【お願い】
こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ご本人様方とは一切関係ありません
ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
ちょっと疲れてしまった青さんと、包容力のある桃さんのお話
精神病む系の話は大の苦手ですが、こういう「疲れた」くらいの人間らしい弱さを見せてくれる攻もたまにはいいですよね
…疲れた。
頭の中に浮かんだそんなワード一つで、自分の現状を思い知る。
身体が悲鳴を上げかけていることを自覚した途端、ずしりと何かが背中にのしかかるように重く感じた。
引きずるようにして足を前へ出すけれど、気が進まないのか歩幅はいつもより狭い。
駅の階段を降りてホームにたどり着くと同時に、乗るつもりの電車が滑りこんできた。
いつもなら駆け込んでいたかもしれないけれど、今日ばかりは足が思うように動かない。
目の前で無常に扉は閉まり、また颯爽と電車は走り抜けていく。
惜しいとも悔しいとも思わずにただ虚ろな目でそれを見送って、俺はそのままホームを歩き出した。
この駅のホームは、一番端に改札への階段がある。
いつもならその付近から電車に乗るところだけれど、何となく足をそのもっと先まで向けた。
電車を降りたばかりの人がわっと階段の方へ向かうのとは、逆方向にただまっすぐ進む。
俺は今フレックス勤務のような形態になっているから、もう通勤ラッシュの時間はとっくに終わっている。
それでも今から学校や会社に行く人はそれなりに多いのか、人の波にはまだ勢いがあった。
その流れに逆らうように歩いて、ホームの一番端まで辿り着く。
電車が出ていったばかりのそこには当然誰もおらず、まるで自分一人がぽつんと取り残されたようだった。
次に来た電車に乗って、会社に向かう。
そうするのが普通でそうするべきだと頭では分かっている。
でも、疲れているせいだろうか。
いつまでこんなことを繰り返すんだろうと頭の中で囁く自分もいる。
歌い手活動、グループ活動に不満があるわけじゃない。
会社員として両立させることを選んだのも自分だ。そんなことは分かってる。
それでも蓄積された疲労は自分が思うより甚大で、ふっと現実逃避するような考えが浮かんでしまった。
…もし、ここで乗るべき電車と逆方向に飛び乗ったらどうなるだろう。
いや、考えなくても分かってる。
無断欠勤して大騒ぎになった上、後で上司に怒られるに決まってる。
そうして目的地もなく乗った電車は長い時間をかけて終点にたどり着き、大して物珍しいものがあるわけでもない駅に降り立つんだろう。
何をするでもなく片田舎のベンチに座ってふっと息をつく。
そうこうしているうちにあっという間に夕方になり、「帰るか」なんて重い腰を上げるのかもしれない。
だから、そんなことをしたところで何にもならないことは分かってる。いや、むしろマイナスにしかならない。
だけど、それでも…。
非日常に思いを馳せる。
いつもと違う何かが得られたら。そうしたらこの疲れや息苦しさから抜け出せるんだろうか。
そんなことを考えていた時、乗るべきはずの電車とは反対方向へ向かうそれが、自分の背中側のホームへ滑り込んできた。
「……」
肩越しにそちらを振り返る。
開いたドアからはさっきと同じようにわっと人が降り立った。
人波は言い合わせたわけでもないのに、流れるようにまた階段の方へ向かう。
それを黙然と眺めていると頭上で発車ベルが鳴った。
…今なら、何かが変えられるだろうか。
今なら、何かを得られるだろうか。
現実から目を背けるだけのそんな逃避願望が胸にふつりと沸いた。
それを自覚する前に、革靴の踵が後ろを振り返る。
それは、半ば無意識の行動だった。
ベルが鳴りやむ、それと同時に大股で一歩踏み出した。
……いや、踏み出そうとした。
「まろ、おはよ」
ぐい、と腕を掴まれて後ろに引かれた。
驚いて振り返った俺のすぐそこで、ドアがプシューっと音を立てて閉まる。
乗ろうとしていたところを現実に引き戻されたような感覚に思わず目を瞠った。
