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放課後の撮影も終え、みんな疲れ切っていた。
「はぁぁ〜……今日、声かけられすぎじゃない……?」
モモは肩をぐるぐる回しながら伸びをする。
今日も元気いっぱいだけど、さすがにぐったり気味。
「人気が出てる…ってことだよね」
ライナは控えめに笑う。昨日より少し物静かで、落ち着いた雰囲気。
でも、モモの明るさに釣られてちょっとだけ表情が柔らかい。
ミオは相変わらずクール。
スマホをチェックしながら短く言う。
「今日はもう任務ないはず。帰ろう」
「えー、ミオちゃん帰り早いよ!」
モモが軽く袖をつまむ。
ミオはわずかに目をそらして、耳が赤い。
「……疲れてるだけ。離して」
そんなやり取りをしながら三人は夜の商店街を歩いていた。
その時だった。
――ピキッ。
遠くで“ガラスがひび割れるような音”がした。
ライナが足を止める。
「……今の、聞いた?」
ミオの表情が一気に鋭くなる。
「アビスの…干渉音。こんな街中で?」
モモは背筋がゾワッとした。
昼間の笑顔が秒で消える。
「まさか……市街地に出たの!?」
悲鳴が上がった。
「きゃあああああっ!!!」
「逃げろ!!」
「黒いのが……影みたいなのが……!」
商店街の奥で、黒い液体のような影が蠢き、街灯が一つ“バチッ”と落ちた。
アビスβ系の特徴——影の侵食。
ミオが歯を食いしばり、杖を構える。
「最悪。一般人が多すぎる」
ライナが息を整えながら弓を生成する。
普段より静か。でも、迷いはない。
「……私たちがやるしかない、よね」
モモは一瞬だけ怖くて足がすくんだ。
でもすぐ、笑ってみせる。
「うん。ルピナスが……守る!」
三人の足元が淡い光に包まれる。
変身の魔法陣が夜道に花のように開き、空気が震える。
モモ——桜色の光がひらひら舞う。
ミオ——青白く、少し肌寒い空気。
ライナ——地面から少しピリつくような光。
三人は露花が考えた変身の台詞を一斉に言う。
「咲き誇れ、桜の勇気!
サクラ・ノノ、変身っ!」
「凍てつく静寂、ここに。
アクア・ミオ、展開。」
「閃け、雷光!
スパーク・ライナ、射抜くよ!」
「「「希望も、絶望も、貫いて。
魔法少女ルピナス、覚醒!!」」」
――はじまりは、たった二体のβだった。
街中の悲鳴とサイレンが響く中、
ルピナスの三人は現場に急行した。
「モモ!右のやつお願い!」「うんっ!」
βが二体だけだったから、最初は余裕すらあった。
桜の短刀が一閃し、雷が走り、氷の刃が突き刺さる。
「これなら、大丈夫……だよね?」
不安げに言うモモに、ライナが笑って返した。
「任せなって!三人もいれば――」
その瞬間だった。
――ズ…ズ…ズ……。
地面がひび割れたかと思うと、
街灯の明かりが一斉にノイズを纏い、暗転した。
黒い霧が、地上から噴き出す。
「……っ!?」
ミオが杖を構えるより早く、霧は“形”になった。
人影。
長すぎる腕。
白い線だけの顔。
「γ《ガンマ》……!? どうして、市街地に……ッ!」
ライナが矢を生成したその瞬間、
影が跳ねた。
速い――目で追えない。
「ライナ避け――」
ドゴッ。
「っ……あああああああっ!!」
ライナの身体が車に叩きつけられた。
左腕がありえない方向に折れ曲がる。
「ライナ!!」
叫ぶミオに、γの影の腕が迫る。
ミオは避けきれず、脇腹を深く裂かれた。
「くっ……ぁ……ッ!」
水色の服が赤に染まる。
「ミオッ!!」
モモは震える手で短刀を握り直すが、
γはまるで“モモを優先していない”。
真っ先にライナを踏みつぶそうとし、
次にミオにとどめを刺そうと――
そのたびに黒い肉体が再生していく。
「だめ……だめだよ……!やめて……!」
涙で視界がゆがむ。
その瞬間、γがモモへ腕を伸ばす。
「――ッ!!」
ギュッ!!
指先が服を破り、モモの肩がかすめる。
浅い傷。だけど熱い痛み。
影肉が迫る。
(怖い……怖い……っ!!
でも……でも……!
二人が死んじゃうのは……絶対に、絶対にイヤ!!)
胸の奥に、知らない熱が灯った。
――桜色の光。
「……いける……いける……っ!!」
モモの短刀が大きく二本へ分裂し、
光の花びらが周囲に散った。
「サクラ閃――
桜暁ブレードラッシュ!!」
光が爆ぜる。
連撃が影肉を切り裂き、
初めてγが怯んだ。
「ミオ!!今!!」
「……っ、わかってる……!」
ミオが氷の刃を飛ばし、
ライナが片腕だけで雷の矢を放つ。
桜、氷、雷。
三つの光が一点に重なり、
γの胸部が大きく崩れ――
“コア”が黒い霧の奥で露出した。
「……お願い……!!」
モモの一撃がコアを割った。
静寂。
影の肉体が崩れ、黒い霧となって空に消えた。
モモはその場へ崩れ落ちた。
「モモ……助かった……本当に……」
ミオが血を押さえながら微笑む。
ライナは痛みに耐えながらも、
かすれた声で言った。
「モモ、、じゃん、、、!
