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蒼乃(キャラボ中〜!)
廊下を磨く手を止めたのは、些細な違和感からだった。
ふと窓の外に目をやると、中庭の一角で__お嬢様が一人しゃがみ込んでいるのが見えた。
長いスカートは土に触れ、汚れている様に見える。
本来なら、すぐに咎められてしまうはずの姿だった。
けれど、彼女は気にする様子もなく。
白い花を一つ、また一つと編み込んでいく。
その手つきは慣れていて、けれどもどこか…
何かを諦めた様に見えた。
気付けば私は、すでに歩き始めていた。
廊下を早足で歩いて行く。
お嬢様の背中が近づくにつれ、白い花の正体がはっきりと見えた。
__シロツメクサ。
『…お嬢様』
呼びかけても、彼女は手を止めない。
ただ、白い花を編み込む指だけが動き続けている。
『何を作っているのですか?』
『…別に』
そっけ無くそう返されてしまった。
まだ編み途中の冠を見つめて、
『ただ、暇だから』
何事もない様にそう言った。
『綺麗ですね、』
気付けばそう口にしていた。
彼女の指先に触れている白く輝く冠を見つめながら、ぽつりと零す。
その瞬間、レイナ様は__
お嬢様は、初めてこちらを見た。
『…、そう思うの?』
『はい』
迷い無くそう答えると、彼女はしばらく黙り込んだ。
『変ね、』
そう言いながらまた指が動き出す。
『ねぇ』
ふと、彼女が口を開いた。
『これ、知っているかしら?』
その小さな手には貝殻が乗っていた。
貝殻は太陽に照らされ、白く光っていた。
『貝殻…でしょうか?』
『そう』
彼女は頷き、貝殻を見つめる。
『昔、お父様にいただいたのよ』
『綺麗だって…そう言って』
彼女の声は穏やかなのに、どこか遠い。
まるで、遠くのものに話しかける様に。
『本で見た物とそっくりなの、』
彼女は周りの高い塀を見ながら問う。
『海って、どんな色かしら』
_その問いに、
言葉が出て来なかった。
『貴方の瞳見たいに青いのかしらね』
その言葉に、はっとする。
この時、初めて彼女と真正面から視線を交わした。
『はい…』
少し間を置き、答える。
『きっと__もっと、深い青かと』
彼女は少し目を見開き。
『…そう』
小さくそう呟いて、
また、目を逸らしてしまった。
『でも、凄く綺麗なんでしょうね』
その声は静かで、けれどもどこか諦めた様に見えた。
自分とは、まるで無関係のように。
『…でも』
静かに、淡々と続ける。
『きっと、見ることは出来ないのだから…』
__その一言が胸の奥に引っかかった。
『いつか、一緒に行きましょう』
気付けばそう口にしていた。
どこか、真っ直ぐだが、曖昧な言葉だった。
一瞬の沈黙が流れる。
彼女の瞳が、わずかに揺れる。
『…外に、出られると思っているの?』
試すかのように、彼女は言う。
『はい』
『私が、お連れします』
自分でも驚くほど真っ直ぐ、迷いのない言葉だった。
『……本当?』
確かめるような、小さな声。
『必ず』
__短い言葉。
だが、これ以上のものはいらなかった。
『約束は…口先だけのものだと、無いのと同じなのよ』
そう言って、ゆっくりと立ち上がる。
『だから、__形にするの』
いつの間にか完成していたシロツメクサの冠を持ち上げ、
__そして、躊躇うことなくそれを私の頭へと乗せる。
一瞬の出来事だった__。
軽いはずの冠は、なぜかひどく重く感じた。
『約束よ_』
近くで見たその笑顔は、
ほんの少しだけ希望を、
確かに、そこに宿していた_。
コメント
1件
読んでくださりありがとうございます🙇 ⚠️この作品は完全に息抜きなので続きが出るかは分かりません