テラーノベル
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通りには4月の太陽が優しく照っていた。ロブロキシアの中心地は、今日も多くの市民でごった返している。観光に来た者、仕事で来た者、そして…
「どけどけ、どけーっ!!!」
一際大きな声に人々の視線が集まる。見ると、Roblox本社方面から3人の人影が猛スピードで走ってきていた。1人はジッパー付きの黒いタートルネックに白いコート、金のドミノクラウン。1人はAPNのクランの真っ赤な軍服に白いネクタイ。そしてもう1人は、黄緑のズボンに青のシャツ一枚の軽装に氷の王冠といった、やけにアンバランスな装いの黄色い肌のロブロクシアンだ。全員がドミナスのフードを被っているため、顔は見えない。3人は人混みをかわした後、中心地から一歩外れた路地裏にて足を休めた。
「ははっ、今日の収穫も最高だったな!!」
そう言うのは、先ほど大声を出して通行人を振り向かせた氷の王冠の人物だ。今はフードを外し、やんちゃな笑顔をあらわにしている。それにやれやれといった様子で白コートの人物が返す。こちらもフードを外し、薄橙の顔が見える。
「Ellernate、頼むからiTrappedを黙らせろ。目立つだろ….」
Ellernateと呼ばれた赤い軍服の人物は、フードは外さずそのままにこう返した。
「iTrappedはそういうヤツだ。お前も重々承知だろう、Caleb」
「とは言ってもよぉ….」
CalebはiTrappedの方に向き直る。彼は戦利品である限定アイテムを床に並べ、嬉しそうに合計額を計算している。と、iTrappedがCalebからの視線に気づいた。
「どーした、Caleb?オレの取り分が羨ましいのか?」
「….何でも」
そう言って、Calebはわざとらしく端末を弄り出した。
「フフ、変なの」
少しの喧嘩は、彼らにとっては日常茶飯事。3人は友人だ。iTrappedはもう気にせず作業に戻っている。Calebは端末で顔を隠しているが、少し微笑んでいる。そしてEllernateは、そんな2人をいつものように放っておいたり、制止したりする。
「あ、通知….Twisterがまた呼んでるぞ」
「オレとNateを?」
「あー、うん。そうだな」
「じゃあサイト作りの手伝いか!行こうNate!」
「おう」
「Caleb、ごめんけど先帰って別行動で頼む!」
「はいはい、了解」
3人がやっているのが盗難であれ何であれ、固い絆で結ばれている事に違いはなかった。
ある夜、繁華街。Ellernateは珍しくピンストライプの黒いスーツを着ていた。同じ柄のフェドラに、焦げ茶のサングラスとアメリカ国旗の柄のヘッドフォン。ここ一ヵ月の彼が素肌を晒すのは、実に珍しい事だ。Ellernateは手の中で黒い花弁の花を転がし、夜の街を歩く。もう片方の手には何かの入った紙袋が提げられていた。
「Nate!」
「やあ、Isaac。よくここが分かったな」
Isaacというのは、iTrappedの本名だ。親しい間柄でしか使わない。
「お前の行くとこぐらい見当はつくよ…それより、突然どっか行ったと思ったら、何だよその懐かしい格好!?トレーダー服なんか着てどうしちまったんだよ」
「これを買いに行ってたんだ。ほら」
Ellernateは紙袋をひょいっとiTrappedに渡した。
「返事になってないぞ….なんだこれ?」
「帰ったら一緒に開けよう。俺の特注だぞ。」
「ふ〜ん….」
「服に関しては、店が店だったからな。ビシッとスーツでキメて行くのがマナーってもんだ」
「….Nate、その店大丈夫?」
「俺が大丈夫じゃない店を選ぶと思うのか?」
「いやいや、不安だっただけだって…」
そんな会話を続けているうちに、拠点の灯りが見えてきた。付いているのは玄関のランプのみだ。
「Caleb、寝ちまったみたいだな」
「まあ、さして問題はない」
Ellernateが振り向き、戸口を施錠する。その後ろ姿は誠実なサラリーマンのようで、iTrappedはたまに、彼とほぼ同年代である事を忘れそうになる。Ellernateは黒い花をそっと花瓶にさし、iTrappedに向き直った。
「さ、袋、開けてみろよ」
促され、iTrappedが紙袋から小綺麗に包装された箱を取り出す。手をかけると、ラッピングはいとも簡単に剥がれた。
「これは…服か?」
更に中身を取り出すと、白のカッターシャツ、青のベスト、同じ色のネクタイ、黄緑のスーツ用ペアリングズボン…..
