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第1章. 雨の冷えと夜の冷え


物心ついた時から

パパに何度も繰り返し

言われてる事がある。

「残り物には福がある。

誰も行かない道を行きなさい。」

あたしには、ママがいなかった。

先天性の病気で、あたしを産み落とした後。

三十路を通った後くらいに死んでしまったから。そう。パパが言っていた。

ここは、シロンペ教会。

なんだか美味しそうな名前の教会。でも、教会として信仰してる人を集めて何かをするとかいうことは1度もなかった。

パパがこの前言ってた。修道院って言って信仰している人達で暮らす所でもあるって。

今はあたしと近い年齢の子達と共同で暮らしている。

その中でもあたしは最年少。

大人はパパ以外に見たことは無かった。この教会から出たことが無かったから。パパが言うには、辺り一体が森に囲まれていて危ないから出ちゃいけないとのこと。それでもあたしは

この教会に満足していた。

食事はパパが作ってくれるし、

広いお風呂も本もベッドもある。

でも、この教会にいる人はみんな時々悲しそうな顔をする。

辛いことがあるのか、悲しいことがあったのか、懺悔の気持ちがあるのか。あたしには分からなかったし、知る必要も無いと思ってた。

この教会にはあたし含めて子供が5人住んでいる。

一人一人部屋があり、昼も夜も何不自由なく暮らせている。それが逆に不気味さを醸し出している時もある。例えば、夜になってみんなが寝た後は静かになるのに、虫の鳴き声がどこかから聞こえてくる。

それが五月蝿さを表して、暗くて静かなのに五月蝿いという、不気味さを感じるのだろう。

中庭を囲むように子供の部屋があって、私は1番階段に近くて、夜中であっても1階にご飯を食べに行ける。パパありがとう。

「お腹空いた〜……」

夜中の冷え凍った空気で満ちた部屋で、そう呟いた。雨で湿気ったベッドを足で蹴り、飛び出すように扉を開けた。

さっきも言ったが、あたしの部屋は階段に近い。部屋から出て左を向けば階段だ。

……コン…コン……。

音を立てないようにと気をつけていても鳴ってしまう。

バレませんように……

そう心の中で何回も復唱しながら階段を下る。階段をおりると鏡張りの中庭が姿を現した。「……怖い…、」

思わず声が漏れてしまった。

廊下には照明は勿論のこと灯りなどどこにもなかった。あるのは月からの光と静寂による沈黙だ。

キッチンは階段の左手にあった。

あたしの部屋もキッチンも階段に近い。パパ大好き。

キッチンの扉のドアノブに手をかけ、ドアノブの冷たさが肌に伝わる。そんな意外な寒さに驚きながらも扉を開けた。

キッチンは廊下と同じく薄暗く静かでどこか寂しさを感じた。

「……早く何か食べよ…。」

独り言をボソッと呟き冷蔵庫を開ける。うーん。肉。肉ばっかり。お肉は好きだけど夜中に食べるものでは無い。肉はカイルとマティスの大好物だ。

さすが男子。よく食べるなぁ。

そっと冷蔵庫を閉じてお菓子籠をしゃがんで覗く。あれ。あたしのポテチがない。

「ポテチが……ない…。」

パパにポテチ買ってきてもらったのに…ポテチがない!

しかもコンソメ!!

「ぐぬぬ……明日絶対みんなに文句言ってやる……」

お菓子がまだ残ってないかお菓子籠の中を端から端まで見る。

マティスが好きな珈琲味のチューイングガムが大人買いされていてガムしか見当たらない。

そもそも底が見えない。

いつもならあたしのお菓子が1番上に置かれていてそれを部屋で食べている。ポテチが無いのは一目瞭然だった。

「……はぁ…。明日パパに買ってきてもらお……」

落ち込んだように猫背になりため息をつきながら立ち上がる。

寒さなんてすっかり忘れてしまっていた。気温より窓から差し込む雲で薄暗くなった月明かりの色の方が冷たく感じる。

不貞腐れたようにキッチンのドアを開け、廊下に出る。

「やっぱ寒い……」

雨の冷えと夜の冷えが

この教会を包み込む。

寒さに震えながら早足で階段を登り、自分の部屋へ駆け込む。

自分の部屋の扉が閉まる音とともにベッドに飛び込みうつ伏せのままもふもふな抱き枕を抱きしめ足をバタバタさせる。

「疲れた…」

早足で階段を登ったからか体力が尽きていた。ベッドのギシギシ音が止まると同じ具合で、重い瞼をなされるがままゆっくりと閉じ、あたしは深い眠りについた。

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