プロカットレッド
桃赤
青赤
彼の笑った顔を思い出していた。
その、思い出だけが幸せで。
「赤ー!こっちにいい感じの場所見つけた」
「ちょ、桃ちゃん急に勝手にどっか行かないでよ!」
「ごめんじゃんwりんご飴買ってきてやったから」
「そーじゃなくて!」
肩や髪がじわりと濡れている彼に慌てて傘を差すと、身長差でヒョイっと傘を持ち上げられてぐいっと肩を抱かれ誘導されるまま2人で歩く。
「もっとこっち寄らないと濡れるぞ?」
「っ//」
少し肩に抱かれる力が強くなると、顔が赤くなっていくのが分かり渡されたりんご飴をぎゅっと握りしめた。
「ほら、ここ」
彼がピタリと足を止めた先にはひまわり畑をバックに大きな花火が打ち上がっていた。
自慢げに嬉しそうに空を見上げる桃くん。
周りにはいつの間にか俺達しかいなくなっていてドキリと心臓が跳ねた気がした。
赤、青、黄色、緑、オレンジ、紫….ピンク。
「きれい….」
ぼーっと目の前の花火に魅入っていると、横から不意に視線を感じて顔を上げた。
するとそこには頬をほんのり染めた桃くんがじいっとこちらを向いていた。
「な、なに….?//」
さっきから何も言葉を発しないので段々この空気感に耐えられなくなってきて慌てて耳に髪をかけ、いたたまれなくなる。
自分の顔に何かついているのだろうか。
今日は楽しそうな母親に流されて浴衣を着せられた。髪も緩くアップして椿の髪飾りが揺れる。
何かもお見通しの母親には、
「桃くんに可愛いって言って貰えると良いわね」
なんてニヤニヤしながらお墨付きを貰う様である。
….似合ってなかっただろうか。
やっぱり桃くんと同じで普段着で来ればよかった。
悶々と後悔を繰り返し恥ずかしくなって人差し指に横の髪を巻き付けていると、桃くんがふにゃっと目を細めて朧気に口を開いた。
「….ん//浴衣可愛いなあって」
「へ….?//」
だって、そんな顔されたら
俺が顔をみるみる真っ赤にさせると、桃くんはまた前を向いてクスクス笑った。
あぁ、
こんなに、
こんなに好きで
どうしたらいい。
そっと横にいる彼を盗み見る。
鼻筋が通った綺麗な横顔も、少し眠そうな瞳から見える意外と長いまつ毛も、控えめに閉じられた薄い唇も。
「….好き」
大きな花火が上がった途端ポロリと溢れて零れた。
もちろん隣にいた彼に届くことなく花火の光とともに消えてなくなっていく。
だって、彼はほんとにずるい。
こうやって好きで好きでどうしようなくなっていく。
この気持ちが溢れてしまわないように大事に大事に飲み込んで。
いっその事このまま花火の光に紛れて彼の1部になってしまいたい。
気持ちが伝えられない代わりに、そうなれたらどんなに幸せか、なんて。
「….大好き」
君と見た最後の花火。
―――
「夏祭り?」
「そう!!今年は2人で行きたいなぁって….出来れば浴衣姿みたい….」
明日からいよいよ夏休み。
さすがというかクラスのみんなはテンション爆上がりで何をしようか楽しそうに話している。
目の前の青ちゃんも目をキラキラさせて俺の机に両手を置いてしゃがみこんでいた。
彼のアプローチは凄まじいもので….
「行くのは全然いいんだけど….ゆ、浴衣….?」
「うん、だめ….かな?」
「うっ//」
マルチーズを連想させるような、そんなきゅるきゅるした目で見られたら断る理由もない。
行こう、とブンブン頷くと青ちゃんに正面から抱きつかれてぐへっ、と間抜けな声を出してしまった。
―――
「良かったわ〜まだこの浴衣着れて」
「…….」
ウキウキな母親に鏡の前で髪をいじられ、俺は思わず不貞腐れる。
「も〜あんたは何にそんな不機嫌なのよ」
「俺….全然身長伸びてない….肩幅も変わってないし….」
俺の言葉にお母さんが最後に椿の髪留めをつけながら爆笑する。悔しい。
「あ、そういえば桃くんと同じクラスなんでしょ〜。一緒に行かないの?今年も」
“今年も”
その強調した呆れ顔に心臓が嫌な音を立てた。
「お母さん、この間桃くんのお母さんとご飯行ってきたのよ〜?桃くんこの間のテスト、数学学年で1番だったらしいじゃない〜凄いわねぇ」
俺の両親と桃くんの両親は仲が良く、俺の家にたまに桃くんのお母さんが来ているのを見かける。
昔は2家族揃って旅行に行ったり庭でバーベキューをしたりした。
….引っ越してからは1度もないが。
俺達の両親は俺と桃くんが険悪になったのに気づいている、….多分。
てか俺険悪レベルじゃなくて嫌われてたんだった。
項垂れていると、玄関のチャイムが控えめになった。
「ほら、青くんもう来ちゃったわよ」
いつの間にか髪のセットが終わったらしいお母さんはポンっと俺の背中に手を添える。
「楽しんできなさい」
優しく笑うお母さんに鏡に写る自分からそっと目を逸らしながら小さく頷いた。
「青ちゃんお待たせ!もぉ、青ちゃんが浴衣着てきてなんて言うから遅くなっちゃっ….」
赤い花が所々に咲いている淡い浴衣にピンク色の帯。髪についた椿の髪飾りと耳には白い真珠のイヤリングが揺れる。
慣れない下駄に足を入れながら白いTシャツ姿の彼に微笑むと、急にカァァァと顔を真っ赤にさせて髪をぐしゃぐしゃかくものだから俺はオロオロと目の前の青ちゃんを見上げた。
「あ、青ちゃ….?」
「可愛いすぎ、抱きたい」
「なっ//」
ほんとに青ちゃんはストレート過ぎるというか….
