テラーノベル
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朝出勤して個人用のロッカーを開けると、見覚えのない紺色の紙袋が棚の上に乗っている。それには「これを着て出勤してください」と書かれた付箋が貼られている。力が入りすぎているようなぎこちない筆跡は、恐らくニアのもの。 中身は燕尾服だった。黒色のテールコートを触ってみると布地はペラペラで、タグには「ポリエステル100%」の文字。恐らくフォーマルウェア専門店ではなく、通販などで購入したコスプレ用の安価な製品だと思われる。
ジェバンニは燕尾服を紙袋の中に戻すと、それを持って捜査司令室に行く。
「ニア、これはなんですか?」
冷たい床の上に直に座ってトランプタワーを積み上げていたニアが、ジェバンニの方を振り向く。
「着てこなかったんですか?」
「これはコスプレ用品ではないですか。理由を言ってくれないと恥ずかしくて着れません」
「理由ですか。そうですね……」
しばし空中に視線を這わせるニア。
「……高田清美の潜入捜査において、ボディーガードの次は使用人が必要になる可能性があります。それをジェバンニにやってもらうことを考えているので、今のうちにそういった礼服に慣れておくべきだと考えました。あなたなら能力においては採用基準を充分満たしていますし、高田清美は面喰いのようですから顔採用もあり得ます。後は礼服を着こなし立ち居振る舞いさえ様になれば、高田もあなたを簡単には解雇しないでしょう」
「……それは本当の話ですか?」
「ええ、多分。恐らく……」
ニアはもうジェバンニに背中を向けていて、かといってトランプタワーの積み上げ作業に戻ることもせず、短い巻き毛をゆっくり指に巻き付けている。
「……。でも使用人が燕尾服を着て働くというのはアニメや漫画に限った話ではないですか?」
「そんなことはないですよ。最近は現実の執事職の方がサブカルチャーの影響を受けて、燕尾服を普段の制服とする職場も増えているそうです」
「……」
そこら辺の事情に詳しい訳ではないので、何も言い返せないジェバンニ。
ニアの言ってることはめちゃくちゃに思えるが、上司の言いつけを突っぱねることもできない。
ロッカールームに戻って燕尾服を着用し、再び捜査司令室に戻るジェバンニ。
いつの間に組み立てたのか次はおもちゃの電車のレールに囲まれているニアと、外出から戻ってきてデスクワークをしていたリドナーがジェバンニの方を振り向く。
「……ジェバンニ、あなた何してるの?」
「いや、これはニアの言いつけで着ているのであって着たくて着てる訳では……」
「……ありですね」
ニアがぼそっとつぶやく。
「え?」
「とりあえず今日一日はその服装で過ごしてください。あと髪の毛も使用人らしくワックスで整えてきてください。そのままもありですが……。それからリドナーと私に紅茶を振る舞ってください。給仕の所作は実践しなければ身につきませんから」
「あの、仕事は……」
「通常業務に就くのはそれからで構いません」
ニアはそう言うともう背中を向け、電車ごっこに戻る。そんなニアの背中を見下ろし、それからジェバンニの方に目を遣るリドナー。
「……丁度喉が乾いていたところだし、私からもお願いするわ、ジェバンニ。私はアイスでお願い」
「(そんな、リドナーまで……。この状況に突っ込んではくれないのか)」
と項垂れるジェバンニ。
ニアの気持ちを以前から察しているリドナーは、今回のニアの思惑も理解している。
「(まあ目の保養になるのは確かね…)」
と心の中でひとりごち、パソコン作業に戻るリドナーであった。
end.
コメント
3件
あー、これめっちゃ好きなやつだわ!笑 ジェバンニがまんまと燕尾服着せられてて、しかもリドナーまで「目の保養」って心の中で言ってるの草生えた。ニアの「ありですね」のタイミングも良すぎるし、日常パートでここまでキャラ立ちさせられるのすごいよ。続きめっちゃ気になるわ!