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コメント
9件
おぉお......上手い...... すごいね......天才だ......
ぐふぉっっ(? 負けるからまだ引き下がっておこうじゃないか… 自信ついたら挑戦しに行くわあああ
ちーちゃんよ!対決用の作品!
地平線の彼方へ
「なあ、りうら。地平線の向こうって、なんがあると思う?」
ないこは、夕日に染まった草原の真ん中で立ち止まり、遠くを指差した。
「そんなもん、知らねえよ。でも……」
俺はゆっくりとその隣に並び、同じ方向を見た。
「おまえとなら、どこまででも行ける気がする」
そう言ったら、ないこはふっと笑った。
「おまえって、ほんま昔から変わらんな」
◇ ◇ ◇
ないことの出会いは、小学二年の転校初日だった。
「……俺、ないこって言います」
おどおどしてたくせに、やたら目だけは強くて、俺はつい手を伸ばしてた。
「りうら。よろしくな」
それからの十年間、俺たちはずっと一緒だった。
他人にとってはただの“仲のいい友達”。
でも、俺たちにとっては違った。
寒い夜に一緒に星を見たり、
腹が減ったってコンビニでおにぎりひとつを分け合ったり、
怪我したら無言で絆創膏を差し出してくれたり、
泣きそうなときは黙って隣に座ってくれたり。
恋人じゃない。
けど、家族とも違う。
「俺の世界に、あいつがいる」って、それだけで充分だった。
……本当は、ずっと気づいてた。
ないこの体が、どんどん弱っていること。
走るのが遅くなったこと。
息がすぐ上がること。
笑顔が、少しだけ薄くなったこと。
けど、ないこは言わなかった。
だから俺も、聞かなかった。
「――地平線の向こうに行こうや」
高校の卒業式の帰り道、ないこがそう言った。
「俺、やっぱ見たいねん。りうらと一緒に」
冗談っぽく言ったくせに、目だけは泣きそうで。
だから俺は、すぐに頷いた。
「行こうぜ。明日でも、今すぐでも」
◇ ◇ ◇
俺たちは、でかい地図とボロいリュックだけ持って、旅に出た。
知らない駅で降りて、知らない町で朝を迎えて、
道端でギターを弾くやつに混ざって歌ったり、
知らんおばあちゃんにもらった漬物を「うまいな」と笑い合ったり。
ないこは、疲れたときは俺の肩にもたれて眠った。
俺は、夢の中でも、ないこを守れるように願った。
「りうら……俺、もうあかんかもな」
小さな山の上で、ないこはそう言った。
顔は笑っていたけど、手は震えていた。
「馬鹿言うなよ。おまえ、約束したろ。地平線の向こう、俺と一緒に行くって」
「……せやな」
それでも、ないこは少しだけ目を閉じて、俺の手を握った。
「じゃあ、もし俺が先に行ってもうたら――おまえ、ちゃんと追いかけてこいよ」
「バカ言ってんじゃねえ。おまえが俺を引っ張れ。俺が迷ったら、怒鳴ってでも引きずれ」
ないこは、くすっと笑って、言った。
「そんときは、地平線の向こうから、でっかい声で呼んだるわ」
◇ ◇ ◇
それから三日後、ないこは帰らぬ人になった。
泣かなかった。泣けなかった。
あいつの分まで、見なきゃいけない景色が、まだあるから。
俺は、今も旅を続けてる。
あいつが笑ってた場所を、足跡を、一つ一つ辿って。
空に向かって叫びながら。
「なあ、ないこ。聞こえてるか?」
「もうすぐや。地平線の向こう――おまえのいる場所まで、あと少しや」
俺は歩く。あいつと約束した、あの場所へ。
涙はもう枯れたけど、心はまだ、あいつの声を覚えてる。
「……待ってろよ、ないこ」
「おまえの手、もう一度、握りに行くからな」