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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります

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ご本人様方とは一切関係ありません


猫視点



無人は昔からこうだ、考えなしに突っ走るところがある。

「ちゃんと考えろよ」なんて、これまであいつに向けて何度口にしたか分からない。



今回だってそうだ。

「相手を交換してキスしたら元の世界に戻れる」なんて、嘘か本当か…誰からの情報かも分からないような言葉を考える間もなく実行に移そうとする。



ソファから立ち上がって、まっすぐに俺じゃない「いふ」のところへ向かう無人。

その腕を、思わず一瞬掴みかけた。

だけどすぐに思い直して手を引っ込める。


「必要ない」と、そう思ったからだった。



少し背伸びをしていふにキスをしようとした無人。

胸が一度ざわりと音を立てた気配はしたけれど、俺はそれでも動かなかった。

それが正解だったかのように、目の前でいふが無人にデコピンをしてキスを防ぐ。



…そうだよな、「お前」が「俺」ならしないよな。

本当に好きでもない相手に、キスなんて。




だけどそのせいで、話が変な方向へ向かってしまったのはいただけない。

無人とないこさんが勝手に盛り上がったせいで、水族館に行くはめになってしまった。

何でこんなダブルデートに繰り出さなきゃいけない…?

確かに元の世界に戻るのに時間制限なんてものは設けられていなそうだったけれど、楽しんでる場合じゃないだろうどう考えても。



「えーだってずっと座って考えてても仕方なくない?」



そんな風に無人は言うけれど、もうお前だって元の世界への戻り方を模索するのも忘れてこの境遇を楽しんでないか。

「いや、お前はもうちょっと考えろよ」なんて、相変わらず噛みつくような返事しかできなかった。






「お待たせ。あれ、まろは?」


水族館に入る前、チケットを購入に行っていたないこさんが戻ってきた。

辺りをきょろきょろと見回しながら、自分の相棒を探している。



「なんか飲み物買ってくるって。…あ、ほら帰ってきた」



向こうからこちらにやって来る大きな人影を見つけ、無人が指さした。

戻ってきたいふは、両腕にペットボトルを数本抱えている。

「はい」と一番に無人に差し出したのは、甘そうな薄ピンク色のいちごみるくだった。



「え、俺の?」



目を丸くしながら、無人はそれを受け取る。

それから「これ好きなやつ」と、少しだけ瞳がきらと光った。



「そうやろー、絶対甘いもの好きやもんな」



ないこさんの分身のような存在だから、ということだろうか。

いふはそう言って笑いながら、次に俺の方に向けてカフェオレのボトルを差し出した。

…コーヒーが好きだということは当然知っているんだろう。

加えて、今はブラックや微糖よりも甘いものが飲みたいなんて気分でいることも、きっと「自分」だから手に取るように分かるに違いない。



「…ありがとう…ございます」

「あ、お金…!」



素直になりきれない口調で礼を言った俺に被せるようにして、無人が慌ててポケットから財布を取り出そうとした。

だけどいふは、左手を横に振ってそれを遮る。



「俺の買うついでやから、いいって」

「まろー、俺のは?」



俺や無人に「でも…」なんて言葉を継がせないようにか、ないこさんが割って入るようにそう言った。

それを読んでいたのか、いふは「あるよ。はい」と無人と同じいちごみるくを彼に差し出す。



「んー今日は俺、ブラックコーヒーな気分だったんだけどなぁ。大人だし?」



にやにやと笑いながらないこさんはそんな風に言葉を継いだ。

俺らがいることでふざけてあえての「大人」アピールをしたいんだろうか。

まぁそれもこれも、全てはどんな些細な事でも楽しんでしまう彼らしい言動なのだろう。

それすら読んでいたかのように、「言うと思った」といふは首を竦めてみせた。



