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翌日、若様は遠征に出かけていき、姿を見かけない日が続いた。
俺は俺で忙しく、若様に恋の話をした記憶も少しずつ薄れていった。
K「今日は荷物運びか…」
重労働は翌日に響く…。
K「っよ…っと…」
荷物を抱え込むと、足早に誰かが近づいて来た。
重臣「おい、若様がお呼びだ」
こちらの状況など気に留めず、要件をさっさと伝えられる。
もう、戻られていたんだ。
K「分かりました、すぐ向かいます」
呼びに来た人の表情が険しかった。
何かあったのか…。
自然と足が速くなる。
ス…ッ
出来るだけ早く静かに襖を開ける。
K「お待たせ致しました。お呼びでしょうか」
深く礼をした後、顔を上げる。
部屋の奥、蚊帳の中に横になっている若様が見えた。
爺「…お前が良いと言って聞かなくてな…、旅の疲労だ」
冷水の入った桶と手拭いを渡される。
爺「若様が眠るまで、看病してくれ」
K「分かりました」
ゆっくりと若様に近づく。
蚊帳をくぐると、額に汗を浮かべて苦しそうな若様が横たわっていた。
俺が、こんな弱った姿を目にしてもいいのだろうか。
気配を感じたのか、若様のとろりとした瞳と目が合う。
R「かのん…来てくれたか…」
K「はい」
枕元に座って、手拭いをよく冷やす。
K「若様、冷たくなりますよ」
若様の額に手拭いを当てると、ふぅ…と気持ち良さそうに息を吐いた。
R「気持ちが良い…ありがとう…」
K「いえ」
若様が目を閉じる姿を見つめながら、どうして俺なのだろうと理由を探す。
でも、いくら考えても大した理由は浮かばなかった。
R「今日は…何をしていた…?」
K「え?」
R「お前の仕事」
K「若様にお話できるような、楽しいものではありません…」
R「気にするな…お前の声を聞いてると、落ち着く…何か話せ」
K「分かりました……。では、今日は何もせずにこちらに向かったので、昨日の話を…」
ぽつりぽつりと話始める。
こんなので良いのかと不安になりながら、昨日の出来事を思い返す。
気が付くと、すーっと寝息が聴こえてきた。
あ……、眠った…。
眠っていてもその端正な顔立ちが際立っていて、綺麗な人だなと思ってしまう。
…いけない、見惚れてしまった。
あまり長居してはいけないだろう。
手拭いを冷やし直し、持ち場へ戻ろうと立ち上がる。
R「…くな…」
K「…っ」
手首を急につかまれた。
R「……行くな」
熱に潤んだ瞳が、不安そうにこちらを見つめる。
まるで縋り付くような目に、立ち去ろうとしていた足が動かなくなった。
いつもの若様からは想像もできない表情だった。
再び、膝を揃えて座る。
手首をつかんでいた若様の手の力が抜け、今度は指を数本掴まれた。
そして、また寝息が聞こえる。
どうしよう…眠るまでと言われていたのに身動きが取れなくなってしまった。
掴まれた指を見つめたまま、 固まってしまう。
ス…ッ
爺が入ってきた、こちらに近付いてくる。
また何か言われる。しかも、この状況だ…。怒られるに違いない。
蚊帳の中にそっと入って来ると、爺は目を丸くして、その場で固まった。
K「これは…」
声を潜めて理由を話そうとする。
爺「…話さなくてよい」
困ったように笑うと、また呼びに来ると言って立ち去ってしまった。
俺は状況が理解できず、ただ若様の寝顔を見つめるしかなかった。
頬をほんのり赤く染めた寝顔は、驚くほど無防備だった。
爺「仕事中に悪かったな」
K「いえ…」
爺が目を伏せて、息を1つ吐いた。
爺「若様は、幼い頃に母親を亡くしている」
K「はい」
確か、ご病気で…。
爺「ずっと誰にも甘えずに過ごしてきたからな…でも、 お前の手を握っていたのは驚いた」
ククッと笑う。
爺「今後も近づき過ぎないで欲しいが…。話し相手くらいには、なってやってくれ」
K「分かりました」
指先に残る感触を、そっと握り締める。
こんなこと、思ってはいけないのだろうけど、
ーー可愛い、と思ってしまった。
R side
鳥の鳴き声が遠くで聴こえて目が覚めた。
朝だ。
昨日、怠くて熱かった身体は落ち着いていた。
かのんは?
目を開けた瞬間、無意識に探していた。
居るはずもないのに。
爺「お目覚めですか?」
爺が後ろ手に手を組んで、機嫌良さそうに近付いてきた。
R「なぜ笑っている?」
爺「いえ、若様が回復されて嬉しいだけです。茶を置いていきますね、今日もゆっくり療養されてください」
昨晩の事を、断片的に思い出す。
かのんの落ち着いた低い声、温かい肌の温度、それから…何か話していてくれたが、思い出せない。それが子守唄のようで、いつの間にか眠っていた。
思い出すと、会いたくなった。
一声かければすぐに駆け付けるだろう。
しかし、今日も呼び出せば仕事に差し障る。
夜になったら呼ぼう。それくらいは許されるだろう。
茶を一口飲み、再び目を閉じた。
コメント
1件
ああ、もう…第4話、すごく良かったです。若様がかのんさんにだけ見せる弱さがたまらないですね。「行くな」って手首掴むシーン、胸がぎゅっとなりました。普段は凛としてるのに、熱に浮かされて縋る姿が切なくて…。それを見た後の爺さんの「話さなくてよい」も、全てを察した感じで好きです。指先の感触を握り締めるかのんさんの気持ち、すごく分かります。若様も寝起きにかのんを探してるのがもう…二人の距離が少しずつ縮まってるのがじわじわ来ますね。続きが気になります!