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この世界はいつの日からか少しずつ崩れていった。いつの間にか、ずっと夜空で、しかも明るい星たちは消え去った。人々は皆、暗く沈み、ただ兆しのない夜明けを待っていた。
僕はというと、辛うじて感じる一日の始まりの兆しをもとに、崩壊しゆくこの世界の歯車を回していた。僕は少しだけ、人より朝がくるのと夜が来るのがよく分かった。本当は交代制で歯車を管理するけど、まともに動けるのは僕くらい。みんな意気消沈、項垂れて虚空を見つめている。誰も指一つ動かす気すら起きないようだ。
管理してる歯車は、最初はギイギイと音を立てるくらいだったのが、今では壊れたり錆びついたりして、ボロボロだ。やっとのことで修理するにも、数が多くて追いつかないし、材料が僅かしか届かない。しょうがない、皆意気消沈しているから人手が足りないのだろう。僕も行って取ってくるしかない。カバンを肩から下げて、籠を持って、休みなく働いて限界の体に鞭打って、僕は暗い歯車の小屋を出た。
採掘場へ、丘を超え、畑を横目に冷たい風に打たれ、少し長い道のりをトボトボと歩く。入口へと向かうと、くたびれた作業員達がうなだれて座り、それを困ったように頭と思われる親父が見下ろしている。
「どうも、初めまして。あなたがここの頭?」
なるべくにこやかに声を掛けると、彼が顔を上げた。
「ああ、歯車のとこの奴か。すまない、皆このとおりだし、材料もほとんど取れなくなってしまった。ここはお終いかもしれん」
申し訳なさそうに目を逸らされる。やはり、どこも同じような状況か。
「あるだけ持ってけ。とはいっても大した量はないがな。もうここから材料たちを持っていくことはないかもしれん。」
力なく笑うその顔にはなにか黒いものが影を落としているように見えた。
「お前さんは強くあれよ」
そう言うと頭の手がズン、と僕の体に重さを預けて、頭はズルリと崩れ落ちた。僕は強く頷いて鞄いっぱいの材料を抱えて、歩いてきた道を夢中で走り出した。