うっすらとした光が、カーテンの隙間から差し込んでいる。ふみやは、ふとした重みで目を覚ました。
「……っ、ん……?」
自分の胸のあたりに、ちいさな足。
それが誰のものかなんて、考えるまでもなかった。
「……△△ちゃん……」
思わずふっと笑ってしまう。
ふみやの上で器用に横になっている姪っ子。どこかのタイミングで寝返りをうってきたのだろう。
視線を動かせば、左隣にはママがすやすやと眠っていて、
その向こうには、まるでみんなを包み込むように片腕を広げた颯斗がいる。
──ああ、幸せだな。
誰も起きていない朝。
静かで、暖かくて、全部がやさしい。
ふみやは目を細めた。胸の奥が、ぎゅっとする。
この空間に、自分がいていいって思えることが、ただただ嬉しかった。
「……よしっ」
そっと子供の足を抱えなおして、ふみやは布団から抜け出す。
目を覚まさないように、ゆっくり、ゆっくり。
キッチンへ行くと、ひんやりした空気が身体を包む。
でも、心はぽかぽかのまま。
冷蔵庫を開けて、朝食に使えそうな材料を見つける。
「卵……ウインナー……パン、あるじゃん。ふふっ、完璧」
エプロンを見つけて、手を洗って、キッチンに立つ。
颯斗の背中を追いかけてきた頃は、まさか自分がこうして“家族の朝ごはん”を作るなんて思ってなかった。
「でも……これ、めちゃくちゃ嬉しいな……」
ウインナーがじゅわっと音を立てて焼けていく音。
パンの焼ける匂い。コーヒーの湯気。
全部が“家”の匂いだった。
「ふみや……?」
ふと後ろからママの声。
「……あ、ごめん、起こしちゃった?」
「ううん……いい匂い。ふみやが作ってくれてるの?」
「うん、先に目が覚めたからさ。ちょっとやってみよっかなーって」
「ふふ……ありがとう。△△、まだ寝てた?」
「うん。俺の上に乗ってた」
「……あぁぁぁ、可愛い〜!やば、それ聞いただけで目覚めた」
「まじで目覚まし効果。破壊力すごかったもん、ちっちゃい足がぽすんって」
ママと2人でこそこそ話しながら、キッチンの朝が進んでいく。
「おっはよ〜……」
颯斗の声にふたりが振り返ると、
△△を抱っこしたまま、颯斗がふらりとリビングへ。
「ふみや、作ってくれてんの?」
「お、おう……なんか、やってみた」
「ふみやくん、朝からイケメンだな……」
「今さら?」
ママと顔を見合わせて笑う。
「……あ、でも」
ふみやがふと思い出したように手を止めて、
自分の胸をポンと叩く。
「朝起きたとき、ここに……ちっちゃい足。俺、やばかった。可愛すぎて……まじで持ってかれたわ」
「ははっ、なんか想像つくわそれ」
「てか、ふみやも寝顔かわいかったけどね〜って言っとく」
「ママ!?余計なこと言わんで〜!?恥ず〜!!」
3人と1人の、あったかすぎる朝が始まった。