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愛を呑み込んで、さようなら。
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#1 ー ちゃんと言って
「…今日はもういいや。ご馳走様」
「もう、要らないの…?」
「うん」
「そっか…」
ご馳走様、と手も合わせずに椅子を立ちスマホを片手に持ち彼は寝室の奥へと消えていった。…私とは少しも目を合わせてくれなかった。あの頃みたいにもういただきますもご馳走様も言ってくれないの?
_1年前の彼なら美味しいって言って私の料理をバクバク食べてくれておかわりもしてくれたっけ。あの頃の彼はちゃんと私の目を見て話してくれて、ご馳走様もしてくれて、彼の仕事仲間にも私の料理を自慢してくれていて、携帯のホーム画面も私の作ったマカロンだったよね。さっき、携帯からチラッと見えたホーム画面、誰かとのツーショットだったね…浮気しているのかな。そんな捻くれた考えしか出来ない自分が大嫌い
#2 ー 安心させて
チリリ…チリリリ_
朝7:30、彼の携帯からアラームの音が聴こえうるさいアラームの音を止める。次に表示されたのはパスワード入力の画面
「…パスワードかけてたの?」
携帯には見られたくない情報とか仕事の話もするからパスワードはかけてて当たり前だとは思う。
『 ユアとの会話自慢したいからパスワード俺はかけない。かけたとしてもユアの誕生日かな_ 』
1224、ゆっくり、間違えないように、打つ_
ー 入力されたパスワードが違います ー
「…人の携帯勝手に見るの最低だよね…もう辞めよ」
この一週間で私は変わった、変わってしまった。彼の行動全てを疑うようになってしまった。彼を疑う度に私は言い聞かせていて自分を納得しようとしていたのかもしれない。…浮気?頭の中にふっと思い浮かび消えた。
私の目を前までは見て話してくれてたのに最近私の目を見て話してくれなかったのも 私の眼よりあの子の方の眼が良いの?
私の料理を前までは美味しいって食べてくれてたのに最近美味しいって言って食べる事も、いただきます、ごちそうさま、って手を合わせてくれないのも 私の料理じゃなくてあの子の作った料理が何倍も美味しいから手を合わせてくれないの?
前まではパスワードなんかかけてなかったしかけてたとしても私のパスワードって言ってたのにさっき打ったら違うパスワードだったよ。あの子の誕生日に設定してるの?
…スマホに目を向けないで、ちゃんと私の目を見て…ちゃんと私のご飯を美味しいって言っておかわりして欲しいしいただきますもごちそうさまも言って欲しいよ。…隣にいるのに果てしなく君が遠い
なんて考えてる、私は悲劇のヒロインぶってるのかな
「…あぁ、ユア起きてたの」
「うん、おはよう」
「ん」
「…最近仕事忙しいの?」
「別に、関係ねぇだろ」
「関係、あるよ…」
「は?」
「…っ、ご飯とか色々用意しないといけないし」
「あぁ、うん、まぁ。忙しい、よ」
「お仕事頑張ってね」
「うん、…行ってくるわ」
行ってらっしゃい、私がその言葉を言う前にはもう彼は居なかった。
#3 ー 守られなかった約束
『 ユア…俺1年後とか2年後とかそこら辺には仕事が安定してくると思うんだ。だから、その時は結婚しよう 』
『 うん!結婚したい!幸せな家庭一緒に作ろうね!ご飯も全部好きな物作る! 』
『 ははっ、そんな好きなものばかりだったら俺幸せ太りしちゃうな 』
2年前、結婚しようって約束して指を結んだ。結婚指輪はまだ先になるけどペアリングなら今買えるよって言われて買ったんだよね。…私の右手の薬指に輝いている1粒のダイヤモンドの指輪。本物とまではいかなくても、この指輪を見るだけで私は毎日頑張れてた。…指輪、今も付けてくれてるのかな?昨日の彼の指には何にも付いてなかった気がする。指輪…ただのペアリングだし…。そう思ってご飯を作る為にキッチンへ立つ。
キッチンから見る私の目に写ったある光景、ふと思い出した。お昼すぎてもソファで寝てる彼に対して私はこう言ったんだっけ?
『もう!掃除手伝ってくれないんだったら寝室で寝てよ! 』
『 嫌だ、寝室だったらユアの姿見えないし、掃除機の音だけでもユアがここに居るんだってわかってるから寝れる。だからここがいい 』
_君はいつもずるかったよね、いつも私を喜ばせるよね。
『 そ、っか…!嬉しいけど照れるな。』
『 …可愛い。好きだよ 』
『 私も!大好き 』
今はもう可愛いも好きも言ってくれない。過去の事を思い出して悲しさに暮れても意味がない、そう分かってても楽しかった頃の記憶を思い出して辛くなる。
今日は彼の好きなハンバーグどスープを作ろうかな。…よしハンバーグは作れたからあとスープ…
プルルルル
「もしもし」
「ん、俺だけど」
「どうしたの?」
「わりぃ、今日遅くなるわ」
_ドクン
「…え、なんで?」
「仕事が長引きそうで」
「先、に言ってよ。もう作っちゃったよ?」
「ナギくん、私もうお風呂終わっちゃったよ〜?ナギくん入らないの?」
え…?女の、声?お風呂?お風呂ってなに…?……
「…っ、ユア一回切るわ」
プツン…
…やっぱり浮気してたのか、私の目を見ない所も美味しいって言ってくれない所もスマホにパスワードかけてたのも…全部浮気して私に見られなくなかったから?せっかく2人前作ったハンバーグを片方ラップをして冷蔵庫に入れ、作り途中だったスープの火を止めてハンバーグを食べる。
「いただきます」
私の声はリビングに息となって消えた_
#4 ー 今更遅いよ
ガチャ…玄関の開く音で目が覚めた。今何時…?
