テラーノベル
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学校での学びを終え、お屋敷へと戻りましたわたくしは、本日も迷わず分厚い課題集と端末を手にいたしました。昨日の複素数平面に続き、本日は『高度微分積分』と『古典文学の長文解釈』の宿題が控えております。
「ふふ、本日もお庭の爽やかな風を感じながら、優雅にお勉強を済ませてしまいましょうね」
迷うことなく宿題データをVR装置へ送出し、ベッドの上でふんわりと横たわって『スイッチオン』。
まばゆい光の先に広がる『アルカディア』の中央広場へ降り立ち、すぐさま『はいしん』のボタンをポチッと押し込みましたわ。
『きたあああぁぁぁぁ!!』
『爆速宿題お嬢様ログイン!!』
『今日の宿題は微積と古典wwww』
『聖華女子のリアルタイム授業追体験配信草』
『お嬢様ごきげんよう! 聖華女子の在校生たちもコメント欄で待機してますわよ!』
「皆様、ごきげんよう。本日もよろしくお願いいたしますね」
わたくしが空間に美しい数式と古典の本文を浮かべ、膝の上に抱き上げたマーブルちゃんを撫でておりますと――
「――ちょっと待ちなさい kanaちゃん!!」
頭上からジャラジャラと重装備の音を響かせ、kagerou様が飛んできましたの。
「今日も宿題持ち込んで配信しとる……! いや、もう学校名モザイク処理しとるから身バレの説教はええ! それより今日こそは『セブンスマスター』の基礎、**【ジョブ切り替え】**を教えに来たんや!」
「まあ、ジョブ切り替え、ですの?」
kagerou様は真剣なお顔で、ご自身の頭上でくるくる旋回する武器のアイコンを指さしました。
「せや! このゲームはな、戦闘中に瞬時に『剣士』『魔法士』『聖職者』みたいに職業を切り替えて戦うのが醍醐味なんや! kanaちゃんはずっと『ビーストテイマー』一択やろ? 別の職も解放して、切り替えの練習を――」
「まあ、kagerou様。お心遣いは嬉しいのですが、わたくしは動物さんと心を通わせるこの『ビーストテイマー』がとても気に入っておりますの。他の物騒な武器を振り回す職に切り替える必要など、どこにもございませんわ」
わたくしが上品に首を傾げ、可憐に微笑むと、kagerou様は「ぐぬぬ……」と口ごもってしまいました。
「切り替えへんかったら、不遇職一択の過酷な縛りプレイのままやぞ!?」
「ふふ、マーブルちゃんがいれば十分ですものね?」
「ワンッ!(プルプル)」
膝の上のマーブルちゃんが可憐にひと声鳴いてしがみつくと、コメント欄は一気に『切り替え不要!』『テイマー一択のお嬢様尊い』『kagerou諦めろww』の文字で埋め尽くされましたの。
するとその時、お隣で朱色の袴を風になびかせていたNatuki様が、重厚な低音ボイスで一歩前へお踏み出しになりました。
昨日は「御意」としかおっしゃらなかったNatuki様ですが、本日は違いましたのよ!
