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ガタン、ガタン──
しんしんと雪が積もる中、馬車が音を立てて進んでいた。乗っているのは仲の良い恋人──否、夫婦の二人。


「流石に、北国は冷えますね」


「そ、そうね…」


俺とエリス、そしてギレーヌの三人は馬車で移動中だった。寒さに震えるエリスの様子を見て、俺はため息をつく。


「だから言ったじゃないですか。北国は寒いから厚着した方がいいですよって。大丈夫ですか?」


「だ、大丈夫よ。耐えられるわ」


(いや、寒がってる時点でダメなんだよなぁ…)


馬車の造りは木材。火で温めようにも下手に炎魔術を使えば燃えかねない。とはいえ、エリスが風邪を引くのも困る…。


うーん、どうしたもんか。


走る馬車がガタンと揺れ、思考が刺激された俺はある妙案を思いつく。


「エリスの寒さは僕が和らげます!」


「…?」


俺は立ち上がり、愛用の杖・アクアハーティアを手に取り覆っていた布を外した。そして、俺はその布を広げてエリスの肩に掛ける。


「どうですか?暖かいですか?」


エリスは白い息を吐きながら、安心したように頷く。


「すっごく暖かいわ」


顎まで布を掛けて嬉しそうに笑う彼女に俺は思わず見惚れてしまう。


やばい、俺のお嫁さん、可愛すぎる。街に着いたら一緒に服を買って、ご飯でも食べて、一緒の宿に泊まって。

あぁ、エリス。彼女とずーっと一緒が良いな。


そんなことを考えながら、無意識に頬を持ち上げてしまう俺。

ニマニマとした笑みを思わず顔全体に広げてしまう。


愛情はあの時からずっと増え続けている。そう、あの日。エリスが別れを告げようとした、あの瞬間から。


今までの日常を噛み締める俺。

そのとき、ギレーヌが口を開く。


「ルーデウス、質問がある」


「ギレーヌ、どうしました?寒いなら布に入ります?」


「いや、私は寒くない」


布の下でエリスと俺は手を握り合っていた。ギレーヌは、そんな俺たちを見つめて、布に入ることを拒否する。

寒くなかっただけかもしれないが。

もしかしたら、彼女も俺たちのラブラブパワーに気圧されて気を遣ってくれたのかもしれない。


「私が聞きたいことは布じゃない。これからどうするつもりだ?ということだ」


「うーん、どうしましょうかね」


ギレーヌの問いに俺は少し悩む。

瞬間、隣で赤い髪が揺れた。


「難しい依頼を片っ端から受けて強くなって、ルーデウスを守る!それだけよ!」


エリスの大声に思わず苦笑いがこぼれる。


「もちろん、それもいいんですが…二つ前の街からやってきて、まだ成果が出てないんですよね」


フィットア領を出た後も俺たちは遊んでいたわけじゃない。ギレーヌの指導のもと、難しい依頼を受けて腕を磨いていた。


エリスは確かに強くなった。でも、俺の目的は母さんの救出。その手がかりは、まだ何一つ得られていない。


「母さんの情報、全然見つからないですしね」


「そうだな。ゼニスの情報は皆無だ」


エリスは成長しているし、資金も順調に増えている。だが、俺の目的が果たせていない以上喜んでばかりもいられない。


「はぁ、これからどうしようかな」


ため息を吐く俺。すると、それを近くで見つめるエリスが心配そうに俺に寄ってくる。


「ルーデウス、大丈夫よ。今度は私もしっかりするから」


「ふふっ、頼りにしてますよ」


俺は彼女の腰に手を回し、頬に唇を寄せた。

そして…


ちゅっ


エリスの頬から鳴るリップ音。

突如、彼女の頬がりんごのように赤くなる。

そして…


バコン!

 

「ぐふっ」


情けない声。 

俺は、真っ赤な顔のエリスに殴られた。

 

「ここ馬車だから!やるなら宿屋にしなさい!」

 

呆れ顔のギレーヌに飛んでいく俺。

馬車ではなく、宿屋なら良い。

ツンとしていても愛情が隠しきれないエリス。

へへへ、可愛いなぁ。


ニヤける俺。 

弱くなる雪、開ける視界。

そんな三人の目先には、次の街が映り始める。

 

次の街…その正体は、俺とエリス、二人の決意が現れる場所。

 

