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リディアとシルヴィは、洗い終わったシーツの入った籠を抱えて廊下を歩いていた。先程下女から受け取った帰りだ。
「リディアちゃんの手作り……なんて素敵な響きなの!」
リディアは、昨日の菓子作りの話をシルヴィにすると、思いの外彼女は食いついて来た。
「そ、そうかな……。でも、私が作ったのは結局丸焦げになっちゃって」
「そんな事は、取るに足らない事だわ。重要なのはリディアちゃんが作った! と言う事実よ。羨ましい……あぁ~私もリディアちゃんの手作りお菓子を食べたかったわ」
シーツの入った籠をこれでもかと言う程に抱き締め、シルヴィはため息を吐く。意外と力強いシルヴィの所為で籠が変形している……。リディアはその姿に、苦笑した。
あんな焦げたビスケットをシルヴィに食べさせるなど出来ない。お腹でも壊したら一大事だ。でも、あんな駄作品でも僅かながらに需要があると思うと嬉しくは感じる。
(そう言えば、あの駄作品はどうなったのだろう……)
ディオンに取り上げられてしまったが……考えるまでもないかとリディアは内心沈む。
何しろ、あの意地悪な兄の事だ。
あんな風に言った所で、今頃ゴミ箱行きになっていると思う。きっと貰ってやるは、捨てといてやるという意味に違いない。
「リディアの手作りなんて、それは是非あり付きたいものだな」
リディアの持っていた籠が急に軽くなった。その原因に視線を向ける。
「リュシアン様」
リュシアンはリディアの籠を持ち上げると「手伝おう」と声を掛けてくれた。
「兄さん! そうでしょう? そうよねー‼︎ やっぱり兄さんは話がわかるわ!」
瞬間ぐしゃっと聞こえた。力み過ぎて到頭シルヴィの持っていた籠は、可哀想な事になってしまった。
「リディア。次機会があれば、是非私にも少し分けてくれないかな」
「え、そんな! 到底リュシアン様に差し上げられる様な品物では……」
頭の中に昨日の駄作品を思い浮かべ、リュシアンからの申し出に焦った。
「そうか……やはり、手作りなる物は好いた相手ではないと渡したくないものだな。リディア、無理を言ったな。すまない……」
そう言いながら見るからに落胆するリュシアンに、呆然とする。何だか変な方向に話が流れてしまった気がする……。
好きとか嫌いとか、そんな次元の話ではなく、ただ単にリディアの調理する技術が恐ろしく残念故、差し上げられないと言う意味なのだが……。
「そんな……私は決してリュシアン様の事を嫌っている訳では……」
「なら、私の事をどう思ってるんだ」
リディアの笑顔が固まった。どうとは、どうなのか。彼は親友であるシルヴィの兄だ。それ故、数年来の知人でもある。優しく誠実な人柄で、出会った当初から好感は持っている。
だがその事をどの様に伝えればいいものか、リディアには分からない。頭の残念な自分は、言葉選びが酷く下手くそだ。
リディアは瞬間黙り込み悩んだ。
「えっと……リュシアン様の事は優しくて、誠実ですし、好きです」
改めて口に出すと照れ臭い。無意識に頬も染まる。
シルヴィの事も、リュシアンの事も、エクトルの事だって、皆リディアに取って大切な人で、大好きな人達だ。
「そうか! 私もリディア、君を好いている」
「あ、ありがとうございます……」
思いの外、リュシアンからの圧を感じたリディアはたじろぐ。
嬉しそうに笑みを浮かべるリュシアンに、何処となく温度差を感じるが深く考えるのはやめた。考えた所で分からないだろう。
「兄さん、最近攻めるわね」
シルヴィは、不敵な笑みを浮かべる。
「そろそろ本気を出さないと、また何処ぞの奴に取られてしまうかも知れないからな」
謎の会話をする兄妹に、リディアは「やっぱり、仲がいいな……」と一歩引いて眺めていた。