「TOKIWAスイミングスクールです」
「ん? TOKIWAスイミングスクールの常磐さん?」
「……はい」
「もしかして、常磐さんって、あの常磐グループの関係の方ですか?」
だったらものすごいお金持ちだったりして。常磐グループって、超超有名な大企業だもん。確かホテルも経営してたよね。
「もみじちゃん、そろそろ帰ろう。常磐さんとの話はもう終わったから」
そんなに慌てて帰ろうとするのはなぜ?
やっぱり何かある?
「せっかくこうして知り合えたんだから、私も常磐さんと友達になりたいなぁ~。ダメですか?」
「では……TOKIWAスイミングスクールのレッスンを受けてみてはいかがですか? あなたに合ったインストラクターが必ず見つかるはずです」
「えっ、あ、はい……」
何、それ。
私はあなたと友達になりたいって言ったんだけど?
「もみじちゃん、帰ろう」
「あっ、うん。常磐さん、じゃあまた。必ずスイミングスクール、行きますね」
私が手を振ると、常磐さんがニコッと笑ってくれた。
私、この人に心を奪われた――
こんな気持ち初めてかも知れない。
ドキドキする胸を抑えながら、私達は常磐さんと別れ、双葉ちゃんと歩きながら話した。
「ねえ、常磐さんって本当にただの知り合い? わざわざお土産を渡すだけでここに呼び出したの?」
「うん、そうだよ。家に来られても困るし。ごめんね、心配かけて」
「そりゃ心配になるよ。双葉ちゃん、気をつけてね。あの人、双葉ちゃんを騙そうとして近づいてる気がするから」
「え……」
「私、そういうのわかるから。小説書いてるとね、わかるのよ。ああいうタイプは、甘い言葉で近寄って、何か悪いこと企んでるんだからね」
「悪いこと?」
「そうだよ~。また詐欺に合ったら、今度は立ち直れないでしょ? あの人、自分のこと、何て名乗ってるの?」
「と、常磐さんは常磐グループの御曹司なの。だから詐欺なんてする人じゃないよ。悪い人なわけない」
「やっぱり御曹司だったんだ! すごいじゃない! じゃあ、詐欺じゃなくて、遊ばれてるんだよ~」
「もみじちゃん……?」
双葉ちゃん、かなり動揺してる。
「あまりに美人と遊び過ぎて、双葉ちゃんみたいなタイプをつまみ食いしたいだけなんだよ。だから気をつけてよ。これからは、誘われてもちゃんと断らないとダメだからね、本気じゃないんだから」
そうだよ、あんなイケメン御曹司が双葉ちゃんを本気で相手にするわけないから。見た目のレベルが違い過ぎるし。
「理仁さんはそんな人じゃないと……思う。だけど、大丈夫だよ。本当に知り合い程度なの。常磐さんは、元々「灯り」のお客さんでね。そこで顔見知りになっただけ」
「なんだ~。双葉ちゃんは騙されやすいんだから、気をつけてね。私はいつだって双葉ちゃんの味方だよ」
そう、ずっとずっと味方だから。
「う、うん、ありがとう。私は結仁と2人で生きていくって決めたんだし、男の人には……もう頼らないから」
「そうだよ、双葉ちゃんには結仁がいるんだから。私も側にいるし、これからも仲良くしよ」
「……う、うん。本当にいつもありがとう。結仁も可愛いがってもらって……感謝してる」
「いいよいいよ、感謝なんて。これからもずっと一緒に暮らしてもいいんだからね。慌てないでいいから」
「ごめんね。返済ばかりに追われて、お金もなかなか貯まらなくて、いつも甘えてしまって」
「甘えていいんだって。本当だよ」
複雑そうな表情を浮かべ、双葉ちゃんはうなづいた。
暗い夜の道は、まるで「この先に明るい未来なんてない」と言わんばかりに、まだまだ続いている。誰も、自分の未来がどうなるかなんてわからない。
それでも、双葉だけが幸せになるなんて、私は絶対許さない。
許せるわけないんだから――
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!