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#第3回テノコン
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オババの店を後にして、輝夜とカノンはまた別の家屋へとやって来る。
どう見ても、ギャングのアジトなどではなく。
他と変わらない普通の住居のように見える。
「ここは?」
「わたしの家です」
「はぁ?」
なぜ家に案内されたのか。輝夜は、皆目見当がつかない。
「着替えるんですよ。流石にこの格好で、仲間の前には行きたくないので」
今のカノンの服装は、ゴミ漁りから奪った粗悪なボロ布である。
これ以上この服装でうろつくのは、彼のプライドが許さなかった。
カノンは自宅の扉を開けると。
なんとその場で、着ていた服を脱ぎ始めた。
「……おい」
「この汚物を、家の敷地に入れたくないんです」
よほど綺麗好きなのか。それとも、輝夜に”臭い”と言われたことを気にしているのか。
彼は自宅の玄関で再び全裸になり、着ていた服を外へ投げ捨てた。
またもや、”全裸の悪魔”が相手だが。
やはり輝夜は動じない。
「わたしは軽くシャワーを浴びてくるので、適当にくつろいでいてください」
そういって、カノンは家の中へと入っていった。
家の目の前で、輝夜は立ち止まる。
「くつろぐったって、こんなボロ屋で?」
生まれてからずっと、輝夜は清潔な空間で暮らしてきた。
病院はもちろんのこと、三人で暮らす自宅も清潔である。
こんなスラム街のような場所で、くつろげる体ではなかった。
とはいえ、ずっと家の外で待つのも危なそうなので。
意を決して、輝夜は家の中に足を踏み入れる。
「……お?」
家に入った瞬間、輝夜は驚く。
外観こそ、”ゴミの寄せ集めのような家”だが、内観は普通の家らしくなっていた。
汚れ一つ無い真っ白な壁に、お洒落な間接照明。
シンプルなデザインが好きなのだろうか。
ベッドやソファ、カーテンなどは全て黒で統一されている。
一人暮らしの男の部屋、まさにその通り。
(……いい匂い)
芳香剤でも使っているのか。花の香りのような、心地の良い匂いがする。
ここへ来てからずっと、輝夜はゴミ山続きだったため。ここがまるで天国のように感じられた。
「あー、靴は脱いだほうがいいか?」
「ええ、土足厳禁です」
輝夜は靴を脱いで、部屋の中へと入っていく。
「ふーん」
服が趣味なのか。
壁に、ジャケットやシャツなどが飾ってある。
このゴミ山の街に似つかわしくない、シティボーイのような部屋だった。
「悪くない」
何となく、かつての自分の部屋を思い出しながら。
輝夜はソファに腰掛けた。
◇
「いやぁ、ようやく不快感が消えました」
輝夜がソファでくつろいでいると、シャワールームからカノンがやって来る。
汚れを全て洗い落とし、開放的な表情で。
無論、彼は全裸だった。
カノンの鍛え上げられた肉体を、輝夜はなんてことない様子で見つめる。
「どうでもいいが、お前には恥じらいってものがないのか? それとも、悪魔はみんな開放的なのか?」
「あぁ、いえ。人も悪魔も変わりませんよ。わたしは自分の体に”自信”を持っているので、隠す必要がないんです」
「あぁそう」
つまらなそうに、輝夜は顔をそらす。
「そういうあなたこそ、あまり驚いたりしないんですね。あなたほどの年頃なら、もっと顔を真っ赤にするものかと」
「ふっ。あいにく、わたしは”経験豊富”だからな。男の裸程度で、動じるわけがないだろ」
無論、嘘である。
前世があるからこその余裕であり。
ここまで”裸体”を見せつけられたのは、輝夜としても初めてだった。
「……どうやら、人間は進んでいるようですね」
しかし、輝夜の心情などつゆ知らず。
経験豊富な少女と、カノンは勘違いした。
「あなたも、シャワー使いますか?」
「いや、いい。そんな暇はないからな」
今この瞬間も、栞は悪魔たちに囚われている。
なのに自分だけ、のんきにシャワーを浴びる余裕はない。
「分かりました。では、少々お待ちを」
タオルで体を拭きながら、カノンは何かを探し始める。
「それにしても、ここはやたらと綺麗だな」
「ええ、わたしは綺麗好きなので。この家の内装は、全て他の階層から取り寄せています」
「ふーん」
綺麗好きなのに、なぜこんなボロボロの街で暮らしているのか。