「正装だよ、Isaac。ロブロキシアの大規模なイベントに参加する時や、フォーマルな場ではそれを着てほしいんだ。いつものシャツだけじゃ芸に欠けるだろ」
iTrappedは苦虫を噛み潰したような顔になった。
「…Nate、知ってるだろ。オレがこーいうお堅い服装嫌いなの…」
他にもボソボソとなにか呟くiTrappedを見て、Ellernateは予想通り、といった顔をした。
「あからさまに不機嫌だな、ははっ」
「わ、分かってんなら買うなよ!」
「いいや」
突然、Ellernateの声のトーンが下がった。
「いつか、絶対に必要になるさ」
iTrappedは首を傾げる。
「大人になったらか?」
「さあ…それは分からない。でも、とっておいて損は無いはずだ」
いつになく真剣な表情で見つめてくるEllernateを見て、iTrappedは吹き出してしまった。
「あっはは、分かったよ。Nateが言うなら、いつか要るかもね」
iTrappedはリビングの隅のクローゼットに足を進め、そこに十分な空きがある事を確認した。
「その時まで、ここにしまっておくよ」
カンテラの橙色の灯りが、二人の笑顔をやさしく照らした。
「今日狙うのは….これだ」
Ellernateが指し示したのは、ロブロキシアでは名の知れている武器ブランド「SFOTH」の剣の数々。これら全てはRoblox本社に保管されており、レプリカですらその価値は計り知れない。いわば、限定アイテムの王様だ。
「俺の持っているエクスプロイト(ハッキングツール)ではレプリカを手に入れるのが限界だが、問題ないな?」
一同がこくりと頷く。と、図面を見ながらCalebが一言。
「これ….どの剣を狙うんだ?何種類もあるぞ」
「いったんシステムの脆弱性を突いてしまえば後は楽だ。選ぶ時間ぐらいはある。」
「お好みでどうぞ、って事か」
それから各自出立の準備を整え、3人は本社目指して歩き出した。
*
「Caleb、後方は?」
「なんもないぞ」
「iTrapped、カメラフッテージは?」
「停止済みさ!もう役してないよ」
「ならいい」
Ellernateは慣れた手つきでパネルを操作し始める。しばし、画面に手が触れる無機質な音がRoblox本社に響く。それも当然、従業員があくせく働いているオフィスは遠い下の階にあるのだから。
「開いた!」
抜き足差し足で入ると、特殊ガラスであろうクリアケースの中に剣が文化財のごとく並べてあった。
「うへっ、なんか仰々しいな」
「すっげー!!!流石SFOTHってとこだ!Nate、ガラスはどうするんだ?」
「ああ、」
Ellernateが、どこからともなくバールを取り出した。そしてそれを大きく振りかざして_____
「え?」
「は」
バリィィィィン!!!!!
