コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
真夜中、警報が鳴った。
「組織本部より通達。0415・0812──反逆認定。速やかに排除せよ」
その通達が下された瞬間、
翠と栞の存在は“抹消対象”に変わった。
かつての仲間たちが一斉に動き出す。
彼らを裏切り者と見なし、殺すために。
「……来るぞ、栞」
「うん」
ふたりは廃ビルの一室に潜伏していた。
そこは元・隠れ家。かつての任務で何度も使われた馴染みの場所。
その壁には、栞の最初の銃痕が、今も残っていた。
「……ここ、最初に私が失敗した場所だ」
「お前、壁に撃ったのは失敗じゃねぇ。命を選んだ“最初の証”だ」
栞が小さく笑う。
そして銃を手にし、黙って頷いた。
そのとき、足音。
「いたぞ──!」
飛び込んできたのは、
かつて任務をともにした、第二分隊のエース・亜門(あもん)。
精鋭部隊の中でも、射撃精度・情報戦ともにトップクラスの男。
「翠、栞──」
その口調に、戸惑いが滲んでいた。
「……本当に反逆したのか? 冗談であってくれ……」
「俺はただ、お前らに“選ぶ権利”があるって教えたかっただけだ」
「そんな理屈は通じねぇよ! 俺たちは……ずっと一緒にやってきたじゃないか……!」
「じゃあ、俺たちが“生きる”って決めた選択も信じてくれ」
「信じたら、俺が死ぬ!」
引き金が引かれた。
銃声。火花。壁をかすめる弾丸。
即座に反撃したのは翠だった。
「……やっぱ殺気がねぇな、お前」
「うるせぇ!!」
再びの乱戦。
だが、明らかに“殺すための撃ち方”ではない。
それはどちらも同じだった。
(──撃ちたくない。けど、殺されるわけにはいかない)
ふたりの中に、そんな共通の迷いがあった。
***
戦闘は数分で終わった。
亜門は倒れ、意識を失っていた。
急所は外され、命に別状はない。
「……ありがとう、栞」
「……ううん。最後まで撃てなかったのは、私のほう」
ふたりは亜門の身体を隠し、救助信号を発信させてからその場を離れた。
「これからもっと来るぞ。俺たちを知ってるやつらが、“俺たちを知らない顔”して撃ちに来る」
「……でも、それでも撃ち返す。生きるって、そういうことでしょ」
「……その言葉、似合うようになったな」
「え、何それ、バカにしてる?」
「褒めてんだよ。俺の“共犯者”」
ふたりは闇の中を駆ける。
次に待ち受けるのは、もっと深い裏切りかもしれない。
けれど、それでも。
もう戻らない。
もう黙らない。
命令に従うだけの殺し屋ではなく、
選んで、守って、信じる道を歩く。
──それが、翠と栞の戦い方だった