─────────────────────────


「ルーデウス、どう?」


「はい!すごく似合ってますよ!」


服屋でエリスが試着をしていた。ここは街ではなくバシェラント公国。魔術研究に長けた魔法三大国家の一つらしい。


(それにしても、エリスって本当にスタイルいいな…)


大きな胸、引き締まったお腹、太ももは健康的で…まさに誰もが羨む美人さん。


まぁ、でも俺は外見だけじゃなく中身も大好きなんだけどね。


「ルーデウスが良いって言うなら、これにするわ!」


嬉しそうにエリスが言い、白くて少しダボッとした上着を買う。内側はモコモコで、俺のローブとも似たデザインだ。


エリスと共に会計を済ませて、俺たちはギルドへと向かう。


そう、二人で。

ギレーヌとは別行動中だ。ゼニスの探索効率を上げるため、そして、ギレーヌに頼らずにやっていくという自分達への挑戦でもある。


「エリス、分かってると思いますが、多少バカにされても殴っちゃダメですよ?」


「分かってるわ」


エリスへの忠告、案の定ギルドに入って聞こえてくるのは予想通りの声。


「ガキだぞ…」


「デートじゃねぇんだぞ…」


外野の会話。

エリスが怒るんじゃないかと不安になる俺の頭。そんな思考で恐る恐る隣を見てみると、そこにあったのは意外な光景だった。


「なんか、ざわざわしてるわね」


「あれ?怒らないんですか?」


「なんで怒るのよ。ルーデウスとの約束は守るわよ」


俺の意表を突いたのはエリスの冷静さ。

俺は彼女の反応に驚きの表情を浮かべながらカウンターで依頼を探す。するとその瞬間、エリスが口を開いた。


「もういいわ。一番難しい依頼をちょうだい!私とルーデウスが三日で終わらせてやるわ!」


「ちょ、ちょっとエリスさん…」


冷静だったはずのエリスの発言。

これにはギルドの職員さんも困惑の色が隠せない。


「ええと、お二人だけでですか?」


発言と同時。

唐突な発言に気圧された職員さんが提示した依頼は「国の散歩」明らかに舐められている。というか、心配されているのだろう。


どうしたものか…そう悩んでいると、後ろから声がかけられた。


「話は聞かせてもらったよ。難関依頼、私たちと受けないかい?」


現れたのは、ドレッドヘアの女性。

瞬間、運命が揺れる。

たった一人の女性が、俺たちの運命を揺らそうとしていた。


 


「どうだい?受けるかい?」


エリスは即答した。


「嫌よ」


「なんでだい?姉弟だけじゃ厳しいだろ?」


「単純な理由よ。私とルーデウスには足手纏いになるからよ」


この言葉に怒りをあらわにする少女が一人。

金髪が特徴的な少女。そんな少女が怒りの言葉を溢す。


「スザンヌが親切に言ってるのに足手纏い?最低!」


「うるさいわね、ルーデウスは凄いんだから!」


この言葉。

エリスは煽ろうと思って言ったわけじゃない。事実、彼女と俺に合わせられるのは限られた人間だけだ。


俺たちのスピード、パワーに合わせられるのはギレーヌやルイジェルドクラス。それは間違いない。

しかし、俺は別の視点で捉えていた。これは──チャンスだと。

俺は、そう捉えていた。


「はい、僕たちで良ければ、是非一緒に受けましょう!」


「えっ、ちょっとルーデウス?」


驚くエリスに、俺は小声で伝える。


「母さんの手がかりを得るためにも、これは必要なことで…「大丈夫よ」


食い気味な彼女の言葉。

一体、何が大丈夫なのだろうか。


「ルーデウスのことは、信じてるわ」


説明は要らない。

エリスの信頼は、とてつもなく深い。

 

エリスは心の底から俺を信じてくれていた。


そこからの話は驚くほどスムーズに進んでいった。

スザンヌが紹介してくれたカウンターアロー。

皆優しい人で心良く迎え入れてくれた。

 

サラっていう子だけは、少し悪態をついていたが。


「決まりだね。明日出発。ルーデウスは後衛、エリスは前衛を頼むよ」


「了解です!」


「ふん!しょうがないからやってあげるわ」


響く二人の言葉。

彼らの誓いはひとつ。互いを守り抜くということ。


そして決意するのだ。龍神を倒すと。


不可能を可能に変える運命。

そんな運命を前に一人の神が笑う。


そう、ヒトガミ。彼だけが大きく笑みを浮かべ、笑っていた。

もしも、エリスがルーデウスと別れなかったら

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