ガラスは粉々に飛び散り、けたたましくサイレンが鳴り響き始めた。
「今だ、さっさと剣を取れ!」
振り返り、至極真っ当な方法だったと言わんばかりのEllernateに、Calebが思わずツッコむ。
「おいアホ、これしか思い付かなかったのかよ!!?」
「:3」
「その顔文字使うなって言っただろ!!!」
Ellernateはバツが悪そうに肩をすくめた後、淡いピンクに輝くクリスタルカラーの剣、通称イルミナを手に取った。Calebは、はぁ、と気怠げなため息をつき、同じくイルミナを握った。剣が何であれ、手に入れば良いといった風だ。
一方、iTrappedは砕けたショーウィンドの周りをぐるぐる回り、うーん、うーんと唸っていた。気付いたEllernateが呼びかける。
「iTrapped!大丈夫か?」
「ごめん!どれにするか迷っててさ」
「早くしないと置いてくぞ!」
「わあっ!!分かった、急ぐよ…!!!」
陳列している剣を見る。
「(NateもCalebも選んでたし、オレもイルミナにすべきかな….)」
と。iTrappedは、そのイルミナの隣に異質なものを見た。剣先から柄まで、吸い込まれそうな漆黒。通称ダークハートと呼ばれるその剣は、斬られた者の生命力を吸い取るという曰くつきのものだった。
「…..かっこいい」
少年iTrappedは、ただ、単純にそう思った。
「iTrapped!!決まったか?」
「ああ!」
ダークハートはすんなりとiTrappedの手に収まった。拍子抜けするほど軽い。
「よしきた」
Ellernateは火災時の避難路のドアをこじ開け、他の2人を先に行かせた。後はあっけないもので、途方もなく長い階段を猛スピードで駆け降りる。外の方から、恐らく野次馬と警備員であろう声が微かだが聞こえる。
「なんでこっちには1人も追っ手が来ないんだ?」
iTrappedが聞く。
「さっきのバールで窓を割った。んで固定したロープを垂らして…..そしたら、滑り降りて逃げたように見えるだろ?」
「へぇ、考えたなNate!」
「こんぐらい楽勝さ」
フード越しでも、iTrappedはEllernateが得意げに笑ったのを容易に想像できた。
ポチポチ、ピコピコ。深夜の拠点にて、妙に軽快な電子音でiTrappedは目を覚ました。まぶたをこすりながら階下へ行くと、Ellernateがダイニングテーブルに座っており、昼間見たパネルをいじっていた。
「Isaac。起こしてしまったか」
「ううん、勝手に起きただけ。何してるんだ?」
Ellernateは一瞬iTrappedを見つめた。iTrappedはなんだか全て見透かされているような気がして視線を泳がせたが、Ellernateはすぐに話を戻した。
「エクスプロイトがきちんと動くかのメンテナンスと、漏洩してないか見てる。俺ら以外に使ってるやつらがいたらまずいだろ」
iTrappedがパネルを覗き見る。
「なんでハッキングするのにお菓子が要るんだ?」
「へ?」
Ellernateは画面に視線を戻し、それからiTrappedとパネルを交互に見て、クスクス笑い始めた。iTrappedは訳が分からずぽかんとしていたが、Ellernateはそれでも笑いが抑えきれないといった風だ。
「お前、まさか….ハハッ….Cookieの話してんのか?」
「うん」
「よーし分かった」
Ellernateが立ちあがる。
「この際ちょうどいい。Isaac、エクスプロイトの使い方を教えてやるよ」
「本当か!!?」
「俺はコイツを、イラつくアイテムトレード詐欺師どもの撃退に使っていたが…もうそろそろ、みんなで色んな事に使っていいだろう」
「やった!!ありがとうNate!」
二人は眠る事も忘れ、遅くまで談笑した。
翌日、5月3日。iTrappedは跳ね起きたが、既にEllernateも、Calebも外出していた。どうやらあの後テーブルに突っ伏して寝ていたようで、Ellernateがかけてくれたのか申し訳程度にブランケットがあった。目の前にはメモ書きと共にワンプレートの朝食が置いてある。
【起きたら食え 俺もCalebも先出てる、あと】
「ん….?」
【昨日教えたやつ バカなことに使うなよ。俺は2回もBANされかけたんだからな】
それで、iTrappedは昨晩の記憶が一気に蘇った。スクランブルエッグを頬張りながら、例のパネルを表示させてみる。
「何ができるのか、試してみよう」
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