本当に心臓に悪い。
顔の火照りを隠すように俺は先に歩き出す。
「お、俺先いくからね!!!//」
「ぁ、待ってよ赤く〜ん!!」
―――
「すごい人だねぇ」
青ちゃんとはぐれないように必死に歩きながら俺は当たりを見回し呟く。
提灯の光。美味しそうな食べものの匂いが鼻腔をくすぐった。
色とりどりの浴衣を着た可愛い女の子達や射的に熱くなっている男子たち、お年寄りから小さな子どもまで….ガヤガヤ楽しそうにお祭りを楽しんでいる。
フラフラと隣を歩く俺に気づいたのか、青ちゃんはぎゅっと俺の手に指を絡ませた。
「はぐれないように….ね?」
「ぇ//う、うん」
そっと握り返すと青ちゃんも負けじと握り返してくるので参ってしまう。
彼にリードされるがまま、わたあめやたこ焼きを食べたり、金魚すくいや型抜きなどを楽しむ。なれない下駄のせいで段々擦れて痛くなってくる足は見ないふりをした。
しばらくすると少し離れたところに見慣れた黄色、紫、橙髪が見える。
「あっ黄く、」
思わず近寄ろうとすると、急に繋がれた手をぐいっと引かれて屋台と屋台の隙間に引っ張られた。
「黄、射的の景品取りすぎやない?」
「ほんとだ、凄い量www」
「….無事に出禁になりましたのでご安心を(((」
「いや、安心出来る要素どこにもないんやけどwww」
楽しそうに去っていく3人の会話を横目で聞きながら、ぎゅっと俺を無言で抱きしめている青ちゃんの様子をそっと伺う。
「あ、青ちゃん….?」
「…….」
「その….ど、どうしたの….?」
「…….やだ」
「え?」
「…….今赤くんと二人きりだから….邪魔されたくない」
「っ//」
そんな、熱い目で俺を見ないで。
さっきから恥ずかしすぎて死にそうだ。
告白される前の青ちゃんとは別人のようで調子が狂う。
「お、俺ちょっと飲み物買ってくる!!//」
「ちょ、赤くん!?」
耐えきれなくなって思わず彼の腕から抜けて慌てて走り出す。
赤くなった顔はちゃんと隠せていただろうか。
俺は、桃ちゃんが好きなはずなのに。
───
祭りの明かりから少し離れたところの自動販売機にたどり着き息を整える。
呼吸が安定してくるのと同時に足の痛みがジンジン強調してきて足元に目をやった。
するとやっぱり擦れて大部分が赤くなって所々出血していた。
今すぐにでも脱ぎたいがここで俺が我儘を言ったら青ちゃんに迷惑がかかってしまう。
「はぁ….」
溜息をつきどうしようかと自動販売機の光をぼおっーと見つめていると急に肩をとん、と誰かに叩かれた。
「君大丈夫?」
恐る恐る振り向くとそこには柄の悪そうな大学生くらいの男達が3、4人立っていた。
「顔色悪いね、どこかで休んだ方がいいよ」
「ぁ….いや、えっと」
ぐいっと腰に手を回されゾッと鳥肌が立つ。
「え、待って待って。この子めっちゃ可愛いじゃん」
「ラッキー!!じゃ、行こっか」
男達に囲まれながら非力なため抵抗出来ず連れていかれる。
思わず顔を顰めてしまうようなキツい香水の匂い。
青ちゃんはよく家で嗅ぐ優しい柔軟剤の匂いがした。
大好きな彼からはいつもずっと嗅いでいたいようなレモングラスの匂いがしたな….。
変な感傷に浸って慌てて我に返る。
「や、やだ….」
なんで、どうして。
青ちゃんから俺が勝手に離れたから?
誰か….だれか、
お願いだから、たすけて。おれをたすけて。
…桃ちゃん、!
咄嗟に思い浮かんだのは優しい桃色だった。
To Be Continued….
あ、あっ、おお久しぶりです(震)
最近低浮上でほんと申し訳ございません(((
明日から4日間テストなんです….泣
夏休みは沢山投稿できるように頑張ります💪
青赤ばっかで….( ‘-’ )スゥゥゥ↑いちおー、桃赤なんで回想とかで要素入れてるつもりなんですけど….泣
コメント
21件
はみぃさんのお話本当に大好きです 。 青くん必死で赤くんにアプローチをしていても結局は桃くんなんだなって気づいてるのが切なくて何度も感情移入してしまいました 。 ブクマ失礼致します 。
わーーーー!!夏休み部活で毎日忙しいから毎日はみぃちゃんのお話見たいってレベルで欲してる笑笑 今回も重要ありすぎなお話ありがとう😭続き待ってるー!
今回もだいすきです😵💫💗 とりま生きてるんなら低浮上でもなんでもよしなんで!!!😹 ここから桃赤になるのだいぶつらすぎますけど、、、、わたしは1番手派ですっ!!!!!! 続き!呑気に待ってますね!!💞💞 テスト頑張ってください!!!!!💪🏻💓