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ゲームセットのコールが響き、凌先輩の完全勝利で試合は終わった。
コート脇では他校の女子部員たちが「かっこいい……」と溜息をつき、こちらへ駆け寄ろうとしている。けれど、凌先輩はその視線を一切無視して、真っ直ぐに私と遥がいるベンチへと歩いてきた。
「……ねえ。紗南ちゃん、ちゃんと見ててくれた?」
呼吸ひとつ乱さず、先輩は私の目の前で足を止めた。タオルを差し出そうとした私の手首を、先輩は指先で軽く制し、そのまま覗き込むように顔を近づける。
「……はい、凄かったです。圧倒的で……」
「そう。君にそう言ってもらえるのが、一番嬉しいかな」
先輩の瞳には、さっきまでの冷徹な光はもうない。けれど、どこか独占欲を感じさせるその温度に、私は動悸が速くなるのを感じた。
「……けっ、見せつけやがって」
隣で遥が面白くなさそうに顔を背ける。凌先輩はその遥を一瞥し、ふっと余裕の笑みを浮かべた。
「実力の差だよ、遥。君が紗南ちゃんに心配ばかりかけている間に、僕ができることを見せただけさ」
火花が散る兄弟の視線。
その時、二人の間に割って入るように、一際冷ややかな声が響いた。
「……いつまで勝どきをあげている。凌、速やかにモップがけをしてこい。遥、お前はアイシングだ。紗南、お前はこれを持って本部へ来い」
小谷先生だった。その視線は鋭く、生徒たちの浮ついた空気を一瞬で凍りつかせる。
その先生の背後から、成瀬先輩がひょこっと顔を出した。
「ちょっと先生、そんなに怒らなくてもいいじゃない。凌も頑張ったんだし」
成瀬先輩はそう言って先生の袖を軽く引いた。先生はそれを「邪魔だ」とばかりに無愛想に振り払ったけれど、成瀬先輩は気にする様子もなく、楽しそうに先生の後を追う。
先生への想いを隠そうともしない成瀬先輩の横顔。
そして、私を巡って対立する兄弟。
私は、複雑な視線が絡み合うベンチを後にして、先生と成瀬先輩が待つ本部へと急いだ。