「今から出勤? おつかれー」
俺のスーツ姿を目に留めて、そこにいたないこはふと笑みを漏らしながらそう言った。
だけどそう口にした瞬間に、「あれ」と首を捻る。
「まろが乗るの反対方向じゃなかったっけ? ほら、あっち」
すぐ横で走り出した電車の風圧をくらいながら、ないこはホームの反対側を指さした。
思わず言葉に詰まった俺に、あいつは笑顔のまま小首を傾げている。
そんな表情を見つめ返すと、ふっと小さく息が漏れた。
「反対方向乗って終点まで行ったら、どうなるかなーって思って」
ごまかしきれないと悟ったから、せめて冗談めかしてそんな風に軽い口調で言葉にした。
一瞬目を大きく見開いたないこは、それから瞬きを繰り返す。
そして目を細め口角を上げ、「ふふ」と笑んだ。
「何それ、おもしろそうじゃん。やろやろ」
「は!?」
「この路線だと終点まで…1時間半くらいあるかなぁ。俺も行ったことない。どんな駅なんだろ」
「いやいや、ちょっと待って!」
辺りにいた人たちはもう皆階段の方へ向かい、人気がなくなっていた。
だから取り繕う必要もなく、俺は思わず公共の場だというのに大声を上げてしまう。
「ないこもこれから出勤やろ?そんなことしとる場合ちゃうやん」
「んーまぁ何とかなんじゃない?」
「何ともならんわ…!」
放っておくとこいつは今電車を見送ったばかりの乗車位置に並びそうで、俺はその肩をぐいと引いた。
「えーおもしろそうなのに。終点まで行ってまたそっから他の路線乗り継いでさ。一日かけて小旅行すんの楽しそうじゃん。当てもなく乗り継ぎまくったせいで戻り方も分かんなくなったりして、ぎゃあぎゃあ騒ぎながら何とか終電までには帰ってくんの」
残念そうに唇を歪めて言うその表情に、思わず小さくため息をつく。
眉を顰めた俺を見上げて、ないこは目を細めて笑っていた。
…あぁ、悪かったよ。本当は全部お見通しなんだろ。
俺が疲れ果てて現実逃避しようとしたこと。
非日常を求めて、珍しく取り返しのつかないことをしようとしてしまったこと。
「ごめん」
「何謝ってんの」
あくまでも知らんふりをするつもりなのか、ないこはおかしそうに声を立てて笑う。
その瞬間ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚に襲われ、俺は思わずないこの手を引いて歩き出した。
電車は行ったばかりで、更にここはホームの一番端だ。
まだ人は集まってきておらず、すぐ近くの大きな柱に身を潜めると2人だけの空間が生まれる。
「…ごめん」
もう一度繰り返し、柱にないこの体を押し付けた。
それからその肩に頭を寄せる。
返る声はなく、ただないこは俺のその頭をぽんぽんと優しく叩くように撫でた。
その温かさに、現実に引き戻してもらえたことを実感してどこかほっとしている自分も゙確かにいる。
俺らのことを、エンジンとブレーキだなんて言ったのは誰だったっけ。
でも実際にはそうじゃない。
ないこはエンジンと言われていても、周りや本人が評するようにただ無謀なだけじゃない。
お前が突っ走るのは、時折、今みたいに俺のためだったりするんだ。
そんな無茶をさせたくなくて、必然的に俺がないこにも自分にもブレーキをかけるだけ。
「まろ、くすぐったい」
俺の髪が首筋をなぞるせいで、ないこはそんなことを言いながら楽しそうに笑い出した。
あぁ、本当に俺疲れてたんだな。
ないこが笑ってくれていたらそれだけで良かったはずなのに。
それなのに現実から逃げたいと思うなんて。
「…会社、行ってくる」
そう告げた瞬間、ホームに電車が入ってくることを知らせるアナウンスが流れる。
今度はちゃんと、本来俺が乗るはずだった方面行きの電車だ。
タイムリーなそれに耳を傾けてから、ないこはまたふふ、と笑った。
「うん、帰り俺んち寄れる? なんかまろの好きなもの作っとくよ」
いつも俺に甘やかされる立場のないこが、珍しくそんなことを言う。
「ん、じゃあ寄る。…しゃーなしな」
「しゃーなしだったら酒はいらねぇよなぁ?」
