お店に行かないまま一ヶ月程が過ぎると、銀河のことで頭を悩まされるようなことはだんだんとなくなっていった。
構内では、相変わらず都市伝説のように『超イケメンホストクラブ』の話が飛び交っていたけれど、一度は訪れたこともあり、差し当たって無理には行かなくてもいいように感じていた。
……だいたいまたあの軽薄オトコに、わけもなく気持ちをもてあそばれるのは御免だった。
時折り耳に入ってくる噂を適当に受け流して、私はホストクラブなどという非日常とは無縁な、ごく平凡な日常を満喫していた。
なのに、その平凡な毎日が突然に打ち破られた──。
「ねぇ、理沙。理沙のことを探してるって人が、外にいるみたいだけど?」
大学の廊下で、知り合いの女の子からそうふいに声をかけられた。
「私を、探してる……?」
「うん、下の中庭で聞き回ってるけど……。なんかすごく目立つ男の人で、けっこう人が集まってきてるみたいだから、早く行った方がいいかなと思って」
人だかりが出来るくらいに目立つ男ってまさか……と、思う。
「その男の人って、もしかして……薄茶の髪にサングラスの……」
彼の特徴を話して聞かせると、
「ああ、そうそう! サングラスをかけた、めちゃくちゃカッコいい人で!」
パン!と、彼女が手を叩いて応じたことで、
「やっぱり……」
と、軽いため息が漏れた……。
「ありがとう、教えてくれて」
手早くお礼を伝えると、廊下を小走りに抜け階段を駆け降りて、急いで中庭へ出た。
そこには、大勢の人にわらわらと取り囲まれて、ひときわ背が高く愛想よさげに笑みを振りまいている男がいて、周りで見つめている女の子たちの眼差しが、まるでハート型に魅了されているような印象を受けた。
ハァー……と息をつき、人混みを掻き分けてそばに寄ると、「……ちょっと」と声をかけた。
「おっ…理沙か?」
「ちょっと、こっちに来てってば……!」
ややキレ気味で、彼の手を引っ張って行こうとすると……、
「理沙! その人と、どんな関係なの?」
「ねぇ、もしかして理沙の彼氏!?」
「嘘、やっぱり彼氏なの? すっごくかっこいいじゃん〜紹介してよ?」
途端、芸能レポーターさながらの質問攻めに遭った。
「違う、違う。彼氏じゃないから。ただの知り合い! 知り合いだってば!!」
私は大声で叫んで、興味本位でしかない質問を振り切ると、銀河を人気のなさそうな所まで連れて行った。
コメント
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確かに知り合いだわね😅