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「花子さん花子さん、いらっしゃいますか?」
くだらない。今まで何人もの生徒がそう唱え扉を叩いた。
どうせ俺の事なんて見えないクセに。そう思いながらも俺はいつもどおりに
「はーあーい」
と答え、扉をゆっくりと開ける。
やっぱり俺の事は見えていないみたいだ。
そりゃそうだ。霊感もなく、死期も近くない人間に怪異が見えるわけがない。
生徒が去った後、個室から出て窓枠に座った。
怪異っていうのは退屈なものだ。
ある程度霊感がある人間でなければ脅かす事も出来やしない。
花札にコマ回し、けん玉。 もう何万回とやったことか。
窓の外の景色を見るのは結構好きだ。
外の世界は気まぐれで、俺を退屈させなかった。
俺は生徒たちが校門へ向かうのをただぼんやりと眺めていた。
もう生徒達が大体帰った頃。
俺は窓枠から降りてトイレを出た。
今日はなんとなく歩きたい気分だ。
いつもは数センチほど浮いて移動するが、今日は久しぶりに地に足をつけて歩いてみた。
足から振動が伝わってくる感じにどうにも慣れない。
可笑しい話だ。生きている頃は当たり前のことだったのに。
俺は見慣れたドアを勢いよく開けた。
「つっちごーもり!」
俺が昔から大好きな顔に、匂い。
俺が遠慮無しに飛びつくと土籠は情けない呻き声を上げた。
それでもちゃんと支えてくれるのだから、つくづく俺に甘いものだ。
「いきなり飛びつくなと言ってるでしょう、こっちも寿命が縮むんですよ」
「怪異に寿命なんてないでしょ、土籠って意外と茶目っ気あるよね」
荒い話し方を敬語で覆い隠したような変な言葉遣いが面白く、つい少し笑みがこぼれる。
怪異になって、土籠の上司になって何十年も過ごしているが、 未だに土籠との会話だけが俺の楽しみだ。
土籠は昔からずっと変わらなかった。優しくて、ぶっきらぼうで、俺の自慢のせんせい。
生前の俺のケガだって、毎日放課後残って手当てしてくれた。頼んでなんていないのに。
面倒だと思わなかったのだろうか。それとも、ホントに俺の事が心配で心配で堪らなかったのだろうか。
そうだったらいいな、とどこかで思っている自分がいた。
骨ばった膝に腰掛け、胸に顔を埋めた。
怪異だから体温はないけれど、どこか暖かいような気がした。
座り心地は良くは無いが、お互い様だろう。俺もなかなかに細い方だと自覚はしている。
乗せている身としては良い感触では無いはずだ。土籠は下ろしてきたりはしないけれど。
「ねー土籠」
「俺の事、スキ?」
そう問いかけると、土籠は一瞬目を丸くした後呆れたように目を伏せ俺の頭に手を置いた。
返答は無かったが、別にわざわざ言う事も無いと判断したのだろう。
言ってくれないとわからないのに。土籠はいつもそうだ。
でも、土籠のそういう所が俺は好きで、また自然と笑みがこぼれた。
「俺はダイスキだよ」
そう言い、俺は土籠の膝から飛び降り教室から出た。
ダイスキだと言ってからドアを閉めるまで、 土籠の顔は見なかった。
もし土籠が頬を染めてくれていたなら、動揺してくれていたなら、どんなに嬉しいことだろう。