「…朝の、5時、?」
うそ、朝帰りしたの?急いでスマホを確認するも連絡1件入っておらず勝手に無断外泊…?
「なんで何も言ってくれないの?」
「は?何を言うの?」
「今の朝帰りとか、昨日の電話越しに聞こえた女の人の声とか」
「…やっぱ聞こえたのかよ」
小声で言ったつもりだろうけど、私は聞き逃さなかったよ。朝帰りにしたのもその人のせいなんでしょ?
「…つーか、腹減った。飯は?」
話、逸らさないで…キミのご飯なんか無いよ、そう言いたかったけどラップに包んだハンバーグ食べない訳にも行かないから。冷蔵庫にあるよ、って言うと目も合わせずリビングへ向かおうとする彼の背中を見る…1年前と同じ背中なのに、どうしてこんなに変わってしまったの。どうして、悲しく見えるの。
「…美味しい?」
きっと君はもう美味しいなんて言ってくれないだろう。
「…本当は昨日作ってたんだけど、急に遅くなるって電話来たから」
何も言ってくれない彼を見据えて、口数が少し多くなる私。
「うん。やっぱりユアの料理は美味しいよ」
ードクッ、、ドクン、ドクン…
「おい、しいの?」 美味しいってまだ言ってくれるの?
「え?うん。…美味しいよ。俺の好きな味」
…最後まで悪役になれないのが君らしいよね。ここ最近君は悪役だったのに、どうして最後まで悪役になれないの?どうせなら悪役になって 美味しくないって言ってくれれば私君のこと嫌いになれたかもしれないのに。
「ご馳走様でした」
…なんで、なんで今になって満足したような顔で手を合わせるの。なんで、今日は美味しいって、ご馳走様、って言ってくれるの。あの人と縁が切れたとしても私は彼の事を受け入れないだろう。今更ごちそうさまって手を合わせてくれても、美味しいって好きな味って言ってくれても今はもう信じられない。
#5 ー 愛を呑み込んで、さようなら。
最後まで悪役になれない君はお皿を下げて寝室へ向かおうとする彼を私は引き止める。
「…私達別れよ」 もう限界だよ、私、君が思ってる程優しくないよ
「え…?」
どうしてそんなに悲しそうな顔で私を見るの。今更私の目を見ても遅いよ。
「え、じゃないよ。なんで何も分からないの」
本当はこんな酷い言い方したくないー まだ、好きだよ。
「…あんなにナギのために作った料理美味しいって言ってくれないしても合わせてくれないし…浮気するしっ」
「ごめん、でも俺にはユアだけだよ」
「うそ、嘘吐き、なんでそんな嘘つくの。本当は私じゃなくてあの子のことが好きなんでしょ」
「…っ」
私達きっと最初から合わなかった。愛し合って会うフリをしていた。…1年前の彼はきっと私の妄想。
「だから別れよ。」
「…本当にユアの料理美味しかったよ、好きな味だった」
ーもう君にとっては私は過去なんだね。私の料理好きだって言ってたくせに、結婚しようって約束したくせに…本当に君は酷い人。彼のその悲しそうな瞳が私の目を捕まえて離さない。
「うん…」
「ユア…本当にごめん君の最後の人になれなかった。俺今でもユアのこと好き…っ」
浮気したくせに、約束破ったくせに、他の子見たくせに最後の人とか無いよ。
「…もういい」
彼が吐いた今でも好きだって言葉の嘘に気づかないフリをして私も嘘を吐く。
「ナギのこともう好きじゃない。こんなに振り回されて大嫌い」
「ユア…っ」
…久しぶりに君が涙を流してる所を見た、あんなに悲しそうに泣く人だっけ。君が泣く理由は私が居なくなって悲しいんじゃなくて、私の味を食べられないからでしょう…?本当に酷い人
「このペアリングもう要らない」
右手の薬指に付けていた かつておそろいだったペアリング…床に放り投げた。床に放り投げられたペアリングはコロコロと転がり彼の足元に止まった。
「…私とお揃いだったペアリング、どこにいったの?」
「……」
何も言ってくれないの?あのペアリング、誰でも付けられるデザインだからもしかしてあの子にあげたの?
「無くした」
「……そっか。私もうナギの彼女じゃないからこれ無くすね」
ー私はナギを置いて玄関へと向かい外へ出た…空気には味が無いと思っていたのに、口に触れた空気は少ししょっぱくて、涙の味がした。
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愛を呑み込んで、さようなら。
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ーナギは本当に最後まで悪役になれなかった。最後の最後で私が1番求めていた言葉をあんなに優しく言ってくれたけどもう遅いよ。言うのが遅すぎた、浮気した事も手を合わせない所も約束破る所も悪役になれなかった所も最後に私の目を見てくれた所も嘘をつく所も全部嫌い_大嫌い。最後まで悪役になれなかったキミへ、私も最後は悪役になれてたかな。2年間つけてたペアリング、5年間付き合ってたナギ、私の愛おしい思い出でした。