俺の額にデコピンするふりをしながら、ないこはそんな風に続けて笑った。
それにつられて思わず苦笑を漏らした俺に、ピンク色の目が優しく細められる。
「行ってらっしゃい、まろ」
最後に俺の頭を一撫でした手が、名残惜しそうにすいと離れた。
…あれ、まろじゃん。
事務所に出勤する前に一つ所用を終え、昼前に電車でとある駅のホームへ降り立った。
降りた瞬間、向こう側に見える別路線のホームに見知った姿を見つける。
スーツをきっちりと着込んで、きっとこれから出勤するんだろう。
手を振ろうとして片手を挙げかけてから、不意に止めた。
「…まろ?」
ホームの一番端に立ち尽くすその姿に、違和感を覚える。
どちらかというとまろはいつも階段近くから電車に乗っていたはずだ。
こんな端っこまで来ることはあまりない。
ましてや通勤ラッシュの時間で階段付近が恐ろしく込み合っているというわけでもないのに。
俯き加減のその姿から、表情の細部までは伺えない。
それでも一応恋人という立場ではある。
いつもと違う雰囲気に気づいてもおかしくはなかった。
…何かが違う。
言葉では言い表せないけれど、まろを纏うオーラのようなものからネガティブな何かを感じ取ってしまった。
本当なら俺は、この駅の改札を抜けて外に出る。
でもこの時ばかりは急いで階段へ向かい駆け上がった。
続けて小走りに向こう側の階段を下り、まろのいるホームへ降り立つ。
そうして一番端まで足早に急いだけれど、何でこの駅のホームはこんなに長いんだろう。
すぐにでも駆け寄りたいのにもどかしく感じ、誰へ向けるわけでもない苛立ちが募る。
もう少しでまろの元へ着く。
そんな時、すぐ横の線路に電車が滑り込んできた。
ドアが開き、わっと人が降りてくる。
「ちょ、すみません…っ」
ぶつかりそうになりながらその隙間を縫い、慌てて先へ先へと急いだ。
発車ベルが高音で鳴り響く。
その瞬間、まろが一歩踏み出そうとしているのが見えた。
お前が乗るはずの電車はそっちじゃないよな?
その時にようやく気付く。あぁ、きっと精神的に疲弊しているんだろう。
俺が思うよりも、ずっとずっと深く。
最近仕事が忙しくて、毎日会えていたわけじゃなかった。
だけどまろのそんな大変な様子と、それを押し殺していたことにすら気づかなかった自分に腹が立つ。
それでも何とかその感情全てを押し込んで、手を伸ばした。
逆方向へ向かう電車に乗り込んでしまいそうなまろの腕をぐっと掴み、引き戻す。
行かせないよ。お前ひとりで現実から遠くのどこかへなんて。
行くなら俺も一緒に行くし、それでもきっと俺がそんなことを言えばお前は俺のためにここに留まるんだろうな。
「まろ、おはよ。今から出勤? おつかれー」
何も気づかないふりをして、俺は驚く恋人に向けてそう声をかけながら笑顔を見せた。
コメント
3件
非日常に淡い想いを抱いて反対の電車に乗ろうとする……何をすればそのようなストーリーを考えることが出来るのですか……✨✨ 電車自体が現実への道、非日常への道と…、分かれ道のようにも感じ取れるんです😖 桃さんが青さんのためを思うからこそ見切り発車がちになってそれを止めるために必然的にブレーキになる…というのもまた素敵です…😿💕 桃さんが青さんを支える、いつもとはまた違う青桃で新鮮でした、!!✨
あおばさんのこういう系の小説もいいですね... 青さんと桃さんのブレーキ、エンジンの関係とか、青さんの人間らしいちょっとした弱さとか、、 桃さんがそんな青さんをしっかりと受け止めて慰めて、止めずに、やりたいことをやらせてあげる、 みたいなの大好きです(*´`) 優しくて、でも少し切ない、素敵なお話でしたっ!、、
胸がぎゅっと締め付けられるような思いで拝読しました。。。 青さんの小さな一歩を、桃さんがそっと支えてくれる描写に強く心を動かされちゃいました🥲 人間らしい弱さをそのまま受け止める温かさが本当に素敵で、何度も読み返したくなる、優しさにあふれた素敵なお話でした(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎)