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ギャグ風『浮気を疑って尾行したら、愛されすぎていただけでした』~m×s~
side佐久間
同棲を始めてから俺たちの毎日はそれはもう平和で甘くて幸せそのものだった。
朝起きれば隣には蓮がいて寝癖のついた頭を撫でながら「おはよう」と笑い合う。
夜は一緒にご飯を食べてその日の出来事を話し同じベッドで眠りにつく。
そんな当たり前の日常が永遠に続くのだと信じて疑わなかった。
――つい数週間前までは。
「……またスマホ裏返しに置いてる」
リビングのソファでくつろぐ蓮の横顔を盗み見ながら俺は心の中で盛大に頭を抱えていた。
ローテーブルの上に置かれた蓮のスマートフォン。
その画面は親の仇かというくらいにピタリと下を向けられている。
以前の蓮はスマホの扱いなんて無頓着そのものだった。
画面を表に向けたままその辺にポイッと放り投げ通知が来ても「後でいいや」と俺との時間を優先してくれていた。
それがどうだ。
最近の蓮はまるでスマホが自分の臓器の一部であるかのように肌身離さず持ち歩いている。
トイレに行く時もお風呂に入る時(脱衣所まで)ちょっとキッチンに水を取りに行く数十秒の間でさえスマホをポケットにねじ込んでいるのだ。
(あやしい。あやしすぎるよね……!)
俺の脳内探偵がパイプを咥えながら猛烈な勢いで警鐘を鳴らしている。
いや待て。落ち着け俺。
相手はあの蓮だぞ。
俺のことを誰よりも大切にしてくれて嘘なんてつけない不器用で真っ直ぐな蓮だ。
浮気なんてするはずがない。
そうこれは何かの間違いだ。
たまたまそうたまたまスマホの画面を下に向けるのがマイブームになっただけかもしれない。
風水的な何かで「画面を下に向けると運気が上がる」とかそういう謎の情報を信じ込んでいるだけかもしれない。
「お茶飲む?」
「うん、ありがとう」
俺がマグカップを差し出すと蓮は一瞬だけスマホの画面を操作しサッとポケットに隠してからカップを受け取った。
(今隠した!?絶対隠したよな!?)
俺の心臓がドクンと嫌な音を立てる。
笑顔を引きつらせないように必死に口角を上げながら俺は蓮の隣に腰を下ろした。
「蓮最近スマホよく見てるね。なんか面白いゲームでも見つけたの?」
探りを入れるようになるべく軽いトーンで聞いてみる。すると蓮は少しだけ肩をビクッと震わせあからさまに目を泳がせた。
「えっ?あ、うん。まぁちょっとね。調べ物っていうか……」
「ふーん?調べ物?何調べてるの?」
「えっと……それはその……」
蓮は言葉を詰まらせマグカップを両手で包み込むようにして視線を落とした。
その耳がほんのりと赤くなっている。
(なんでそこで照れるの!?調べ物で照れるって何!?『デートスポットおすすめ』とか調べてるの!?俺と行くため……いや最近休みの日も出かけること多いし、まさか……!)
脳内で最悪のシナリオが猛スピードで構築されていく。
知らない誰かとお洒落なカフェで向かい合って座る蓮。
相手に向かって俺にしか見せないはずのあの優しい笑顔を向けている蓮。
想像しただけで胸の奥がギリッと締め付けられるように痛んだ。
「……そっか。まぁ、あんまり根詰めすぎないようにね」
「うん、気をつける」
俺はそれ以上追及することができず逃げるように自分のマグカップに口をつけた。
情けない。本当に情けない。
蓮のことを信じたいのにちょっとした行動でいちいち疑心暗鬼になっている自分が嫌でたまらない。
「蓮は俺のこと好きだよね?」ってストレートに聞けたらどんなに楽だろう。でももし「ごめん」って言われたら?もし俺の知らない『誰か』の存在を肯定されたら?
そう思うと怖くて何も聞けなくなってしまうのだ。
疑いの種はスマホだけではなかった。
ここ最近蓮の帰りが異常に遅いのだ。
以前なら仕事が終われば「今終わった!早く佐久間君に会いたい」と即座に連絡をくれ寄り道もせずに真っ直ぐ帰ってきていた。
それが最近は「今日も遅くなる」という短いメッセージだけが送られてくる日が増えた。
――ある夜のこと。
時計の針はすでに深夜零時を回っていた。
俺はリビングのソファで膝を抱えながら蓮の帰りを待っていた。
テレビの音は消してある。静まり返った部屋の中で時計の秒針の音だけがやけに大きく響いていた。
(今日も遅いな……。仕事そんなに忙しいのかな)
いや仕事のスケジュールはだいたい把握している。今日はそこまで遅くなるような仕事は入っていなかったはずだ。
じゃあどこで何をしているのか。
誰と一緒にいるのか。
ガチャリと玄関のドアが開く音がした。
俺は弾かれたようにソファから立ち上がり玄関へと向かった。
「ただいま佐久間君。起きてたの?」
「おかえり蓮。うん、ちょっと目が冴えちゃって」
靴を脱ぐ蓮の姿を見て俺は無意識に鼻をヒクつかせた。
(……匂いチェックだ。浮気の証拠は匂いからってネットのまとめサイトに書いてあったし)
俺はさりげなく蓮に近づきハグをするふりをしてその首元に顔を近づけた。
スゥッ……。
(……ん?香水の匂い……じゃない。タバコでもない。お酒の匂いもしない。これは……)
甘い。
なんだかものすごく甘い匂いがする。
バニラエッセンスと焼きたてのスポンジケーキと生クリームを混ぜ合わせたようなとてつもなくメルヘンチックな匂いだ。
(なんでケーキ屋みたいな匂いさせてるの!?)