「逆張りないこたんは、絶対そうくると思っとった。はい」



小脇に隠すように持っていたブラックコーヒーのボトルを、いふはないこさんの前に差し出す。

「んははは。まろの勝ちぃ」なんて笑ういふに対して、ないこさんは「ぐ…っ」なんて何のダメージを受けたんだか分からないような声を漏らした。



「で、ほんまは? どっちする?」

「……いちごみるく」

「やろうな」



一度受け取ったないこさんの手の中のブラックコーヒーのボトルを、いふは取り上げるように引き取った。

そしてそのまま、もう一つのいちごみるくを代わりにおさめてやる。




……どうでもいいけど、くだらないことでまで楽しそうに笑うな、この2人。

余裕があるとでも言えばいいのだろうか。

子どもじみた軽口の応酬が、それでも本物の子どものそれとは全然違うのが分かる。


バカなことを全力でやれるのが大人ってことなんだろうか。



…今の俺には、きっと無理だ。

あと10年経った自分が無人とこんな関係になれているのかも分からない。




「猫宮ー? 中入ろって」



もう先に歩き出していた大人2人の後を追いながら、無人がそう言って俺を振り返り手招きしてみせた。





「水族館なんて、小学校の遠足以来じゃね」



中に入ってすぐ、無人はきらきらと目を輝かせて水槽を見上げていた。

サメやエイといった大きな魚が気持ちよさそうに泳ぐのを見上げていたかと思うと、マグロの群泳に感動してみたりとくるくると表情が変わる。


トンネルのようなアーチ型の水槽の下を歩くときには、その中を泳ぐイルカを指さして「すげー」なんて言いながら俺の袖を引っ張って来た。



「猫宮はこっちの方が好きそうー」



少し奥にあった、縦型の水槽がいくつも並ぶエリアに入ったときに無人はそう言った。

ライトで照らされたクラゲが光を放つかのように輝きながらぷかぷかと浮いている。

幻想的なそれは、確かに勇ましいサメや分かりやすい魚の大群よりも俺好みだ。



「きれーだな」なんて小学生みたいな感想を漏らしながら、無人は隣で嬉しそうにそれを見やっている。

水族館なんて、そう言えば2人で来たことはなかった。

こんなに分かりやすく喜ぶのなら、もっと早く連れて来ておけばよかった。

なんて思った瞬間、自分でも自覚する前に手を横に伸ばしていた。



暗闇の中、指先が触れ合いそうになる。

体を壁にしているせいで周りからは見えないだろう。

一瞬、ほんの刹那だけ。

そう思った瞬間、だけど無人が先に動いた。

何の気配を察知したのか、バッと勢いよく後ろを振り返る。



「…、…っ!」



言葉の中身までは聞こえてこなかったけれど、少し離れたところに座っていたいふがないこさんに向けて何かを言ったところのようだった。

そのまま立ち上がり、大股で暗いフロアをずんずんと進んでいく。

近くのドアを押し開き、屋外のエリアへと出て行ってしまった。



「…何…? ケンカ?」



めんどくさ。

そう呟きかけた俺の横で、無人が走り出した。



「無人…!?」



俺の言葉にすら足を止めることなく、無人はそのまま室内を出ていったいふを追いかけていった。






「まろっ」


屋外エリアの隅っこに、壁を背もたれにして「あいつ」は立っていた。

深く被ったキャップから、青い瞳を少しだけ覗かせる。

目の前の無人の姿を視界に捉えて、その目がわずかに揺らいだ気がした。

「ないこ」じゃなくて、ホッとしたのかもしれない。



「どした? 水族館やっぱりつまんない? まろは動物園の方が好きって言ってたもんね」



全力で水族館を楽しんでいたはずの無人。

それでもこうしてたまに周囲を振り返り、誰かの心の機微には鋭さを見せる。

そんな無人に少し遅れるようにして、俺もその数歩後ろで足を止めた。



「…いや、そんなことないよ。楽しい」



にこりと笑って、いふはそう無人に応じる。

…嘘ばっかり。さすがに俺だけじゃない。

無人も「ほんとに?」と疑うような目を向けている。



そんな無人に対して何を思ったのか、一瞬だけいふが真顔になったのが分かった。

それからその大きな手が前方へ伸びる。

