昨日の夜に、日光が差してくれるように開けておいたカーテンから、暖かく柔らかな金色が差している。狙い通り、ゆるりと差してくれている朝日のおかげでこの部屋はポカポカになっている。私はそんな朝日が大好きだ。この朝日を浴びて起き上がる瞬間がたまらなく好きなのだ。
ぐぐ…と背中を伸ばし、目をしゃっきりと開けてみる。しかし、それと一緒に大きめのあくびが出てきてしまった。…やっぱり眠い。これは素直に顔を洗ってしまった方が早く目覚めるかな?と冷えた廊下を、素足のままぺたりぺたりと身を縮こませながら進んだ。
春になったとはいえ、まだ冬の気配がそこらかしこからする。朝なんて特にそうだ。今進んでいる冷えた廊下も窓にまだかかっている霜なんかも、冬の置き土産だ。季節の移り目はグラデーションを日常で感じることができるから好きだな。とこの朝の空気を吸い、改めて思う。
流石に寒い廊下を歩いているとぱっちり目が覚めた。でもまあ、せっかく廊下を歩いてきたんだしと洗面台に立ち顔を洗う。歯も磨いて、櫛で軽く髪をとかすと、今日の身だしなみが整った。
はっきりした平行二重と、ぷくりと薄紅色を帯びた頬は、自分でも少し可愛いんじゃないかな?と思うチャーミングポイントだ。鏡を見るたびに、まつ毛に何かついていないかニキビなんかできていないだろうかと、注意して見てしまう。
髪をお気に入りのバレッタで軽く止めて、完璧だ。さて部屋に戻って着替えてこようかなと思ったが、今日もあの儀式をしなくてはならない。それは絶望でもあり、希望の種でもあるようなものなのだが、朝に必ずすると自分で決めている。
返しかけた踵を元の位置まで戻し、もう一度鏡と向き合う。洗面台に左手だけつき、右手は喉へと手をかけた。
大きく一呼吸ついて、願うように瞳を閉じ、「あ」と声を
出した。いや、正確には出そうとしたのか。
あ、という声は響くことはなかった。代わりに通っていったのは麗の息遣いだけで、あとは冬の気配だけが満ち満ちていた。
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