明日香が晃河を見ると、晃河は恥ずかしそうに言う。
「ほら、明日香のこと女の子だと思ってたから…」
そんな晃河を見て、明日香はクスッと笑う。
「いいじゃん。せっかく再会出来たんだし、結婚する?」
明日香が冗談でそう言うと、晃河は慌てた様子で言う。
「バカ!しねぇわ!」
「でも、こーくんは俺と結婚したいんでしょ?」
「だからそれは明日香が女の子だと思ってたから!」
必死にそう言う晃河を見て明日香はクスッと笑う。
「何笑ってんだよ」
「いや、可愛いなって思って」
明日香が笑顔でそう言うと、晃河は顔を真っ赤にして言った。
「…俺もう帰るから!」
そして晃河はそのまま教室を出ていった。明日香は、そんな晃河見てまたクスッと笑いながらも、教室を後にするのだった。
翌日、学校に登校し教室に入ると、明日香は既に登校していた晃河の元へ向かった。晃河は朝からクラスメイト達に囲まれている。
「こーくん、おはよ」
明日香がそう言うと晃河は少し恥ずかしそうに「おはよ」と返した。周りのクラスメイト達は不思議そうに明日香を見る。
「明日香、晃河と仲良くなったの?」
「まぁ、そんなとこ」
明日香はクラスメイトにそう答えると、自分の席に座った。
その後、ホームルームが始まって先生の話を聞いていると、ふと晃河の机の横に掛けられたカバンが目に入る。
そのカバンには、昨日まで付いていたあの赤いお守りが付いていなかった。
(…外したのか)
ホームルームが終わると、明日香はすぐに晃河の元へ向かう。
「こーくん、お守り外したの?」
「…うん。もういらないから。明日香と会えたし」
「そっか。俺も付けようかなって思ったんだけど」
「付けなくていいよ。なんかほら…変じゃん。高校生にもなって男同士でお揃いとか」
「そう?俺はこーくんとお揃いでもいいけどな」
明日香のその言葉で晃河の頬が少し赤く染まる。
「…そのこーくんってやつやめてよ。もう子供じゃないんだし」
「あー、ごめん。癖でつい。晃河くんでいい?」
「…晃河でいいよ。晃河で」
少し目を逸らしながらそう言う晃河に明日香はニコッと笑った。
「わかった。晃河ね」
明日香は晃河にそう言い、席に戻った。
昼下がりの教室。窓際の方から「きゃーっ!」という悲鳴が上がった。
「なに!?虫!?」
「うわ、飛んだ!」
数人のクラスメイトがざわつく中、1人の男子が丸めたプリントを手に立ち上がった。
「俺がやるよ!」
その瞬間、晃河がすっと立ち上がり、その手を止めた。
「待って。殺したら可哀想だから、逃がしてあげよう?」
そう言って、優しく手を伸ばし、小さな虫をそっと両手で包み込む。
みんなが見守る中、晃河は窓からその虫を外に放した。
「ほら、これで安心でしょ」
明日香はその姿を見つめながら、胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
(晃河は優しいな)
クラスメイト達もそんな晃河を見てワーワーと騒ぐ。
「やっぱ晃河はすごいな〜」
「晃河くん、かっこいい!」
「おい〜!顔がいい上に性格も良いのかよ〜!もう俺に取り柄ないじゃ〜ん!」
そう言う男子にクラスメイト達があははと笑った。
晃河が席に戻ると、先生は「授業再開するぞ〜」と授業を再開させた。
晃河の紳士っぷりは明日香の目にもよく留まった。
ある日の放課後の廊下。明日香は荷物をまとめて教室を出る。少し歩くと、前に晃河が歩いていた。話しかけようとした時、晃河は前を歩いているテキストの束を持った女子に話しかける。
「大丈夫?職員室だよね。俺、今から行くから持ってくよ」
「えっ、でも…」
「いいの。ついでだから」
そう言って歩き出す晃河に女子は「ありがとう」と言ってこっちの方へ歩いてくる。
その子の顔はとても笑顔で、頬を赤くして歩いていった。
(あの子、完全に惚れちゃったね…晃河ってホント紳士だな)
明日香はそんなことを思いながらその場を後にするのだった。
そしてまたある日。授業の終わり頃、先生が言う。
「急だけど、ノート集めるぞ〜」
数人のクラスメイトが「まじか〜」と残念そうに言う。
そして俺の前の席の男子は少し慌てた様子で言う。
「やべっ!貼ってないプリントあるのにのり忘れた!」
そんな彼の横の席の晃河はサッとのりを差し出す。
「はい。これ使って」
「わ!まじ神!サンキュ!」
そう言って彼は晃河からのりを受け取った。
(スマートだな…)
その紳士っぷりを見る度に、明日香は晃河に惹かれていった。
明日香が転校して2ヶ月程経った頃。明日香達は体育のバレーの授業を受けていた。もう秋も終わり、ほとんどの人が半袖の体操服の上にジャージを着ていた。そんなに寒くないと感じていた明日香も何となくジャージを着る。
そんな中、晃河は半袖の体操服を着ていた。いつもはジャージを羽織っているのだが。
(晃河、もしかしてジャージ忘れたのかな)
晃河は先生の話を座って聞きながら、少し寒そうに二の腕を摩っている。
(寒そう…)
(そういえば晃河は、子供の頃から寒がりだったな)
明日香の頭に昔の記憶が流れる。
ーー数年前。
いつも通り公園で遊んでいた2人の間に冷たい風が吹き抜ける。半袖の服を着ていた晃河は「くしゅん」とくしゃみをした。
「こーくん、寒いの?」
「寒くないよ」
「でも、くしゃみしてたでしょ」
「えっと…なんか鼻に入ったの!」
そう言う晃河に明日香はクスッと笑った後、自分が着ていた上着を晃河に被せる。
「はい、明日香の貸してあげる」
「でも、明日香も寒いでしょ?」
「明日香は大丈夫!寒くないよ!だからこーくんが着て?」
明日香がそう言うと、晃河はこくりと頷き、上着に腕を通した。
「ありがと」
少し頬を赤くしながら晃河はそう言った。
ーー現在
(なんか、懐かしいな)
先生の話が終わると、明日香は晃河の元へ向かう。
「晃河、寒いの?」
そんな風に明日香は昔のように晃河に聞く。
「…寒くないよ」
そう言う晃河に明日香は脱いだジャージを被せる。
「ほら、これ着て。晃河は寒がりなんだから」
明日香が笑顔でそう言うと、晃河はジャージに腕を通す。
「…ありがと」
昔のように頬を赤くしながらそう言う晃河に明日香はクスッと笑った。
「晃河、昔と変わってないね」
「何が?」
「え〜?それは…内緒?」
「はぁ?なんだよそれ」
「あーほらもう、ちゃんとチャック閉めないと寒いでしょ」
そう言いながら明日香は晃河のジャージのチャックを閉める。
「…ありがと」
晃河は明日香にそう言った後、足早にコートの方へ向かっていった。
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