輝夜には分からない。
「これを着てください。サイズが、合うといいですが」
そう言ってカノンが持ってきたのは、黒い女物の服。
「なんで?」
「むしろ、その格好のまま行けると思いましたか? 本気でやるつもりなら、もっと悪魔らしい格好をしてください」
「……わかった」
そこまで言われたら、輝夜も着替えるしかない。
「お前も、さっさと服を着ろよ」
「ええ、もちろん」
服を持って、輝夜はシャワールームへと退避した。
◇
「なるほど」
カノンの用意した服を着て、輝夜は洗面台の鏡で確認する。
黒いレザーのコートに、同じく黒のショートパンツと。
若干、”履いてない”ようにも見える、ちょっと大人なファッションだった。
「こういう服は、初めてだな」
「ええ、とてもお似合いですよ」
輝夜が部屋に戻ると、カノンもすでに着替え終わっていた。
輝夜と同じような、レザー系の服装である。
「こういうのが趣味なのか?」
「まぁ、否定はしませんが。……そもそも魔界では、今レザーが流行ってるんです」
人にも悪魔にも、流行というのは存在する。
現在魔界では、若者を中心にレザー系ファッションが流行っていた。
(あぁ、そういえば)
思い返せば、アミーも世紀末覇者のような服装をしていた。
輝夜は内心”クソダサ”と思っていたが、案外魔界では普通なのかも知れない。
「それにしても、よく女物の服なんて持ってたな。もしかして、彼女の服か?」
「いえ、わたしに彼女はいませんよ。第5層に住んでいると、女性にはモテないので」
「ふーん」
「実はわたし、ブランド物の服を集めるのが趣味なんです」
「……確かに、着心地は悪くない」
やはり、カノンはシティボーイのような悪魔だった。
「で、お前はどこまで協力してくれるんだ?」
二人はソファに座り、これからのことを話し合う。
「ずっと言っている通り、わたしは仲間を裏切りたくないので。……とは言え、美しいレディの頼みも断れない」
「そういうの、最低って言うんじゃないか?」
「ええ、否定はしません」
そもそも、ここに輝夜と一緒にいる時点で、彼は裏切り者と言っても過言ではない。
「なのでわたしは、”騙されたという体”で行こうかと」
「騙された?」
「はい。……これをどうぞ」
そう言ってカノンが渡してきたのは、黒い尻尾のような物。
「これは?」
「”フェイクテール”です。主に、尻尾の数を多く見せるために使うものですが、悪魔になりすますには丁度いいでしょう」
悪魔の強さは、基本的に尻尾の数で決まる。
ゆえに、偽の尻尾で誤魔化す者も存在した。
「ちなみに、これもブランド品です」
「だと思ったよ」
輝夜は、尻尾の手触りを感じ取る。
「それで、わたしはどうすればいい?」
「あなたは、”テックマスターに入りたい下級悪魔”、という設定にしましょう」
「なるほど。つまり、お前はそれを案内したに過ぎないと」
「ええ」
「……確かに。それなら、お前の責任も軽くなりそうだな」
「はい。正面からの裏切りならまだしも、単に騙されたゆえの結果なら、ボスも大目に見てくれるでしょうし」
まさか、人間だとは知らなかった。
最終的に、そう言えば済む話である。
「わたしに出来るのは、そこまでです。少女を助けるとなると、流石に言い訳が効かないので」
「……そうか」
譲歩できるのはそこまで、カノンはそう言い切るものの。
これまでの経験から、輝夜は考える。
このカノンという悪魔。
色々と話した感触からして、女は絶対に殴らないタイプであろう。
それでいて、中々のお人好し。
付け入る隙は、十分にある。
(……)
半ばやけくそ気味に、輝夜はここまでやって来た。
しかし、囚われの身になっている栞を、一人で助け出すのは不可能である。
邪魔者は全員殺すと言ったが。
冷静に考えたら、相手が子供でも負けかねない。
栞を助け出すには、この目の前の悪魔を利用するしか無い。
たとえ、”どんな手段”を使っても。
(……まさか、こんな日が来るとはな)
輝夜は、静かに覚悟を決める。
◆
「やっぱり、シャワーを借りていいか?」
「ええ、構いませんよ」
若干、顔をこわばらせながら、輝夜はシャワールームへ向かった。
中に入ると、そこは人間界のものと何ら変わらず。むしろ、それよりも進んだ設備のように見えた。
やはり、悪魔の技術は進んでいるのだろう。
(……)
シャワーを浴びながら、輝夜は考える。
