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曼珠沙華

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曼珠沙華

1 - あの日の想い出

2025年10月01日

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ーー彼岸花ーー


川辺に沿って歩くと、燃えるような赤が土手一面に揺れていた。


彼岸花――その鮮烈な色を前にすると、胸の奥に沈めてきた記憶がどうしても疼き出す。


十年前、まだ学生だった頃、彼と過ごした最後の秋を思い出さずにはいられなかった。


「この花の花言葉、知ってる?」

隣を歩く彼が笑って問いかけた。


夕暮れの陽が川面を照らし

彼の横顔を橙色に染めていた。


私は首を横に振ると、彼は少し得意げに言った。


「悲しい思い出、再会、そして諦め。……でも俺はさ、諦めじゃなく“再会”を信じたい」


あの日の言葉は、彼が突然いなくなった後も、胸の奥で何度も反響し続けた。事故だった。


あまりに唐突で、誰も覚悟すらできないまま

彼はこの世界から消えた。


もう二度と声を聞けないと知らされたとき、私の時間は止まったままになった。


人は時間が癒すというけれど、彼岸花の赤を見るたびに、癒えかけた傷は開いてしまう。


まるでこの花が、彼との約束を忘れることを

許さないかのように。


季節が巡り、大人になり、周囲から「そろそろ結婚は?」と問われる年齢になっても、心は十年前に置き去りにされていた。


そして今年もまた

川辺に赤が咲き揃う季節が訪れた。


風に揺れる花々を眺めながら立ち尽くしていると、不意に懐かしい声が背後から響いた。


「……遅くなったね」


振り返った瞬間、息が詰まった。


そこには十年前と変わらない

姿の彼が立っていた。


声も、瞳も、笑顔も、何一つ違わない。


私の中で凍りついていた時間が

一気に解けて流れ出す。


「夢……なの?」と震える声で尋ねると、彼は首を横に振り、微笑んだ。


私はたまらず手を伸ばした。


だが指先は空を掴み、すり抜ける。


確かに温もりを感じたはずなのに、次の瞬間には影のように消えてしまう。


「俺、もう戻れないんだ」彼は静かに言った。


「でも約束は守りたかった。彼岸花が咲くころ、必ず会いに行くって」


涙が止まらなかった。


十年の間、私はずっとその言葉を信じて

待ち続けていた。


再会を願えば願うほど、残酷さが胸を抉る。


風が吹き、赤い花弁が舞い上がったとき、彼の姿はその中に溶けて消えた。



残されたのは、頬を伝う涙と

胸に残る痛みだけだった。


「再会」――それはほんの刹那の奇跡。

「諦め」――それこそが私に課された宿命。


川辺を離れながら、私は心の奥で小さく誓った。


彼岸花が咲く限り、私はここに戻ろう。


もう二度と会えなくても、燃えるような赤の中に、彼との約束を抱き続けて。


今年もまた、彼岸花は私の悲しい思い出を揺らし、赤い炎のように咲き誇っていた。

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ーーENDーー

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