テラーノベル
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人でごった返す駅前の広場。
待ち合わせ場所にはもう何人か集まっていて、らっだぁは辺りを見渡しながら、その人数を確認する 。
「……ん〜あ〜?…誰が来てて、誰がまだなんだっけ」
そんなことを考えながらスマホに一度視線を落とし、 再び顔を上げた。
その時──
輪から少し離れた所。改札の柱の陰に1人っきりで立ってる男が目に入った。
ピンク髪でボブカット。 黒のパーカー。
手持ち無沙汰にスマホをいじるでもなく、ただただ、所在なさげに俯いて立ってる。
(ん〜?、めっちゃ見たことある顔……誰だ?)
でもすぐにピンとこない。
おそらく、リアルでは会ったことがないだろう。
…でも、なんとなく見たことある気がして。
(……んー、あ…もしかして)
俺はその男に近寄り声をかけた。
「……なるせ?」
らっだぁが試しにそう呼んだ。
その瞬間、ピクリと反応した肩。視線がしっかりと合った。
大きな目、長いまつ毛、あどけなさを残した表情──
思わず少し、息を飲む。
「……うす」
たしかに、その低い声を聞いたことがある。
通話越し、マイク越し、ゲームの向こうから。
何度も聞いたその声が、目の前にある現実と重なって、ようやく“本物”だと理解する。
「マジで……なるせ?」
「……うるせぇ。どーせ見た目、思ってたんと違うとか言いたいんだろ」
「違う。……なんか、ちゃんと、かわ……
いや、想像超えてきた」
なるせは無言でそっぽを向いた。
耳だけが、じわじわと赤くなってるのが見える。
「ごめん、顔わかんなくてさ笑」
「………別に、わかってた。だから来たくなかったの」
「え?」
なるせは少し肩をすくめて、小さく吐き出すように言う。
「……でも…またお前の誘い断ったら…もう、誘ってもらえなくなるかもって思っただけ。
別に会いたいとか、そんなんじゃ──」
「え? かわいい」
「っ……ぅっせぇ!!」
らっだぁは豪快に笑って、自然に隣に立った。
なるせの身長は思ったよりも小さくて、横に立つと頭がちょうど肩に届くくらい。
「なんか、こうして並んで歩けるの不思議」
「……そんなこと言われても…緊張するから、黙って歩けや。バカタレ…」
「笑、りょ〜かい。 でもなるせの横からは離れないからね」
「……勝手にしろ」
なるせの足元は、少しだけらっだぁの方へ寄っている。
声はそっけないのに、仕草がぜんぶ“ここにいたい”って言ってることに、らっだぁはちゃんと気づいていた。
らっだぁはほんの少し迷って、手の甲を軽くぶつけた。
なるせは、それに何も言わず、ぶつけ返す。
まるでそれが「今日は、来てよかった」っていうサインみたいに。
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