他人の命と、”自分の体”。
どっちが大切か。
ここまで来たら、もう後戻りは出来ない。
(やってやる)
しっかりと、体を清め。
再び黒の服に着替えると、輝夜は部屋へと戻った。
「ホットコーヒーです。ミルクはご自由に」
「……ありがとう」
部屋に戻ると、カノンはコーヒーを用意してくれていた。
輝夜は、座ってそれをいただくことに。
(……わたしがここまで体を張るんだ。絶対、朱雨と付き合えよ)
心の中で、輝夜は栞に念を送る。
「なぁ」
「はい?」
先程と同様、共にソファに座りながら。
輝夜は、心臓の鼓動が鳴り止まない。
「あの時、わたしがお前を庇ったから。そのお返しとして、手を貸してくれたんだろう?」
「ええ、その通り。恩には恩を、当然のことですから」
カノンは澄まし顔で話す。
「……なら、それ以上の手伝いを頼むには、”それ相応の対価”が必要ということか」
「と、言いますと?」
今まで感じたことのない気持ち。
はち切れそうな胸を抑えながら、輝夜は本題を口にする。
「――栞を助けるのに協力してくれたら、”わたしの体を好きにしていい”。……言ってる意味は、分かるな?」
大事に扱っても、どのみち数年で死んでしまう体である。
ならば、最大限に利用するしかない。
輝夜は、”本気”だった。
「……なるほど」
カノンは視線をそらし、何かを考える。
「……わたしが、あなたと同じくらいの年の頃。自分が生きるのに必死で、他人のために何かをしようとは思いませんでした」
「しかし、あなたはなぜ、そこまで自分を犠牲にするんですか? その行動力は立派だが、とても理解できるものではない」
「”その理由”を、教えて下さい」
輝夜に対し、カノンは問いただした。
まさか、こういう話になるとは。
輝夜は戸惑いつつも、問いに対する答えを口にする。
「……オババが言ってただろ? わたしが呪われてるって」
「ええ」
「今のわたしは、特殊なナノマシンを使って、何とか無理やり生きてるような状態なんだよ。しかも、それを込みで考えても、もって数年の命らしい」
輝夜が、”かぐや”であるがゆえに。
生まれ持った罪がある。
「――わたしは、どうせ先のない自分よりも、もっと別の人間に良くなって欲しい。わたしなんかと違って、あいつらには”幸せになる権利”がある」
みんな、この世界で本気で生きている。
しかし、輝夜だけがそれに当てはまらない。
目覚めてからずっと、”嘘”をついて生きているのだから。
「この理由じゃ、不満か?」
身体を差し出す程度、もはやどうということはない。
すでに輝夜は、”堕ちる道”を選んでいた。
そんな彼女の、真剣な眼差しを受け。
「はぁ……」
カノンは、深く溜め息をつく。
「……こう見えてもわたしは、”純愛派”なんです」
「……はぁ?」
彼の思わぬ一言に、輝夜は唖然とする。
「まぁ、なんと言いましょう。単に性欲をぶつけるのではなく、お互いに愛を感じたいというか、はい」
カノンは、急に早口で話し始める。
「無論わたしも男なので。正直、あなたが”どストライク”なのも確かです。ですが、望んでもいない相手と、無理やりそういった行為をするのは抵抗があると言いますか」
「……あー、つまり。”愛のないセックス”はしたくないって?」
「セッ!? いえ、その。そういうわけではなく」
輝夜の口から出た直接的な表現に、カノンは更に動揺する。
そんな、彼の様子を見て。
(こいつ、単なるシティボーイじゃない。――チェリーボーイか)
輝夜の中で、カノンに対する認識がガラリと変わる。
そして、”悪魔のような笑み”を浮かべた。
「おいおい。なんでも良いから、さっさと結論を言ってくれ。――わたしとやるのか? やらないのか?」
「いえ、その」
尻込みする彼を見て。
”押し通せる”と、輝夜は確信。
ソファの上に立ち、カノンを踏みつける。
「あっ、ちょっと!」
「ふふっ」
その自慢の美脚をもって、ぐりぐりと。
サディスティックに振る舞う。
「はっ、そこはっ」
「ああー? 聞こえんなぁ」
自分よりも弱い奴が相手なら、どこまでも鬼畜になれる。
輝夜は、”そういう人間”であった。
「――し、します! 協力しますから」
「ほう? それで、条件は?」
「無しで大丈夫です!」
「よしっ」
かくして、輝夜は勝利した。
純愛だの言っているような坊やに、負けるはずがないのだから。