「――kagerouよ、控えよ」
「はぁ!? Natuki、お前やっと喋ったと思ったら上から目線か!?」
Natuki様は威厳に満ちた佇まいで静かに刀を鞘へと納め、わたくしの前に深々と跪かれました。
「kana様がビーストテイマーをお望みならば、他の職など一切不要! 我ら親衛隊が、あらゆる敵を討ち払う剣となり盾となれば良いだけのこと……!」
Natuki様は力強い眼差しでわたくしを見上げ、朗々と宣言なさいました。
「これよりこのNatuki、言葉を削ぎ落とすのみにあらず! **『姫の御心に従う!』**――ただそれだけを我が唯一無二の信念といたしましょうぞ!!」
「まあ! 『姫の御心に従う』……! なんて情熱的で素敵なお言葉でしょう!」
「いや進化の方向性おかしいやろーーーっ!!」
kagerou様の悲鳴のようなツッコミが広場に響き渡ります。
「『御意bot』から『姫の御心に従うbot』にジョブチェンジしただけやないか!! 誰も俺の言うこと聞かへん!! このパーティーまともなゲーマーおらんのかーーーっ!?」
『姫の御心に従う! 爆誕wwwwww』
『Natukiの忠誠心が天井突き破ってて草』
『kagerouのジョブ切り替え指南、一瞬で却下されて草』
『お嬢様「切り替え? 必要ありませんわ(微笑)」』
頭を抱えて「もう好きにせぇ……」と崩れ落ちるkagerou様。
わたくしは「ふふっ」と微笑みながら空間の宿題へと視線を戻し、微分の導関数をスラスラと模範解答通りに書き進めていきました。
「さあ、Natuki様。わたくし、本日のお勉強が終わりましたら、またあちらの綺麗な森林でお散歩をしたいと考えておりますの」
わたくしが問いかけますと、跪いたままのNatuki様が重厚なお声で即答なさいました。
「――姫の御心に従う!」
「まあ、頼もしいことですこと。ふふ、マーブルちゃん、本日も皆様と一緒に、とても優雅で賑やかにお勉強が進みそうですわね」
「……くぅん(プルプル)」
呆れ果てるガチ勢のkagerou様と、絶対の忠誠を誓うNatuki様、そしてコメント欄の温かい指南役様方に見守られながら、わたくしとマーブルちゃんの「お庭での優雅なお勉強タイム」は、本日も大盛り上がりで続いていくのでした。
「まあ……『高度微分積分』の極限値も、美しい極限へと無事に収束いたしましたわ」
空間に浮遊させた課題ウィンドウへ、最後の模範解答をサラサラと完璧に書き終えましたわたくしは、満足げにひとつ吐息をつきました。
その時です。
「――ちょっと kanaちゃん!! 噂を聞いて飛んできたバッテン、今日も学園の宿題を展開しとるって本当かい!!」
「ごきげんよう kanaちゃん! ちょっと、私が専用装備を仕立てている間にまたそんな……! 画面の端に古典の教科書の出版会社と番号がチラッと映っていたって掲示板で大騒ぎになってますわよ!?」
重鎧を響かせて空から舞い降りてきたドラゴンテイマーのm@rio様と、両手に大量の仕立て道具を抱えたトップ生産者のRico様が、息を切らせて駆け込んできてくださいましたの。
お二人とも、お顔を真赤になさって身を乗り出してまいります。
「kanaちゃん! 何度言ったら分かるとね!? ネットの世界で学校や個人情報が特定されたら、どんな危険な目に遭うか……! 今回ばかりは本当に反省して、宿題の持ち込みはやめなさい!」
「そうですわ! Ricoお姉様も大反対ですわ! いくら私特製の超高性能ドレスを着ているからといって、リアルの個人情報は守れませんのよ!?」
お二人の真剣で必死なお説教。
ですが、わたくしは少しも動じることなく、上品に両手を胸の前で重ね、可憐に微笑みをお返しいたしました。
「まあ、m@rio様、Rico様。わたくしをそんなにご心配くださって、ありがとうございます。ですが……」
わたくしは首をちょこんと傾げ、ふふっと可憐に首を振りましたの。
「学友の皆様にもすっかり知れ渡ってしまいましたし、今さら隠したところで意味などございませんわ」
「「学友に知れ渡った……!!????」」
m@rio様とRico様がハモりながら目を見開かれました。
「ええ。今朝、学園に参りましたら、生徒会の莉乃さんをはじめ学院中の皆様が『配信を拝見しましたわ』『本物の爆速宿題お嬢様ですのね!』と、とっても好意的に応援してくださったのですのよ」
「……あ、もう手遅れやった……」と膝から崩れ落ちるm@rio様。
「学園中で公認の配信……!? どんなお嬢様学校ですのそれ……!」と額を押さえるRico様。
わたくしはやんわりと、ですが堂々と胸を張って微笑みました。
「ですので、恐れることなど何もありませんの。隠すのではなく、堂々と皆様と『お庭』の楽しさを分かち合えばよろしいのですわ」
「だ〜か〜ら! 開き直り方が堂々としすぎなんやって!!」と横で頭を抱えるkagerou様。
そして、すかさず跪いたNatuki様が、重厚な低音ボイスで朗々と叫ばれました。
「――姫の御心に従う!!」
「お前はもう黙っとけーーーっ!!」
『学友に知れ渡ったから今更wwwww』
『お嬢様、外堀から全開で埋まってて草』
『聖華女子学院公認の爆速宿題お嬢様 Vtuber 誕生の瞬間である』
『Natukiの「姫の御心に従う!」のレスポンスの速さ完璧すぎて腹痛いwww』
コメント欄が大爆笑に包まれる中、ふと、わたくしたちの前に静かな影が降り立ちました。
幾重にも重ねられた漆黒の魔導書を浮遊させ、大きな三角帽子を目深にかぶった、知性漂う魔法士(メイジ)のお方――知識系プレイヤーの**mira**様ですわ。
「……ハァ……ハァ……」
mira様は眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせ、早口で何かをブツブツと呟きながら、わたくしとマーブルちゃんへとにじり寄ってまいりました。
「……待って……無理……尊い……。じゃなくて……ッ!!」
mira様はガタガタと手元の透明なログウィンドウを高速でスクロールさせながら、頭を抱えて叫び出しましたの!