俺は混乱した。
浮気相手と会っていたならもっとこう色っぽい香水の匂いとかがするはずじゃないのか。なぜ蓮は全身から『街の愛され洋菓子店』みたいなハッピーなオーラ(物理)を放っているのか。
まさか浮気相手がパティシエ?それとも二人で深夜のケーキバイキングにでも行ってきたのか?
「佐久間君?どうしたの、くっついて」
「あ、いや……蓮なんか甘い匂いするなって思って」
「えっ!?」
俺が指摘した瞬間蓮はあからさまに動揺しバサッと自分の服の匂いを嗅ぎ始めた。
「うそ、匂い移ってる!?やばファブリーズしなきゃ……!」
「え、ちょ、蓮!?」
蓮は俺を置いて洗面所へとダッシュしシュッシュッと激しく消臭スプレーを振りまく音が聞こえてきた。
(……隠蔽工作だ。完全に証拠隠滅を図ってる……!)
俺の心の中の探偵が虫眼鏡を握りしめてワナワナと震えている。
間違いない。蓮は何かを隠している。俺に知られてはいけない『甘い匂いのする何か(あるいは誰か)』と接触しているのだ。
そして決定的な出来事はその数日後に起きた。
休日の昼下がり。
俺がキッチンで洗い物をしているとベランダの方から微かに話し声が聞こえてきた。
ふと見ると蓮がベランダに出てスマホを耳に当てて誰かと電話をしている。
窓は閉まっているが蓮の声が少しだけ漏れ聞こえてきた。
「……はい。ええ、そうです。……はい、サイズは……いやもう少し大きい方が……」
(サイズ!?)
俺は手に持っていたスポンジをボトッとシンクに落とした。
サイズって何!?服?指輪?それとも……いやいやいや、まさかそんな昼間からそんな生々しい話をするわけがない。
俺は息を殺し忍者のようにすり足で窓ガラスに近づいた。カーテンの隙間から蓮の様子を窺う。
「……はい。当日はよろしくお願いします。……ええ、絶対にバレないようにしますので」
(当日!?バレないように!?)
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本編とはひと味違う、特別な一篇。↓
「蓮……俺蓮のこと全部俺で上書きするって言ったよね」
「うん」
「だから……今日は俺に全部させて。蓮の隅から隅まで俺の痕つけたいんだ」
上目遣いでそう懇願すると蓮は少しだけ驚いたように目を丸くした後とろけるような甘くてズルい笑顔を浮かべた。
「ふふっ今日は佐久間君におまかせしようかな。佐久間君の好きにしてみてよ」
その言葉が俺の中の何かのスイッチを完全に押し切った。
「……言ったね?後でやっぱやめるとかナシだからね」
俺は蓮の体をゆっくりとソファに押し倒した。
蓮は抵抗することなくされるがままに背中を預け長い脚を少し開いてリラックスした体勢になる。
その無防備な姿が俺への絶対的な信頼を示しているようで嬉しかったけれど同時に「余裕ぶってられるのも今のうちだぞ」という謎の対抗心も燃え上がってきた。
まずはその綺麗な顔からだ。
俺は蓮の上に馬乗りになり蓮の顔を両手で挟み込んだ。
「蓮……大好きだよ。俺だけの蓮だ」
ちゅっとまずは額に軽いキスを落とす。そこから少しずつ下へと移動していく。
ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ。
眉間形の良い眉そしてゆっくりと閉じられたまぶたの上。
「んっ……佐久間君くすぐったい……」
「動かないで。今、上書き中なんだから」
※最初から最後まで甘く、濃く、容赦なく。読み応えたっぷりのR-18作品となっております。
コメント
1件
蓮くんが浮気してるわけないのに、証拠がぜんぶ「愛されすぎ」に繋がってるの、もう可愛すぎます😂 脳内探偵が全力暴走してる佐久間君、めちゃくちゃ面白かったです。「サイズは…もう少し大きい方が」でスポンジ落とすシーンは声出して笑いました。甘い匂いも遅い帰りも、ぜんぶ蓮くんのサプライズ準備だったんだろうなって思うと胸きゅんです。続き気になります!おまけの「上書き」もドキドキしました…