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凌先輩の試合が始まった。
それは昨日の遥の泥臭い戦いとは対照的に、残酷なまでに完璧なテニスだった。
「……15-0(フィフティーン・ラブ)」
相手の打球がどこに来るか、最初から分かっているような身のこなし。凌先輩は一歩も無駄な動きをせず、ただ淡々と、確実に相手を追い詰めていく。
「……あいつ、本気だな」
隣のベンチで、遥がぽつりと呟いた。松葉杖を横に置き、食い入るようにコートを見つめる彼の横顔は、いつになく険しい。
「本気……? いつもの凌先輩と、何か違うの?」
「……ああ。あんなにコースを厳しく突くのは、練習でも滅多にねーよ。相手をただ倒すんじゃなくて、心を折りにいってる」
遥の言う通り、凌先輩の横顔からは、いつもの柔らかな微笑みが消えていた。
一ポイント取るごとに、彼は一度だけ、ベンチに座る私……ではなく、私の隣にいる遥を、冷徹な瞳で射抜く。
(……これって、昨日の続き?)
「僕のことだけを見てくれる?」と言った昨夜の凌先輩の言葉が、脳裏をよぎる。
その時、対戦相手の学校の部員たちが、ボソボソと話している声が聞こえた。
「……見ろよあの副部長、弟が怪我して欠場したのをいいことに、自分の実力見せつけてやがる」
「怖えよな、あんなに優しそうな顔してさ……」
その言葉に、遥の拳が震えた。
「……おい。今の、聞こえたか」
遥が立ち上がろうとして、足首の痛みに顔を歪める。
「遥、ダメだよ、動いちゃ!」
「……っ、分かってるよ。……でも、あいつ……」
遥の視線の先で、凌先輩が鋭いスマッシュを叩き込んだ。
試合が決まった瞬間、凌先輩はラケットを掲げることもなく、真っ直ぐに私たちのベンチへと歩いてきた。