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玄関の姿見に映る自分を、なるせはぐるぐると眺めていた。ピンクのボブ、軽く巻いた前髪。今日は一段と気合を入れた。
──でも…ほんとは外に出たくない。
一歩外へ出れば、嫌でも視線が刺さる。そう感じる。
つばの広い帽子を深く被り、マスクもして、オーバーサイズのジャケットで体型を隠す。
それでも自然と、足が竦んでしまって。
だけど、俺は、らっだぁに会ってみたい。
外に出るのも、誰かに会うのも好きじゃないけど、らっだぁに会いたい……。
スマホが震える。
──《 着いたら、駅前の柱のとこ集合で 》
らっだぁからのメッセージ、軽い絵文字付き。
画面を閉じ、深呼吸。心臓がうるさい。
ドアノブに手をかけて、震える指先をぎゅっと握りしめる。
「……よし、行ける。…行く、…行くってば」
小さく呟いて、ドアを開けた。
待ち合わせの駅前、人混みの向こうで、それっぽい人を見つけた。
あの紺色の髪、ちょっとタレ目で柔らかい目元。 長身でスタイルもよくて、雰囲気がすごく落ち着いてる。
──間違いなく、らっだぁだ。
(……いや、嘘やろ。写真 と全然ちが……え、なにあれ芸能人なの、あいつ?)
初めて、外で見るらっだぁに、俺は足が地面に貼りついたみたいに動かない。
(近づいてきて、穏やかな声)
「なるせ、であってる?……初めましてなのかな?笑」
(はっとして、笑顔をつくる)
「あっ、えっ!はじめましてっ!ってか、え、ええ!?マジでらっだぁ!?顔よすぎん!?ずるない!?」
(少し笑って)
「いやいや、それ俺のセリフだって。めっちゃ可愛いじゃん、なるせ」
(テンション上げて誤魔化す)
「え!?いやいやいや!?そっちの方がやばいから!?いやちょ、待ってマジでさ、声と合ってなさすぎて混乱なんやけど、俺!?」
喋りすぎてるのは、自分でもわかる。
視線を合わせたくなくて、勢いだけで喋ってるのも、たぶんバレてる。
(優しく)
「なに、緊張してんの?お前、笑」
(急に言葉に詰まって)
「っ……は?いや、し、してねぇし。してねぇけど、別に」
目を逸らした拍子に、隣に立ったらっだぁの“身長の高さ”に気づく。
思ってたよりも、ずっと“でかい”。
見上げる角度、こんなにも差あるんだってくらい。
らっだぁが笑って手を出す。
それが、なにかの合図みたいに。 自然に。
「ちょっと歩こっか。カフェ、予約しといたからさ」
(小さくうなずいて)
「……ぁ、うん。…ありがと」
最初の明るさがだんだん落ち着いてきて、声が小さくなってる自分に気づく。
でも、止められない。
歩幅も、距離も、視線も、全部らっだぁに合わせてる。
横を歩きながら、なるせはときどき上目づかいにらっだぁを見る。
あの声と同じで、落ち着いてて、余裕があって、どこか優しくて。
──ちょっと、ずるい。
(ぽつりと、ほんの小さな声で)
「……なんで、そんな普通に話せんの。俺だけずっと、テンション変やん……」
(ふっと笑って)
「そのままでいいよ。なるせはかわいいから」
(耳まで真っ赤になって)
「……きも」
帽子のつばをちょっと下げて、顔を隠す。
でも、手はちゃんと繋いだまま。
頬まで真っ赤にして俯くなるせ。
けれど手は離さない。むしろ指がらっだぁの手をきゅっと握り返す。
「……次、また、誘ったら来る?」
「……まぁ。お前なら、たぶん」
“はじめまして”は、想像以上に優しくて、照れくさくて、
でも、それ以上にちゃんと嬉しかった。