次からも、頼りにするから、、、、」
街にまだサイレンが響いている。
けれど三人は、もう動けなかった。
――この日を境に、ルピナスは“ただの新人”ではなくなった。
市街地に現れた初のγ。
そして、それを倒した三人。
私たちの日常は、
もう二度と元には戻らない。
γが霧になって消えたあと、
静まり返った街に、エンジン音が押し寄せた。
白い魔法障壁トラック。
“星守院 回収班”と書かれた車両が数台。
「負傷者確認!ライナ・左腕複雑骨折!ミオ・脇腹深傷!」
隊員たちが慌ただしく駆け寄り、
ライナとミオの身体に魔力固定具を付けて担架に乗せた。
「ミオ……ライナ……」
モモの声は震える。
担架が運ばれていく間も、
二人の顔色は悪いままだ。
(私だけちょっとの傷で、 二人はあんなに痛い思いして なのに何もできなかった、、、
最後の一撃だけなんて、そんなの、、、)
胸が重く沈む。
ぼんやりしていたモモの肩に、誰かの手が置かれた。
「動けなくて当然よ。初陣でγ相手なんて…誰だって死んでたわ。
よく立ってた。よく、戦ったわ。」
露花だった。
優しい声…のはずなのに、
その瞳はどこか“温度がない”。
「とにかく、三人とも基地に戻りましょう。治療が必要だわ」
モモは黙って頷いた。
――星守院・医療棟
ライナは麻酔処置で眠らされ、
ミオは数時間の治癒魔法処置を受けていた。
その間、モモは治療室前の椅子にうつむいたまま動けなかった。
(私……弱い……
本当に魔法少女なんて、やれるの……?)
そんなモモの前に、スーツ姿の大人たちが現れた。
星守院の上層部。
「サクラ・モモ。今回の対応――素晴らしかった。」
「え……?」
「新人で初実戦。しかもγを撃破。前例がない。
三名の戦闘力は、我々の予想を遥かに上回っていた。」
「……でも……ミオとライナが……こんな……」
「負傷は想定の範囲内だ。
むしろ“これで済んだ”のは奇跡だよ。」
上層部たちはまるで戦果を喜ぶように、
淡々とモモを“評価”していく。
モモはその空気に違和感を覚えた。
(なんで……
こんなに喜んでるの……?
二人はあんなに痛いのに……)
背後から声がした。
「良かったわね。期待されてるみたい。」
露花が微笑んでいた。
優雅で、穏やかで――
でもその笑みは、どこかぞわりとする“冷たさ”を孕んでいた。
「これからが、本番よ。
ルピナスはもっと強くなる。
もっと注目される。
もっと、価値を示さなくては。」
モモは言葉を失った。
露花が最後にぽつりと言う。
「――あなたたちは、星守院の“希望”なんだから。」
希望。
その言葉が、不気味なほど軽く響いた。
アビスとの激戦から一夜。
星守院の医療棟で、モモは硬く拳を握りしめていた。
ベッドに座るミオとライナは、もう普通に動いている。
昨日は 骨折と深い切創だったのに——傷跡さえ残っていない。
「……ごめん。わたしだけ、軽くて……っ」
モモが俯くと、最初に口を開いたのはミオだった。
無表情のまま、でも声だけはどこか優しい。
「気にしないで。モモがいなかったら、私たち……本当に危なかった」
ライナも笑って続ける。
「そうそう!モモが強いから私たちが助かったの!
むしろもっとドヤっていいくらいだよ?」
二人の言葉に、モモの胸の強張りが少しだけほどける。
―――本当にそうなんだろうか。
昨日、ミオの腹には深く赤い裂傷があった。
ライナの左腕は形が変わるほど折れていた。
普通なら数週間どころではないはずなのに。
それが、たった一日。
「……奇跡、だよね」
モモが言うと、ライナが首をかしげる。
「星守院の医療技術、すごいんだよ。うちら知らないだけで!」
ミオも頷く。
考え過ぎかな……とモモは胸の奥のモヤを押し込んだ。
⸻
◆ 新装備支給
星守院の装備室。
白い無機質な部屋に、露花が淡く微笑んでいた。
「昨日は本当に、お疲れさま。
今日からあなたたちには、正式装備を渡します」
テーブルの上には、3人分の武器と衣装設計書。
そして露花は「衣装の正式名称」を告げた。
★魔法少女装束・正式名称
《星守式魔導戦闘装束(アストレア)》
軽く、魔力伝導率が高く、アビスの攻撃に耐える
——魔法少女専用の 戦闘服。
「可愛い名前にしたい気持ちはわかるけど」
露花が小さく笑う。
「戦闘服は、“兵装”なの。だから正式名はこうなるのよ」
3人は顔を見合わせる。
兵装——
どこか冷たい響き。
でもすぐに露花がやわらかい声で続ける。
「もちろん、表向きは“アストレアスーツ”って言っていいわ。
子どもたちに夢を与えるのが、あなたたちの役目だから」
装備室を出た3人の背中を見送りながら、
露花の背後のドアがわずかに開き、低い声が漏れた。
「——回復速度、予定より早いな」
「問題ない。“因子”は順調に定着している」
「あの子たちに、まだ知らせる必要は?」
「ない。
覚醒が進めばいずれ理解する。
——星守院のために、ね。」
小さな笑い声。
露花は振り向かない。
ただ静かに微笑んで、指先でアストレアの設計書を撫でる。
(大丈夫。あなたたちは、きっと“適合者”になれるわ)