からはアルビノだと知らされたこともあり、なんとなく謎めいたところがあるようにも感じていた。だけど、彼自身がそれを話してくれることはないのだろうということも、なんとなくわかっていた……。
……会話が途切れ、短い沈黙が訪れる。
「……じゃあ、俺そろそろ帰るわ。今日も仕事あるから」
銀河がイスを立ち、脱いでいたスーツを無造作に肩に掛ける。そんな些細な仕草に、気づかずに視線が引き寄せられているのを感じて、ふいと目を逸らした。
「……うん、ああ…なんか…ありがとう」
玄関に向かう銀河の背中を見送りつつ、彼の口からいつか心の内が話してもらえることはあるんだろうかと、ふと思う。
「じゃあな、理沙。
また、俺に会いに来いよ?」
ドアを出る間際に、そんなセリフとともに唇から二本の指で投げキスが飛ばされて、ボッと一気に顔が赤らんだ。
そんな私の表情を愉快そうにも見て、
「待ってるぜ?」
と、銀河はドアを出て行った──。
「何が、”待ってるぜ?” なのよ…!」
ドアに向かってベーッと舌を出す。
「……なんなのよアイツったら! あんな店、もう二度と絶対に、金輪際行かないんだから!!」
銀河に言われたように、自分でも素直じゃないことは薄々わかっていた。だけど、彼に気持ちを振り回されて翻弄されていることが、今はただわけもなく腹立たしかった──。
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