俺とそれほど身長差はないはずなのに、もっと大きく見える手のひらが無人の髪の上に乗せられた。



「…かわいいなぁ」



ぽんぽん、と優しく撫でるように叩く手の動きに合わせるように、そんな言葉が零れ落ちる。


それを耳にした無人は、「か…!?」と思わずどもりながら目の前のいふを凝視した。

途端に俺の胸の奥がざわりとまた不快な音を立てるのを聞く。



「ちっちゃいないこたん、かわいい」

「いやちっちゃくねーし!」



きっと俺が何年経っても平然とは口にできないだろうセリフをさらりと言われたせいで、無人の顔は瞬時に真っ赤に染まった。

耳まで赤くなるのを見やっているうちに、頭のどこかで何かが沸き立つような…怒りに似た感情を自覚する。



そう思った瞬間には、無人の肩を後ろからぐいと引き寄せていた。

代わりにいふと無人の間に自分の半身を滑りこませる。



「『ないこ』じゃない、『無人』。失礼じゃないですか?」



静かではあるけれど噛みつくような内容の俺の言葉に、いふは驚いたように目を丸くした。

それから「…ごめん」と小さく答える。



「おい猫宮―そんなことでいちいち突っかかんなよ」



呆れたような言葉を寄越しながらも、無人は「嫉妬すんなよ」なんて嬉しそうに笑っている。

……そうか、これは怒りじゃなくて「嫉妬」か。

自分じゃない他人が無人に触れたことに対してなのか、自分が口にできない言葉をためらいなく言えてしまういふに対してなのかは、自分でもよく分からなかった。



「……ないこ呼んで、イルカショーの場所取りに行こか」



場の空気を立て直すかのように言って、いふは俺ら2人の前を歩き出す。

さっき出てきたフロアへの扉を、再び押し開いた。

その後ろをついていきながら、無人が俺の袖をくん、と引っ張る。




「…どうする? どうやって仲直りさせる?」

「めんど。そんなん必要?」

「いや、だって俺らの分身だろ? ケンカしたらあと数日は口きかないじゃん絶対」



…それは確かに。

無人がさっさと拗ねるのをやめればもっと早く解決するんだけどな、とは、思ったけれど口にはしなかった。



「この後、元の世界への戻り方も考えなきゃいけないしさ、仲直りしてもらった方が都合いいじゃん」



そうは言っても、原因が分からないからな。

2人のことはまだ数時間分のことしか知らないけれど、それでも察する部分はある。

ないこさんならともかく、いふが声を荒げて怒るなんて多分「些細なこと」ではないはずだ。

下手に手助けをしようとして失敗したら、悪化する可能性だってある。



「めんどいな、大人も」



高校生にこんな気を遣わせるなよ。

そう思ったとき、先を歩いていたいふが足を止めた。

ないこさんの座っていた場所まで辿り着いたせいだ。



「ないこー、イルカショー行こ」



後ろで思考を巡らせていた俺と無人の前で、いふは何でもないように平然とそんな声をかけた。

思わず俺は隣の無人と顔を見合わせる。



ないこさんの方は、一瞬目を丸くしたように見えた。

だけどすぐに小さく唇に笑みを浮かべ、椅子から立ち上がりながらいふを見上げる。



「白イルカ見たい、俺」

「おるかそんなん、ここの水族館に」



ひゃはは、なんて声を上げていふも笑い返しながら、2人で入場時にもらったパンフレットを見始める。



「……心配なかったみたい」



苦笑いを浮かべる無人の横で、俺は盛大に吐息を漏らした。

「ごめん」の言葉も「仲直り」なんて明確な状況も、この2人には必要ないってこと?

大人になるってそういうことなんだろうか。


そうだとしたら、本当に大人って…




「めんどくさ」



呆れたようにそう呟いたけれど、そんな2人のやり取りに少しでも羨ましい気持ちになってしまったのは罪だろうか。





「どしたー? いくよ、2人共」



後ろで立ち尽くしたままの俺と無人に、ないこさんはにこにこしたまま首を傾げて声をかけてくる。

追うようにして歩き出した無人の後ろを、俺もゆっくりとついていった。





青桃×猫乾クロスオーバー

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