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Sano
リハ終わりの控え室。
照明を落としたソファに、仁人がだらしなく沈んでいる。疲れているのは明らかなのに、口だけは相変わらず素直じゃない。
ーー嗚呼、これは限界近いな。
「 別に、平気だし 」
口では “ 平気 ”とか言う癖に、ジャケットの裾を無意識に引っ張ってるけれど、引っ張る指先が弱々しい。
甘えたい時の癖、昔から変わってない。
俺はそれを見逃さない。むしろ、わざと気付かないふりをして近付いた。
「 へぇ、じゃあ今日は甘えなくていいんだ」
『 … そんな事言ってない』
わざと突き放すと、間髪入れずに返事が来る。
早すぎ。
我慢出来てない証拠。
俺は仁人の前にしゃがみこんで目線を合わせる。
顎に指をかけるほど近付かないのが逆に意地悪だ。けど、近付き過ぎないのは逃げ場を無くすためーーじゃない。自分から来させたいから。
「 顔、赤いけど?」
『 照明のせい 』
「 控室の照明、白だよ?」
『 … うるさい 』
仁人は ふいっ と 顔を逸らす。
“照明のせい”とか言って顔を逸らすのも、全部分かりやすい。
その動きに合わせて一歩、距離を詰めた。
「 ほら 、こっち 」
『 なに 』
「 座り直しな。俺の隣」
命令口調、でも声は落とす。仁人はそういうのに弱い。
案の定、少し迷ってから近付いてくる。
口では文句言うのに、身体は正直。
『 別に 、近くなくていいけど』
「 はいはい 」
何も言わず、仁人の肩に腕を回した。
抱き寄せるでもなく、逃げ道を塞ぐみたいに。
『 重い、』
「 嘘、むしろ軽すぎ」
『 それ褒めてない』
そう言いながら仁人は抵抗しない。
背中がゆっくり俺の胸に預けられていく。
思わず笑いが漏れる。
「 素直じゃないとこも含めて、今日は甘やかす日だから」
『 誰が決めたの 』
「 俺 」
即答。
仁人は小さく舌打ちしてからぼそっと言う。
『 … 勝手 』
でも、その声はもう棘がない。
俺は仁人の髪を撫でる。
ステージ用に整えられたはずの髪は、指に絡むと驚くほど柔らかい。
「 今日 ちゃんと頑張ってた」
『 当たり前 』
「 無理してない?」
『 …してない、とは言わない』
正直な返事が返ってきた瞬間、胸の奥が少しだけ締まった。
「 えらい 」
この一言が効くのも、知ってる。
『 … 今それ言うのずるい 』
仁人は顔を埋めるように俯いて俺の服を掴んだ。
服を掴まれた時、 ああ、ここからだな ってわかった。
「 ほら 、そんな掴み方して 」
『 離す気ないから 』
「 知ってる」
俺は仁人の耳元に顔を寄せて、低く囁く。
「 今日は俺の言う事聞く日 」
『 やだって言ったら ? 』
「 言えると思う? 」
少しの沈黙。
拒否出来ないのも分かってて言ってる。
それから観念したみたいに仁人が小さく息を吐いたのを見て、独占欲が静かに疼いた 。
そのまま仁人の手を取って奥へ。
扉が閉まる音、灯りが落ちる。
ーーここから先は外に見せる必要ない。