テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
この世界には、ごく稀に特別な異能を宿して生まれる者がいる。
人々は彼らを敬い、同時に恐れた。そして、国が定めた絶対の規則
――「能力隔離法」によって、同じ属性の能力を持つ者たちが集まる国へと、一生出られないように隔離される。
雪や氷を操る能力を持った冬馬は、最北にある永久凍土の「雪の国」へ。
植物を育てる能力を持った私は、常春の「花園の国」へ。
それぞれの属性が最も安定する地へと連行される日が、明日へと迫っていた。この世界の法律は、異なる能力を持った恋人たちが共に生きることを決して許さない。
「明日になれば、もう簡単には会えなくなるね」
二人の生まれ育った街の境界にある、静かな丘の上。
夕暮れ時の淡い光のなか、冬馬が私の隣に腰掛けた。彼の横顔はいつ見ても透き通るように綺麗で、けれどどこか寂しげだった。
「……うん。私、植物の能力なんていらなかった。これさえなければ、ずっと冬馬の隣にいられたのに」
私がぎゅっと自分のスカートを握りしめると、冬馬は私の冷たくなった手を、彼のひんやりとした両手でそっと包み込んでくれた。雪を操る彼の肌はいつも少し冷たい。けれど、その包み込み方は、壊れやすいガラス細工に触れるようにどこまでも優しかった。
「そんなことを言わないで、紗良。君の手から次々に美しい花が咲くのを初めて見てとき、僕はなんて世界は綺麗なんだろうって思ったんだ。君の能力は、とても素敵だよ」
「でも、冬馬と離れ離れになるんだよ……? 雪の国と花園の国は、ここから何千キロも離れてる。もう、直接触れることも、こうして声を聴くこともできなくなっちゃうんだよ」
こらえきれなくなった涙が、私の頬を伝ってポロポロとこぼれ落ちる。
私の悲しみに呼応するように、足元の草花が切なげに身を震わせ、小さな白い花を一斉に咲かせた。
冬馬は何も言わずに、私を優しく胸に抱き寄せた。
彼の心臓の音がトクトクと静かに響く。冬馬だって、私と同じように張り裂けそうなほど苦しいはずなのに、彼は私の前で決して涙を見せない。ただ、私の背中を優しく、優しく撫で続けてくれる。
「紗良。僕たちの身体は、明日から引き裂かれてしまうかもしれない。だけどね、僕たちの能力は、きっとこの広い世界を通じて繋がっていられるよ」
冬馬が私の頭をそっと撫でると、彼の指先から光の粒のような、小さくて精巧な雪の結晶がいくつも生まれ、私たちの周りをふわふわと舞い踊った。
「僕が雪の国で降らせる雪は、やがて溶けて川になり、大地を巡って君のいる国を潤す。君が花園の国で咲かせる花は、春の風に乗って、僕のいる凍った街まで香りを届けてくれる」
冬馬は私の顎を愛おしげに持ち上げると、お互いの涙を確かめ合うように、深く、静かな口づけを交わした。
切なくて、胸が痛くて、だけど世界中の何よりも温かいキスだった。
「だから、寂しくなったら空を見上げて、風を感じて。僕の雪が、君の花を守るから。君の花が、僕の冬を温めてくれるから」
「……うん。私、忘れない。冬馬がくれた雪の冷たさも、この優しさも、全部」
沈みゆく太陽が、最後の光で私たちをオレンジ色に染め上げていく。
明日、二人は別々の馬車に乗って、交わることのない遠い国へと旅立つ。
けれど、私たちの心だけは、どんな法律にも縛られない。
空から舞い降りる一粒の雪と、風に揺れる小さな花弁が、夕暮れの丘の上でどこまでも美しく、寄り添うように重なり合っていた。
(了)
♡&コメント&Follow Please
コメント
1件
いやもう読んだ瞬間から涙腺崩壊した……😭💦 「僕の雪が君の花を守るから」って冬馬くんの台詞、マジで刺さりすぎて何度も読み返したよ!! 能力で離れ離れになるのに、自然を通じて繋がってるって思わせてくれるのが尊すぎる… ラストの雪と花弁が重なる描写、美しすぎて鳥肌立った。こんな切なくて温かい別れのシーン初めて見たかもしんない… 短いのにずっと心に残る話だよ。本当にありがとう胡蝶さん…!!🌸✨
#自己紹介
胡 蝶 の 夢
153