「なになに何このデバフ数値!!? 昨日のバトルログと配信アーカイブの数値を解析したんだけど、マーブルちゃんの『あざtoi威嚇(キュン♡)』の発動時、周囲の敵ユニットに対する攻撃力低下倍率【99%】!? おまけに耐性無視の『戦意全喪失』付与って何!!? 公式の仕様バグでしょこれえぇぇぇ!!!」
「まあ……? 仕様バグ、ですの?」
オタク特有の超高速早口で捲し立てるmira様に、わたくしは優雅に首を傾げました。
「何言ってるの kana様!! 公式のデータテーブルのどこを探してもこんなぶっ壊れ倍率のテイマー技能存在しないの!! 尊さとあざとさで物理法則とゲームシステムが崩壊してるの!! 脳がバグる!! 助かる!! 尊すぎて無理!!!」
「落ち着けmira!! 語彙力消失して解析になってへんぞ!!」とkagerou様が突っ込みます。
mira様はハッと我に返ると、メガネをクイッと指で押し上げ、真顔でわたくしの前に膝をつきました。
「……決めました。kana様。このmira、本日よりあなたの配信のヘビーリスナー兼【裏のモデレーター(管理役)】として立ち回らせていただきます」
「まあ、モデレーター様? 裏のお手伝いさんかしら?」
「ええ! あなたの放つ圧倒的な尊さと無自覚な個人情報から、このコメント欄と裏のデータ戦線を完璧に防衛してみせます! 荒らしや不審者は私が速攻でBAN(永久追放)しますので、どうぞ安心して『お散歩』をお続けください……!!」
「まあまあ! なんて頼もしい分析系の指南役様でしょう!」
わたくしが感動して手を叩くと、膝の上のマーブルちゃんが「……くぅん(プルプル)」と可憐に首を傾げました。
「――ッッ!?(尊さで脳が焼き切れる音)」
mira様は「尊い……助かる……」と白目を剥いてその場に倒れかけましたが、即座に魔法陣を展開して体勢を立て直し、手元で高速でコメント欄のモデレーター権限を起動なさいました。
ツッコミ役のkagerou様、胃を痛めるm@rio様、お洋服とペット用品を錬成し続けるRico様、全肯定の忠臣Natuki様、そして裏から守る最強の分析官mira様。
最強(?)の親衛隊に見守られながら、わたくしとマーブルちゃんの「お庭(セブンスマスター)」での優雅な日常は、さらに賑やかさを増していくのでした!
コメント
1件
うわー、今回もめちゃくちゃ楽しかったです!Natuki様の「姫の御心に従う!」が完全にジョブチェンジしてて笑いました。kagerou様のツッコミが毎回冴えてますね。それに新登場のmira様、マーブルちゃんのスキル解析であの大興奮、すごく共感しました。ゲームのシステムを深掘りする視点が好きな私としては、あのデータ解析シーンに心臓掴まれました。学園中にバレて「もう隠す必要ないわ」って開き直るお嬢様の図太さも素敵。戦闘なくても日常配信だけでここまで盛り上がるの、キャラの掛け合いの巧みさだと思います!