テラーノベル
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あれから、何年経ったのだろうか。 君からの返事は来ないまま、僕は大人になってしまった。 どうしても、君を忘れられなくて、忘れたくなくて、いつも頭によぎる「もしも」に縋ろうとしてしまう。だから僕は今、その「もしも」を必死に追うように小説家になった。
周りの人々は恋人を作っていたり、結婚をしていたりととても幸せそうだった。 でも、僕は恋愛をしようとは思えなかった。まだ、君からの返事が来ていないから。 「きっと届くから」という君の言葉をただただ信じて今日も待っている。 失踪感に苛まれながらもずっと、君だけを待っている。
今日は年に1度のセイカの日。 君が好きだと言ってくれたあの色のあの模様のミサンガを編んだあと、君が好きだと言ってくれた曲を弾く。夜空には、白い鳥と黒い鳥が僕の気も知らずに無邪気に飛び交っている。そんな無邪気な鳥を飛ばす風に、そっと「君に会いたい、君の声が聞きたい」と、強く淡い想いを込めた。 でも、そんなことを願っても君からの返事が来るわけでも、君が戻ってくるわけでもない。そんなこと、分かっている。分かっているのに…どうしても泡沫のように淡い期待が消えなくて、「もしかしたら」が頭に渦巻いてしまう。
ねえ星叶、どうしてあの日、僕を置いて行ったの?僕の事、嫌いだったの?
『違うよ』
「え…?」
微かにそう、君の、星叶の声が聞こえた。
その一寸先に、僕は嗚咽を漏らしながら、子どものように…いやあの時のように泣いた。 目から溢れて止まらない涙に溺れないように、僕は空を仰いだ。 この時の夜空はあの夕焼けよりも、あの日の夜よりも美しかった。何もかもを包み込んでくれるような優しさとたった一つの光を乗せて。
ふと思い出し、封筒の中身を覗いてみた。 また涙に溺れてしまいそうなほど、嬉しかった。君に本当に届いたのだと深く、深く安堵した。 また、生きていこうと思える理由を見つけた気がした。
「ずっと、待ってたよ依織くん。次は、 88鍵の先で待ってるね。」
コメント
3件
わわ...!届いてる… 考察も何も出来ないけどすごく感動しました! 最終話まで投稿ありがとうございました!!