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「いや、クズすぎでしょ」
私という存在が馴染んだ喫茶店。
アイスコーヒーをひとくち、口に含む。
グラスを置くと共にカランと氷とガラスが当たる音がする。
クーラーの効いた涼しい店内には私と彼女だけ。
「そんな男はやく別れなよ」
「分かってるんだけどね…。好きなんだよ。」
彼女はいつも自分の事のように反応をしてくれる。
「私自分が嫌になるよ。」
こんな弱音を吐いたとしても彼女は私を助けてくれる。
「私が付いてるから。」
そう言って私の手を握る彼女。
彼女の手はひんやり冷たくて夏の暑さにはそぐわない。
ふと通知でスマホの画面が光っているのが目に入る。
彼氏からだった。
「ごめん、彼がもう帰って来いって…」
「そっか…、またね」
私は財布からお金を出して机の上へ置いた。
立ち上がると同時に電話の着信音が鳴った。
耳元にスマホを当て店内をあとにした。
「ただいま」
「おかえり紗季。どこ行ってたの?」
束縛の激しい彼に正直疲れている。
「友達と喫茶店でお茶してたの。」
「そっか、」
寂しそうな切なそうな顔を下に向けた彼。
私はそんな彼の横を通り過ぎる。
「ねぇ紗季。俺の事好き?」
馬鹿みたいな質問。
「うん、好きだよ。」
私は彼を好きだと思った事は一度も無いのに。
彼と出会ったのは1年半前。
契約会社との飲み会で彼に出会った。
その日に連絡先を交換し、彼にアプローチをされそのまま付き合った。
好きでもない彼と。
それから2ヶ月後同棲を始めた。
元々心配性の彼が安心したいからと同棲を提案してきた。
断る理由も無かったから私は丁度家賃が2倍くらいのアパートの一室を借りた。
彼の束縛は日に日に度を増している。
男の連絡先消せだなんて言われた時は流石に気持ち悪くて2、3日家を開けてしまった。
一方的な愛を押し付けれられてばかりだと疲れてくる。
私は彼に愛など無いのに。
彼と私の想いは等しくないから。
私が人を好きになれたなら良かったのに。
きっとあの日以来私は自分の心を閉ざしたままだろう。
仲良くしている友人に嘘を付き自分の承認欲求を満たして不自由なく暮らしている。
もしも、あの人がまだこの世界に居るのなら私はこうなっていなかったのだろうか。
私の中であの人の存在が大き過ぎた。
あの人への想いが大きくなり過ぎて、居なくなった途端にその想いを何処へぶつければいいのか分からなくなる。
私はあの人といた時の自分が好きだったのかもしれない。
ただの、自己満足だ。